日本の四季は美しい。そう見聞きすることは非常に多いです。日本だけでなく海外にも四季は存在しますが、日本は島国という特徴や位置する緯度からその移り変わりがはっきりしているため、日本ならではの風土として根付いたようです。
春夏秋冬、それぞれの季節に合わせたしつらえ。空間に飾る花々を変え、お店ではお客様を迎える暖簾を変えたり。旬の野菜や海の恵みに舌鼓を打ったり。夏至や冬至といった二十四節気からも、季節の変化を感じ取る文化が昔から続いてきたことがわかります。そんな「日本ならではの四季」と「日本のものづくり」を、日々の暮らしの中で感じていただける、四季の茶筒とお茶セットが出来上がりました。
ZUTTOは「ずっと使いたいモノ」をセレクトの基準とし、数多くの商品を取り扱っています。その中でも「日本のものづくり」は長くお伝えしてきたテーマのひとつで、ZUTTOとしても手作りの温かみを多くの人に感じていただきたいという想いがありました。
そうして辿り着いたのが、越前和紙を使ったオリジナルの茶筒に奈良の大和茶を組み合わせた、四季の茶筒とお茶セット。
「お茶にする?」と家族や仲間が集まって一息する時間に、お茶を丁寧に急須で淹れることは、無駄を省きがちな今だからこそ大事にしたい時間。ZUTTOのお客様にも、この丁寧に作られたお茶セットを通してそんな時間が届けられたらという想いで、今回のものづくりの裏側をお話しします。
お茶編はこちら:奈良の大和高原、山添村で職人が育てる貴重な大和茶。>>
今回一緒に茶筒を作ってくださったのは、山次製紙所(やまつぎせいしじょ)さん。福井県で明治元年に創業された越前和紙、手漉き和紙の製紙所です。私たちがZUTTOらしい模様を作ろう、という話になった段階から、とても親身になって一緒に取り組んでくださいました。
私たちはZUTTOのコンセプトとお客様のことを細かに説明、それに対して山次さんの技術に基づくアイディアをもらって。和紙で表現するということでデザインの制約もある中で、何度もやり取りを重ね出来上がったのが、こちらの四季の茶筒です。
選び取ったのは4色。
華やかな春の景色を思わせるピンクに、夏の海や空のように爽やかな青、秋に色づく銀杏並木の山吹色、雪がしんしんと降る静かな冬の灰色。春夏秋冬、それぞれの色合いをまとった茶缶に入れる茶葉は、その時々の季節に合うものを選びました。
色合いで中身を判別できるという利便性ももちろんありますが、日本の四季が持つ美しい風景や描写を茶缶に落としこみ、それを食卓やお茶の時間にホッと一息つきながら感じて欲しい、という気持ちで、この4色を作っていただきました。
この凹凸のある仕上げが特徴の和紙は「浮き紙」というもので、山次製紙所さん独自の技法です。和紙ならではのざらっと質感もありながら、手にしっとりと馴染み、色の陰影が美しく表現されています。一般的なエンボス加工よりもエッジの精度が高く、立体的な表現となるのはこの「浮き紙」ならではの仕上がりです。
またこの柄、”ZUTTO”と読めるのが分かりますか?
