好きな服ほど、気付けば手に取ってしまうことはありませんか? 好きだからこそ、着る頻度に比例して少しずつくたびれてしまい、他の服よりも早く着られなくなってしまう。だから服を選ぶ基準の中で「長く着られる作り」であることは大事で、たとえ少々値が張ったとしても、そういった服を選びたいと思うようになりました。
Jackman(ジャックマン)は、福井県発祥のファクトリーブランド。無償修理サービスという手厚いサポート、自社ファクトリーだからできる丁寧で長く着られる服づくり。生み出されるアイテムのルーツはすべて野球、アメリカンベースボールに由来します。
そのJackmanのロングセラーシリーズで長年の愛用者も多い「Waffle Midneck」は、ZUTTOでも長く取り扱っているブランドの定番品です。元々ある定番色とは別に、同じ形でも毎シーズン違った表情を見せてくれる限定のシーズンカラーをスタッフも楽しみにしています。
定番・IVORY
初めて限定復刻として過去カラーを生産いたただいたのが、昨年のこと。お客様から嬉しい反応があったので、今年は展開を増やして別の2色をピックアップしました。
24AWで復刻していただいた2色。(左:BUTTER、右:SOLID GRAY)
今年はSmoky PinkとSmoky Blueがブランドのシーズンカラーとして入荷。
復刻生産にあたりWaffle Midneckのことをより深く知るため、ブランドの展示会や恵比寿の店頭にも立ちながら、福井県の工場へも足も運び服作りを間近で見ている、ヒットユニオンの田後さんにお話を伺いました。
田後さん:
「ブランドの始まりについてお話すると、今ではヒットユニオンという社名ですが、元々は田辺莫大小製作所という横編み機3台だけを持つ小さな会社でした。それが、日本で一番最初に足掛け式のストッキングを作った会社となったんです。
戦後まもなくの頃、GHQのマッカーサーがアメリカから野球チーム(サンフランシスコ・シールズ)を呼んで、日本の野球チームと試合をすることがあったんですが、その試合を創業者である田辺貢がたまたま観戦しに行ったことがきっかけです。彼は大の野球好きで、それで田辺莫大小製作所を立ち上げたという経緯もありました。
その試合で、アメリカの野球チームが使っていた足掛け式ストッキングに注目して、これを自分の会社でも作れるのではないかと考えます。そして実際に生産をスタートさせ、甲子園に出場する高校球児に提供するまでになりました。
『Jackman』はホームランバッターという意味があり、創業者である田辺自身が60年以上前に立ち上げたブランドです。唯一残ったオリジナルブランドで、会社のDNAがそもそもアメリカンベースボールにある。だからJackmanのアイテムは野球からヒントを得て作られています。」
「1800年代後半ぐらいの、アメリカの野球選手が着ていたアンダーシャツがデザインベースになっています。ユニフォームの下に防寒のために着るサーマル素材のインナーですね。
襟を高くした形は、もともと防寒のためだったそう。(【限定復刻】BUTTER)
インナーという役割上、ヒントにしたオリジナルは薄手ですが、手に取っていただいてわかるようにWaffle Midneckは厚手ですよね。インナーをヒントに、一枚で着ても様になるようなものを、と作ったのがこのシリーズです。」
【限定復刻】SOLID GRAY
はい。設計上難しいところがあっても、福井県にある自社工場と相談しながら進めることで受けてもらえるということは大きいと思います。手間がかかる工程が多いんです。」
「まず、原材料はラフィー(落ち綿)を使っています。ラフィーとは綿を作るときに下に落ちる糸くずのようなもので、それを集めて糸にして編み立てています。なぜそれを選ぶかというと、ランダムで不揃いなので、糸にしたときに凹凸が生まれるんです。だから編み上げたときに豊かな表情、立体感のある表情になります。
Taupe
そして出来た生地は一度ロール状にします。そうするとロール中心部は生地が圧迫された状態になるわけです。それを防ぐために大きな生地をすべて開いて、一晩寝かせて、生地全体をリラックスした状態にさせます。これを放反(ほうたん)と呼びますが、大きなロール状の生地を開く手間、寝かせる時間、置いておく場所、となかなか自社でない限り、難しい条件だと思います。
この放反という工程が何につながるかというと、型くずれのしにくさです。洗濯を重ねても着用を繰り返しても、生地が伸びたり縮んだりということが起きにくくなります。」
