今回のテーマは、「ファクトリーブランド」の魅力。
雑誌の特集やセレクトショップの商品紹介でも
ファクトリーブランドという言葉はよく目にするようになりましたが、
具体的にはどんなものづくりを「ファクトリーブランド」と位置付けるのか、
そしてどんな特徴や魅力があるのかを考えてみると、意外と奥が深いのです。
ファクトリーブランドについて考える前に、
まずは「ブランド」とは何か考えてみます。
私たちが持っている服やバッグにはブランドタグがついていて、
そのブランドネームがあることで
信頼や安心を感じるというのは、誰しも経験があるはず。
イメージしやすいのはラグジュアリーブランドと言われるような
ヨーロッパを中心とした高級服飾品で、
「長い歴史」「顧客との信頼」「クラフトマンシップ」といったイメージが
そのブランドロゴやタグに凝縮されているように感じるものです。
私たちがブランドに憧れを持つのは、もちろんそうしたブランドの
歴史や物語、品質の高さを信じているから、
つまりその「ブランドらしさ」が好きだからということに他なりません。
お金を払って購入する製品も、
目に見えない物語も
象徴となっているロゴやタグも、
それら全てがブランドを構成する要素です。
ただ、ロゴやタグがブランドそのものの象徴になり、
やがてその象徴が先行してイメージを形作るという側面も
あるように思います。
考えてみましょう。
「もしも、その服に、バッグに
ブランドを表すロゴやタグが付いていなかったとしたら?」と。
私たちは、ブランドのロゴやタグが付いていなかったとしても、
同じくらいの情熱をもって、その製品を好んで買い求めるのでしょうか。
例えば服やバッグを、「ワイン」に置き換えるとわかりやすいかもしれません。
ワインの場合、本質的に私たちが製品として享受するのはボトルの中身であって、
その味わいや風味だけ味わえれば良いということであれば、
ワインボトルに付いたラベルや、豪奢なパッケージは必要ないはずです。
でもやはり、せっかくのワインが、
のっぺらぼうなペットボトルに入っていたら味気ないですよね。
ワイナリーの名前が入った木箱を開けて、
ボトルに描かれた銘柄やビンテージをよくよく見てやっとコルクを抜く。
そんな一連の体験を含めて、私たちは「ブランド」を認知しているのではないでしょうか。
服やバッグに関してもこれと同じことで、
もちろん、ブランドロゴやネームタグではなく、
デザインや品質の高さに憧れて購入するというのが本質ですが
タグが付いていなかったら、ちょっと寂しいような気もします。
これは、ロゴマークやネームタグというのが、
私たちにとっての「ブランド」を形成する大きな要素の一つであるということを示しています。
このことをふまえて、
ファクトリーブランドについて見ていきましょう。
服、バッグ、アクセサリーのように一般的なファッションアイテムの多くが、
ブランドが決定したデザインを、自社工場で製造するか
もしくは他社の工場に依頼して製造したものです。
ブランドが自社工場を持っていて、製造までの一連の流れを
自社で賄うことが出来る場合もありますし、
自社工場は持っていながら、特殊な素材や高度な技術を要する一部の製品は
専門技術を持った工場に依頼して製造するという場合もあります。
この「工場」=「ファクトリー」なので、
ファクトリーブランドとはつまり、工場ないしメーカーが直接発信するものづくりが
ブランド化したもの、という意味になります。
通常は他のブランドが企画したアイテムの製造を請け負い、
対ブランドでビジネス展開するメーカーは、
原料調達の太いパイプ、素材の扱い方に関する知見、
縫製をはじめとする製造品質の高さという点でプロフェッショナルです。
そうした工場(ファクトリー)が自ら商品を企画し、
自社の強みである製造技術を活かしてものづくりを行うことで発信される
ブランドが、「ファクトリーブランド」と呼ばれているのです。
たとえば誰もが知っているラグジュアリーブランドからの依頼を受けて
製品づくりを行っているメーカーが作ったカシミヤストールや、革のバッグなどは
ブランドネームこそ違えど、素材や品質はもちろん一流です。
そういった点で、比較的手に取りやすい適正な価格で
高品質な製品が展開されているというのがファクトリーブランドの一つの特徴ですが、
コストパフォーマンスという点だけでなく、
長い間デザイナーズブランドとのやり取りで形成された「作り手」としての信頼感や、
難しい製造も一手に引き受けることで培われてきた技術力の高さという、
メーカーならではの物語がファクトリーブランドのアイデンティティと言えるのではないでしょうか。
縁の下の力持ちという立ち位置で、なかなかエンドユーザーの目に触れる機会のないメーカーも、
ファクトリーブランドとして自社のものづくりを直接発信することで、
顧客の反応を直接ものづくりに活かして、さらなる商品開発に活かしていくという
プラスの側面もあるようです。
そういった点で、工場が独自に発信していくファクトリーブランドは、
高品質なものづくりを行い、使い手に直接届けるという点で
安定的な生産を保ちながら行う、持続可能なものづくりが強みであるということが出来ます。
ここで幾つか、実際にファクトリーブランドを見ながら
その魅力と製品の特徴を見ていきましょう。
帆布の産地、倉敷で誕生したJoBu(ジョーブ)。
