ガーゼに触れると、心がほぐれるような優しい気持ちになります。ベビーウェアとしてよく使われるガーゼを、肌触りの良さをそのままに大人も着られる服にしたらどうか。そんな気持ちから生まれた、ガーゼウェアの第一人者とも言えるao(アオ)は、新潟県の縫製工場から生まれたファクトリーブランドで、リピート購入されるブランドファンの方も多くいらっしゃいます。
今回、別注のなめらか天竺 ロングTシャツご紹介にあたり、aoのことをもっと知りたいという気持ちから、改めてブランド代表の五十嵐さんにお話を伺いました。
ピックアップするのは「なめらか天竺」シリーズ。コットン100%の極細の糸で編んだなめらかな薄い生地2枚を1枚に仕立てたシリーズで、ふんわりと空気を含んだ柔らかさの中に肌表面をさらっと優しく撫でてくれるような爽やかさもあって、これからの季節に活躍してくれそう、と選んだものです。
今回、別注で作っていただいたなめらか天竺 ロングTシャツ
まずは別注のロングTシャツ。企画担当がなめらか天竺のカーディガンを愛用していたこともあり、より肌に近いところで素材の良さを実感できるアイテムを、とお願いしたのが別注のロングTシャツにつながりました。
首元はほどよく詰まったクルーネック。一枚で着ても違和感なく、重ね着もしやすいベーシックな形です。aoでは通常展開されている8分袖Tシャツをもとに、別注では10分袖に。そのため肌寒い春先のインナーとしても選びやすいと思います。より長い期間にわたって着られるように、そして「インナーとしても着られて、一枚でもOK」というロンTにしたのが今回の別注アイテムのポイントです。
暖かくなってきたら一枚で。
カラーはベーシックな白と黒です。色違いで揃えるのもおすすめです。
左から時計回りに)新色の鉄紺、黒、常盤
もともとお取り扱いしていたカーディガンを、色を増やしてご用意しました。着まわしがしやすいように、余計なデザインをせずシンプルにまとめています。軽くて畳むと小さくまとまるので、旅行などに持ち歩くのにも重宝します。
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それではここからはブランド代表の五十嵐さんへのインタビューをお届けします。
「ブランド誕生からかなり近い時期に生まれたシリーズです。今ではaoの年間販売量4割程度を占めるメインの素材になりましたが、シリーズの立ち上げのときはガーゼであることに加え、今まで縫製工場ではほとんど扱ってこなかったカットソー(編み物)なものですから、本当に苦労しました(苦笑)。
なめらか天竺シリーズは4回ほど改良しました。前提としてガーゼは扱いがとても大変なもので、一般的に流通している服では聞かないほど縮率が高いんです。」
「はい。ロットによっても縮率は違いますが、縦横合計で30〜40%で縮んでしまうんです。縦横に15〜20%くらい縮むという計算で、着丈で7、8cm縮んでしまう。一般的には5%くらいの縮率が限度とされています。
縮率の高い素材を扱うには、縮率防止剤を使うという対策もあるんですが、それだと私達が大切にしている『ガーゼの肌触りの良さ』が損なわれてしまう。だからそれは選ばずに、一つ一つの工程で調整することで実現できるようにしていきました。
今回の別注ロングTシャツの製造風景。一貫して生産管理を行うからこそできる服作りです。
結果、今では製品染めをして、縮率を加味して横縦方向で1.5%程度の縮率にするまで安定させたんです。大事にしているのは、加工を極力減らすことです。当時は生地屋さんにも『本当に何もしないでいいの?』と何度も念を押されましたね。これだと製品にならないのではと。それぐらい、加工された生地というのが一般的なんです。
開発時は、その生地を受け取ったあとに、私達がひとつひとつ縮率を測りました。そして、出てきた縮率を加味して毎回パターンを組み直します。さらに縫製してあがってきたものを、洗う前、洗った後で採寸してサイズのデータを蓄積させていき、具体的に何が寸法をあげるために(縮率を少なくさせるために)大事なのかを研究、積み上げてきたんです。
細かいところをいうと、原反をかさねていくときのテンション(圧)、それと縮率をはかったときのテンションも一定でないといけないし、縫製したときの針の針目の数、縫い芯、手の引っ張り方、まで。かたや縮むだけはなく縫ったところは縮みにくいので、そういったことも加味されている。また、染料によっても変わります。
なのですべての工程がつながってこないと、『肌触りのよさ』は実現できません。一見簡単にできそうなものですが、なかなか難しいことなんです。こういった工程を踏んで出来上がった生地の良さが、お客様にも伝わって、リピーターの方が多い現状につながったのではないかと思います。」
ミシンに貼られたシール。道具も愛着を持って使われているのが伝わってきます。
「はい。『生地の風合い』を最優先することはずっと軸としてあります。生地になるべくストレスをかけないよう、本来の優しい風合いを手にとって、着て、感じていただきたいと思っています。素材につける糊(のり)一つとっても、なるべく生地を傷めない種類のものを選び、落とし方も指定して依頼して。極力服がリラックスした状態になるよう、各工程で気をつけています。」