「はい。あと、最大の特徴はリブです。特徴的な、針抜きの固めのリブを使ってて元々伸びにくいですが、着る上で大切なポイントは洗濯を重ねても『型くずれしない』ことですよね。このリブが、長年着ても綺麗に着られるポイントでもあります。
例えば、9月〜10月だとまだ暑い日があるので袖をまくることも多いですが、洗濯するとその伸びた箇所が戻るから、また整った形で着ていただけます。使っている糸が太いので、復元力が高い。」
Smoky Pink
Smoky Blue
「はい、違います。ただ身頃もリブも太番の糸を使っていて、リブの糸の方がより太いです。輪ゴムをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれませんが、細い輪ゴムより太い輪ゴムの方が戻る力が強いですよね。同じような原理です。
さらに型くずれしにくいための工夫として挙げられるのは、背中の部分です。背中の上半分は目が横に走っていて、下半分は縦に走っています。
IVORY
背中心で切り替えていますが、これは服の背面が負荷がかかりやすい場所だからです。座る、立つでも形が変わりますし、歩いたりリュックを背負ったりして、結構生地が伸びやすい。なので伸びにくいように、こうして切り替えることで面を小さくしています。工場は大変ですけど、このパターンにすることで伸びにくくなるという。デザインとしてもポイントになっています。
「Jackmanのラインだと40名程度です。複数種類のアイテムを一気に作るのではなくて、1週間に1〜2アイテム程度を仕上げるというサイクルで稼働しています。縫製を担当するのは女性で、生地を運ぶなど力仕事は男性と分担。Waffle Midneckのように縫い目が肌に当たらないフラットシーマは、2つの生地を横に合わせてその境目を縫い進めますが、コツが必要。作業するのはベテランの職人さんです。」
ここで、実際に愛用されている私物のWaffle Midneckを見せていただきました。
洗濯機使用、天日干し。液体洗剤で、柔軟剤も使用されているとのこと。
「IVORYは80回くらい、DARK NAVYは50回くらいの洗濯回数です。特にIVORYは変化がわかりやすいですね。洗剤の中に入っている漂白剤から新品より白くなっていて。いい味になっているなと思います。」
左:新品、右:お借りした私物(5年着用)
上:新品、下:お借りした私物(3年着用)
「そうですね。あと洗濯時のポイントは『洗濯後に形を整えて平干しすること』です。
洗濯後は少し縮んでいるので、整えないまま干すとそのまま縮んでしまったり。お客様からそういう声があるわけではないですけど、特に形をキープしたいなら『元の形に整えてから平干し』を推奨します。柔軟剤の使用については特に細かく案内はしてませんが、天然繊維なので使わない方が、綿100%である素材本来の柔らかさを感じていただきやすいと思います。
通常の着用で、縫製箇所の切れやほつれがあった場合は、使用年数に限らない無償の修繕保証サービスもあります。」
このタグが修繕保証サービスをお願いするときの保証書になります。
「元々丈夫に作っていることもあってか、相談はあって月に1度程度ですね。それも長く着ることでおきた擦り切れや引っ掛けなどで、ほつれはあまりありません。もし気になる点があれば、遠慮なくご利用ください。」
柔らかなイエローのBUTTERと、上品なグレーのSOLID GRAY。Jackmanらしく、2色とも野球に紐付けられています。
まず「BUTTER」は昔の野球グラブに塗るオイル(グリース)をイメージした色。
160cm・Mサイズ着用
コーディネートのポイントになるカラーです。(160cm・Lサイズ着用)
一方「SOLID GRAY」は、雨が降りそうでやきもきする野球場の曇天から着想を得たカラー。野球を愛するブランドならではの視点ですね。
160cm・Sサイズ着用
カジュアルになりすぎないよう調整された、品のあるグレー。(160cm・Lサイズ着用)
リピート生産の予定はない、今回限りの限定カラー。今季も楽しんでいただけたら嬉しいです。
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「長く着る」「型崩れしにくい」ことに重きをおきながら、ブランドのルーツであるアメリカンベースボールからヒントを得て、インナーを一枚で着て見せるという、Jackmanらしいあまのじゃくなものづくりも垣間見えたブランドインタビューでした。会社の皆さんが野球好きだそうで、野球を好きな気持ちと服作りの境界線がいい意味で曖昧であることも、Jackmanの服に遊び心を感じる理由なのかもしれません。
▼Jackmanブランドページ