1933年創業の岡山県倉敷市にある株式会社バイストンから生まれました。
道具であった帆布の原点に戻り、天然素材による頑丈な生活道具を作りたい、
そんなプロダクトデザイナーと「倉敷帆布-バイストン」の出会いから生まれたJoBu(ジョーブ)。
シャトル織機とは、主にヴィンテージジーンズの生地などを織るのに使用されている織機です。
糸を行ったり来たりさせて織る、昔ながらの織機で、
空気で糸をとばす高速織機にはない独特の風合いがあり、
横糸が行き来する時の微妙なテンションのゆるみが
適度な糸の膨らみとなり、風合いを生み出すと言われています。
また、織物の両端に耳(セルヴィッジ)が出来るということも特長の一つです。
一点一点、優しく織り上がる倉敷帆布は、
外国産帆布では決して表現出来ない風合いが味わえます。
1879年の創業以来、ハンカチやホームテキスタイル等日常生活や
ファッションに密着した繊維製品を提供してきたblooming(ブルーミング)。
1枚の布を原点に、人々の生活をどれだけ豊かにすることが出来るか。
ハンカチの細やかな刺繍は、そう問い続ける作り手の想いを感じさせます。
百貨店のハンカチ売場に行くと、
様々なブランド刺繍の入ったハンカチがずらりと並んでいますが、
その大半はblooming(ブルーミング中西)が手がけているということも多く、
実は知らぬ間に使っていたかも?というくらい、実はポピュラーなハンカチメーカーです。
bloomingの強みは、なんといっても
様々な要望に合わせてオーダー可能なアイテムの豊富さです。
これは、様々なブランドの要望に添うように
ハンカチ生地や刺繍のバリエーションを増やしてきた
メーカーならではの持ち味と言えます。
糸の力でゼロから新たな価値を創造するというコンセプトを掲げる000(トリプル・オゥ)。
ブランドの母体となっているのは、
群馬県桐生市で明治10年(1877年)に創業した、老舗刺繍店「笠盛」。
笠盛は創業から桐生の伝統技法をベースとしてものづくりを行い、
1960年代からはジャガード刺繍機を導入し刺繍業に取り組んでいます。
和装から洋装まで、あらゆる衣料加工に取り組み、独自技術の「カサモリレース」を開発するなど、
最新鋭のテクノロジーと熟練の職人の手によりものづくりを行なっています。
技術力の高さは、海外の一流メゾンから声がかかり、その刺繍技術を提供するほど。
世界的にも類を見ない美しい刺繍の仕上がりは、老舗刺繍店だからこそ成せる技なのです。
光が当たるとシルクがほのかに光沢を見せ、美しい色が浮かび上がります。
このSphere silkシリーズは、球体の中身まで全て糸が詰まっており、
何度も何度も繰り返し刺繍を施すことで立体的な造形を可能にしているのですが、
美しいシルエットを実現するのに職人の緻密な調整が必要なのだとか。
Yarmo(ヤーモ)は、1898年にイギリスのグレートヤーモスにて創業されたファクトリーブランド。
元々は、ニシン漁に従事する人に向けたスモックタイプのエプロンや上着を手がけ、
イギリスの港まわりに多くの店舗を持っていました。
過酷な環境である海の上で働く人々のためにつくられたワークウェアは、
その丈夫で保温性の高い生地と、動きやすさを考慮した優れたパターン、
実用性の高いデザインなどから、現在は漁業関係にとどまらず、
他職種のアーティストや職人達からも愛されています。
英国国防省をはじめ、有名オイルメーカーや医薬品メーカーなど、
様々な企業の制服も手がけており、イギリスのワークウェアの代表的なブランドとなっています。
2000年にロサンゼルスでJose MunozとGonzalezが創業した
USAのハンドメイド・プロダクトを生産するファクトリーブランド、
HERITAGE LEATHER CO.(ヘリテージレザー・カンパニー)。
長年アメリカの歴史あるツール用品メーカーで工場長を歴任した経験を活かし、
アメリカ製のリアルワーカーに信頼されるタフな商品を生み出しつつ、
タウンユースでも使える商品への進化を続けることで、
伝統あるアメリカのファクトリーブランドの歴史を未来へと繋いでいきます。
バッグに使われているキャンバス生地は、
アメリカのファクトリーブランドならではの、18オンスという、
とても厚手で丈夫な素材です。このタフな素材をしっかりと縫い上げる
熟練の職人によるハンドメイドへのこだわり、
シンプルだがクラフト感に溢れるものづくりが、
使っていくごとに感じられる安心感と愛着へつながります。
ここまで、ブランドとは?という点からスタートし
いろいろなものづくりを例にファクトリーブランドの特徴を見てきましたが、
・ファッションの世界で、デザイナーズブランドの要望に合わせたものづくりにより培った技術力を生かす
・工業や漁業など、人々の仕事を支えるための質実剛健なものづくりを生かす
という2つの方向性があり、どちらもメーカーとしての技術力を
そのまま活かしたものづくりであるということが分かりました。
帆布・革・絹など、素材は違ってもそれぞれに歴史に裏付けられた品質があり、
持続可能なものづくりを行っているという共通があります。
そういった点で、メーカーが直接発信するファクトリーブランドのものづくりは
ずっと愛され続けるものづくりだと言えるかもしれません。
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