「縮率を安定させるというのは前提としてあって、その前段階の素材はこの18年で累計100種類くらいになりました。今それで展開している商材の8割くらいがうちのオリジナル素材になっています。中には糸、織り方からうちのオリジナルで指定して作ってもらっているんです。」
「一つは、二重の天竺素材になっていて、肌側はスーピマコットンですが、表はスーピマのスラブ糸を使っています。ムラのあるスラブ糸をあえて使うことで表情を出しています。さらに縮率が入ることでシボが入ると。あと、表面の斜めジワもありますよね。
シボのある表面。
これを出さないようにすると、何か加工して抑えるようにしないといけないので、それはしていません。また、天竺素材で丸編みなので、特性上そもそも斜行する素材なんです。この斜行をおさえるために、裏の撚糸(糸に撚りをかけること)は逆回転しているものを入れています。あと、通常の天竺とは違って、間隔の広いゲージで編み立ていくことで、甘い密度でガーゼの編地になるという。それでガーゼ天竺と呼んでいます。編み機も通常やらないような設定です。」
なので、この表情感は、ムラ糸と、縮率の縮みによるシボと、天竺特有の味のある斜めジワから出来ているものです。こぼれ話ですが、当初、天竺で何もつけずにと指定だと、縫製もできないような、シワではなくてタックのようなものがたくさんあるものがあがってきてしまって、本当に大変でした(笑)。何度もやり取りをしてようやくできた生地です。」
「はい。生地屋さんにもたくさん助けてもらいました。様々な知識を教えていただいて。当時の担当さんがいなかったら、今のaoはないだろうなというくらいです。」
「はい。ブランド誕生から18年目になりました。aoを生んだ縫製工場、美装いがらしにいたっては創業から55年ほどになりますが、aoのスタート前は他社さんのOEMを中心にしていて、主にブラウスを手掛ける縫製工場でした。
縫製を長年行ってきた、新潟の縫製工場「美装いがらし」さん。
2005年当時を振り返ると、今のaoとは少し離れた、機能性をうたった事業も行っていました。世間には海外生産の波がきていて、コストで戦わないといけなかった時代です。それで我々がとったのが、自社の技術を活かしたファクトリーブランドの立ち上げだったんです。」
「軸としてあったのは『天然素材を大切にしたい』ということでした。そこに、立ち上げ当初のディレクターの『天然素材なら、ガーゼが面白いのでは?こんなに肌触りがいいものを、大人の洋服にしてみたらどうだろう』という着眼点から今のガーゼウェアにつながったんです。
当時ガーゼの洋服って数が少なかったので、肌触りがいい洋服があったらお客様にも喜んでいただけるのではないかと。素材特化のブランドって、当時は珍しかったんです。扱いが大変ということもあって、周りから至極反対されたんですが(苦笑)。」
「長年お付き合いのあった生地屋さんの協力もあって実現できたことが本当に多かったです。あとブランドスタート時は、他ブランドさんにコラボをお願いしながら展開することが中心で、それぞれの経験がaoの洋服づくりの骨組みになったこともあり、皆さんに育てていただいたブランドだと思っています。今では、工場の全体生産のうち3〜4割がaoの商品になるまでに増えました。」
「そうなんです。きっかけは2010年にパリで出店した際、スイスの女性のがん医療のドクターから『治療するときに肌が敏感になっている患者さんをなんとかケアしたい。とても触り心地がいいから使いたいのだけど、具体的な数値がわかる資料はあるか?』といった質問を受けたことでした。
資料はなかったですから、具体的にこたえられず。帰国後もその質問がずっとひっかかっていて、そこから着心地の数値化をすることで有名な大学へ訪問して実験をしてもらって。1年間、30〜40人の被験者の方に3回テストしてもらいました。」
「数値化したのは定番の40の二重ガーゼです。ストレスが『下がる』という結果が出たのは、当時うちが初めてでした。肌触りって『触る』方じゃないですか。これが身にまとうとなると『着心地』になる。
生地の加工、糸の織り方、パターン、縫製といったすべてにおいて、『着心地』をどうあげていくかをそのときに学ばせてもらいました。『着心地』に何が重要かというと『ストレッチ性』なんです。
縫製工場ということもあって強度を高めることが大事だと思っていた節があったんですけど、何重にも縫製された部分って、強度はあるけど、着ていてストレスになるのか、と気付かされました。素材にあった縫製、パターンの角度、着圧をどう感じるか、素材の肌触り、といった複数の要素が『着心地』につながる。すべての工程を管理できているからできたと思っています。」
aoの洋服はストレッチ性があり、身体にやさしくフィットします。
「このときの経験で、どこをどういうふうに作ったらいいか、どういう加工がよくないか、という点がアップデートされました。得た知識をもとに開発されていったものはすべてこの経験が生きていて、現在のaoの服につながっています。」
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