日本古来からある吉祥文様には、同じ柄が途切れずにずっと続くものが多くあります。「幸せが続きますように」「ご縁が途切れませんように」との願いを込めたその柄の意味に惹かれた私たちは、これまでもその吉祥文様をラッピングの風呂敷の柄に取り入れるなどしてご紹介してきました。
▲包装紙でも同じ吉祥模様を使っています。
「ずっと愛着を持って長く使う」ことを由来としているZUTTOというブランドで、オリジナルの柄を作るのならばこれ以上にふさわしい柄はないと、”ZUTTO”の文字を使って吉祥文様を作りたいですとお願いしたのです。縁起のいい柄ですから、ご自宅用としてだけでなく、季節の贈り物やご挨拶品としてもお選びください。
柄のこのバランスに辿り着くまでに何度も調整を重ねています。読もうとすると、確かに”ZUTTO”だと分かるくらい。ぼんやり眺めるだけだと、なんだか素敵な柄ね、で落ち着く。ブランド名を主張するのではなく想いを伝えるため、そんな曖昧なバランス感で作っていただいた、大切な吉祥模様です。
越前和紙が生まれたのは、今から1500年も前と言われています。福井県の伝統工芸品で、古くから品質の高い和紙として選ばれてきた歴史があり、岐阜県の美濃和紙、高知県の土佐和紙と並び日本三大和紙に数えられています。用途は、公家・武家・寺社などの公用紙といったものから、襖(ふすま)や屏風に使われた鳥の子紙など。
山次製紙所さんは、その中でも彩色豊かな装飾を施した美術小間紙(びじゅつこまがみ)を手掛ける製紙所です。明治元年の創業から150年以上経った今も、受け継がれてきた道具を使い、時に修理をしながら日々手漉きで和紙を作られています。
ここからは、代表であり伝統工芸士でもある山下さんと、デザイナーの谷口さんへ伺ったお話です。
「紙漉きに欠かせない、水を変えることは朝必ずやることの一つですね。近くの井戸から汲んできて使っています。この辺りは一家に一つといっていいほど井戸があって。井戸水は地下深くを流れていますから、水道水と違って温度が一定に保たれているんです。」
「はい。ただ季節によって水の性質が変わるので、それに合わせて和紙の原料を少し変えることもやってます。あとはそれぞれ個人で漉きやすいように調整したり、色をしっかり出すために和紙の原料に繊維の長いものを加えたり。一年中紙を漉くので、使う材料、道具の保存状態にも気を配っていますね。
原料をかき混ぜる時に使う「かい」という道具。これは使用歴5〜6年ほどだそう。
他は、紙漉きの時間が大半を占めます。長時間腕を振っているので、腕がよく鍛えられます(笑)。
私達が気を付けているのは、常に一定の力加減を続けるということ。その上で力加減で色の載せ方を調整することもあります。色を作るのもすべて手加工なので、同じ色の浮き紙でも全く同じものは存在しないというのは、この作り方だからですね。」
「はい。通常の和紙よりも時間はかなりかかります。普通の和紙だと、1日で漉くことができるのが1人あたり300枚、2枚を貼り合わせて作るものだと、その半分しかできません。浮き紙は2枚貼り合わせることはないものの、2日かけても100枚ほどしか作れないことがあるほど。特殊な技術で、乾燥や凹凸の具合を確認しながら製造するため時間がかかるんです。」
「そうですね。加えて言うと、越前和紙は他の産地に比べると、技術がものすごく多いと思います。例えば、1種類の技術で色を変えた見本帳を作れたり。紙ですから、元々はノートとして使うような普段使いするものだったけれど、そこに柄を入れようってなったのが越前和紙なんでしょうね。
実は福井の越前市には、日本で唯一、紙の神様が祀られている岡太神社・大瀧神社があるんですよ。紙漉きの起源にまつわる伝説も伝わっているようで。和紙のふるさと、という呼ばれ方もあります。」
「和紙は、楮(こうぞ)・三椏(みつまた)・雁皮(がんぴ)といった植物の靭皮繊維が主原料です。漉き方は幾つかありますが、越前和紙は手漉きが中心で、私達も手漉きで和紙作りをしています。
道具は有形文化財とされているものだけで、1500点ほどあるそうです。
「そういうことになりますね。伝統工芸なので、木の道具を、他の素材、例えば鉄とかに丸々替えるのはだめで。道具の多くは木から出来ていて、木材はほとんど杉だそうです。鉄やステンレスのものに替えると便利なのか、というとそうでもなくて、振るには重たくて今のような作り方はできないでしょうね。」
「よく皆さんが和紙作りで思い浮かべるときに使っているのが、この『漉き桁』だと思います。
