ホームスパンという言葉を聞いたことがありますか?
ホーム=家庭
スパン=紡ぐ
海外で生まれた技術がいまや日本の伝統産業として
継承され、その技は世界トップレベルのファッション
ブランドからも厚く信頼されるほどです。
ホームスパンとは、文字の通り"家庭で紡ぐ"糸という意味です。
元は家庭で紡いだ糸で織った織物の総称ですが、
現在では太い紡毛糸を使用した、ざっくりと
粗い目の織物のことを指しています。
生まれはスコットランドやアイルランドで、
1800年代、各家庭で糸を紡ぎ織物を織るのは
冬の時期の仕事だったそうです。
自分たちが着る、寒さ厳しい地域の農民や
漁師の防寒着としての織物でした。
明治10年頃に、イギリス人宣教師によって
ホームスパンの技術は東北に伝わります。
当時は軍服用の毛織り物の需要が高く、綿羊飼育が
推奨されたことでホームスパンの技術は東日本に広く伝わりました。
しかし、第二次世界大戦時には羊毛は軍需物資として
軍に管理されホームスパン生産は規制され、多くが廃業します。
休眠状態だったホームスパンが再興したのは戦後です。
岩手のホームスパンは伝統産業として守られたために、
技術を伝えさらに発展させていくことが出来ました。
(いまでは国内生産額の約8割を岩手が占めています。)
そして元々技術が伝わったスコットランドのホームスパンも、
紡ぎや織りの機械化により、段々と消滅していきます。
そのためホームスパンは、スコットランドより伝わり、
岩手で育った産業と言えるのです。
ホームスパンは元来、「家庭で紡がれた糸と織物」
という意味で、手紡ぎ・手織りという意味を
含んでいた訳ではありませんが、
段々とその言葉は広義なものになっていきます。
現在はツイードと呼ばれるざっくりとした
風合いの織物のことを総称する呼び名になっています。
岩手のnihon home spun(日本ホームスパン)は
スコットランドから伝わった技術を発展させ、
機械化による品質の安定という価値を付加しました。
nihon home spunが目指すのは、手紡ぎ・手織りが持つ
風合いや質感を、量産出来る技術力を備えたメーカーであること。
旧式のシャトル織機を改良し、本来であればスピードが
利点であるはずの機械で、逆にゆっくりと織ることで
手紡ぎ・手織りの風合いを持つ織物の生産に成功します。
ただの量産のためのスピードアップではなく、
手織りの風合いを生かすスピードダウンを取り入れ、
糸に過度なテンションを掛けずに織ることでふんわりと
柔らかい肌触りに。かつ、手織りの際は人間の手の幅の
長さ分しか作れなかったのを、機械化することで広い幅の織物の
生産を可能にし、文字通り製品づくりの幅を広げてきました。
もちろん、機械化に成功しても職人の手を掛けるところは
その技術の継承にも力を入れます。
ninon home spunの「変わることを恐れない」ことの原点に
あるのは、「絶えず新しいものを作り出す活動をしていきたい」
という想い。その想いが、新しい技術や独自性のある製品
づくりにつながっています。
ninon home spunでは、手織りの風合いを残した機械織りを
導入しているとご紹介しましたが、もちろん手織りでの
製作も行っており、現在ZUTTOでご紹介している
別注品のマフラーも手織りです。
その工程をご紹介致します。
染色
ホームスパンは先染めです。羊毛の段階で毛を染め、
それを糸にしていくのです。
1-2時間かけて染めたものをよく乾燥させます。
カーディング
からまった繊維を梳かして整える、という作業です。
短い針がたくさんついたローラーに通し、繊維の流れを
一定方向に梳かしていきます。
この時、様々な色を組み合わせて一緒に梳かすことで
色を作っていくのですが、1本の糸の中にも様々な
色が混ざり、織り上げた際に奥深い色合いが表現出来るのです。
糸を紡ぐ
カーディングされた羊毛を左手に持ち、右手で撚っていきます。
繊維の量を調整しながら行わないと一定の細さにならないので
職人さんの腕が光る場面です。
糸巻き
出来上がった糸をきれいに管に巻いていきます。
綜絖通し
縦糸を織り機にセットします。1本1本の糸を綜絖(そうこう)
という針金状のものに刺していきます。
織る
織るという作業は、張られた縦糸に緯(よこ)糸を通していくもの。
シャトルに緯糸を設置し、縦糸に対して縦糸を右へ左へ通していきます。
糸の太さのむらや力の加減を調整しつつ、1枚の織物として一定の
ものが出来上がるよう丁寧に織っていきます。
ninon home spunのマフラーは、太い糸と細い糸を
組み合わせたり、糸の材質や質感の異なるものを組み合わせる
ことで見た目にも触り心地にも変化をつけています。
よくよく織り目を見てみると、ぽこぽこと太い糸が見えていたり、
ネップ(ウール繊維の小さなかたまり)が飛び出したように
織られているところも、織物として表情に奥行きを
与えています。均一でないことの心地よさや優しさを感じる、
そんな織物なのです。
使用する際の注意点は3点、
1.ひっかけ
2.ピリング
3.洗濯
です。
1.引っ掛け
織り目を見ると分かるように、ホームスパンの特徴として
ざっくり織られています。糸に余計な負担を掛けることなく
織るので空気を含む、ふんわりと柔らかい肌触りになる反面、
言い換えると「引っ掛けやすい」のです。
コートについているファスナーの持ち手部分や、カバンの中に
入れた際に中のもので引っ掛けないようにお気をつけください。
2.ピリング
ピリングとは、毛玉のことです。
ウールがメインの織り物なので使用していくうちに毛玉は
発生してしまいますが、その場合は引っ張らずに小さなハサミで
切ってください。
また、毛玉を防ぐために、使用後はブラッシングを行い
毛の流れを整えていただくのが効果的ですが、その場合は
柔らかい馬毛のブラシを使用してください。
堅めの豚毛ですと、織り目に入り込んで目が大きくなってしまう
可能性があるので注意が必要です。
3.洗濯
目が詰まっていないので、洗濯をすると縮んでしまう可能性があります。
ご自宅での洗濯ではなく、ドライクリーニングがおすすめです。
ninon home spunのマフラー、ZUTTOでは別注デザインを
ご紹介しています。
長すぎずコンパクトに巻けるデザインなので、男性がスーツに
合わせるのにもぴったりで、バレンタインの贈り物としてもおすすめです。
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