いくつかの判があり、注文の紙に合わせて使っています。木とステンレスで出来ていて、越前和紙の漉き桁はこの組み合わせが多いようです。道具を作る職人に依頼し、修理をしながら大切に使っている道具です。これは10年以上使っていますね。
ステンレスは木同士を繋ぐ箇所など強度が必要な部分に使われていて、越前和紙が生まれた当初はなかったものですが、時代が変わるにつれて変化していったのかもしれません。他の産地では、銅や真鍮を使うことがあるとも聞きます。
続いてこちらは、竹を編んで作られた簀(す)。
こちらも、注文の紙に準じたサイズや模様のものを使います。糸のほつれや、折れた竹ひごを修理しながら長年使用していて、直しながら大切に使用していけば一生使えると聞いています。
あと、こちらは「圧搾機」といって、梳いた紙から水分を搾り取るためのもの。
漉いた紙を布と板に挟み、この圧搾機にかけてゆっくりと水を絞り出します。いつから使用しているのか、もう分からないくらい長く使っているものです。
工房の近くに道具を作ってくれる方々がいらっしゃるので、壊れてしまったときや調子が悪いなと思ったら直接相談にしに行き、直してもらってます。大事にしていく上では、しっかり乾燥させるというように扱い方も気を付けています。どの道具も、細かく修理をしながら長く、大切に使い続けているものです。」
「これは浮き紙のカードケースで、薄緑色のものが2年ほど、濃い茶色のものは4年ほど使ったものです。薄緑色の方は毎日鞄に入れて持ち運んでいたため、使用年数は短いですが擦れやシワが多く付いています。
左:愛用歴2年、右:愛用歴4年
こっちは、3年使ったものと6年使ったものですね。浮き紙は破れてしまっていますが、内側のこうぞ和紙は丈夫で破れていませんし、色は褪せていないんです。
左:愛用歴3年、右:愛用歴6年
こうやって見ると普段使いされてこそ味わいの出るものだなと思うんですよね。私達が和紙を作っている立場というのもあるかもしれませんが、『伝統工芸』とか『和紙』って使うのにハードルがある気がしていて。それをどうにかしたいと日々考えています。
もちろん長年受け継がれてきた技術はとても貴重なものですけど、使われないことには残っていかない。だから和紙のものを、皆さんの家の何処かに一つでも置いてもらいたい、と思って日々ものづくりをしています。この四季の茶筒もそうなったら嬉しいですよね。『伝統工芸』というところから『伝統産業』にシフトしていって、和紙がもっと身近な存在になればいいなと思っているんです。」
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そんな山下さんの想いをお聞きして、インタビューは終了したのでした。冗談を交えながら話してくださる気さくな人柄の中に、ものづくりへの真摯な姿勢と、「和紙のこれから」について深く考えてらっしゃったことがとても印象的で、日本の伝統的なものづくりについて、改めて考えることのできる貴重な機会となりました。
そしてこの「四季の茶筒」と一緒に用意したのは、日本茶の起源とも言われている大和茶。弘法大師が唐からその種を持ち帰ったことから奈良県で作られ始めたというお茶で、初めて頂いたときの一口目、口当たりまろやかで、なんとも心から清む特別なものを感じました。
用意したのは、こちらの4種類。それぞれ、茶葉(リーフ)とティーバッグを用意しました。
【春】一番煎茶
【夏】二番煎茶
【秋】和紅茶
【冬】雁金焙茶
上:和紅茶(秋)、左:雁金焙茶(冬)、右:二番煎茶(夏)
例えば夏の二番煎茶は、初夏に摘み取ったカテキンを豊富に含み、毎日飲むお茶として馴染みのある味。冷茶として頂くのもおすすめです。
次回のよみものでは、このお茶についてご紹介します。
ひとつずつ丁寧にセットしています。実は箱も、浮き紙と同じ福井県の越前漆器の箱屋さんに手作りしていただいています。
美味しいお茶の飲み方をまとめたリーフレットも同梱しますので、贈り物にもお選びください。
ブリキ製の内蓋があり、密封性の高い茶筒本体。お茶を美味しく頂くためには、開封後はなるべく早めに飲み切ることをおすすめします。お茶以外ですと、コーヒー豆や乾燥豆類、開封後のペンネを入れても良いですね。
日々使う食品の保管容器として使う他にも、内蓋を外し、個包装されたおやつを入れたり。
ペン立てなどの文房具入れにも。
日本のものづくり、日本ならではの文化を暮らしの中に取り入れられるよう、多くの人の手を渡って完成したZUTTOの四季の茶筒とお茶セット。皆さんの手元で、長くお使いいただけたら嬉しく思います。
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