ヴィンテージ、歴史を持つ洋服に宿るもの。効率や生産性を求めて画一化されたものづくりとは違う、何十年も使われることを見据えて設計された意匠、ある種の機能として付随されたディテール、年月とともに増した深みのある表情。人々のライフスタイルが変わると同時に洋服の在り方も変わっていきますが、それでも変わらない美しい何か、を持つものがヴィンテージの魅力ではないでしょうか。
2001年にスタートしたHAVERSACK(ハバーサック)は、キーワードのひとつとして「ヴィンテージ」を挙げています。先に挙げた半ば概念的な魅力を現代の服へ昇華させ、日本発のブランドでありながら、イギリスやイタリア、フランスといったヨーロッパでも継続的に高い評価を得ているブランドです。ZUTTOでは「日本の服作り」というテーマで日本のブランドに焦点を当ててご紹介していますが、今回はHAVERSACKの特集。ミリタリーアイテムの定番となったグルカパンツを別注生地で作っていただき、ブランドスタート直後から在籍されている村松さんにお話を伺いました。
HAVERSACKの始まりは、ブランドのデザイナーとなる乗秀幸次さんが、海外ブランド製品を日本に紹介する仕事をしていた中で、「永年に渡って変わらず愛され続けているものも、この世の中には存在する」と考え始めたこと。
『流行に左右されない、完成度の高いタイムレスなデザイン。長い間着ていても飽きることのないヴィンテージになりうる服に取り組みたい。』
そんな想いから立ち上げられたHAVERSACKは、ヴィンテージの他にも、ミリタリー、ワーク、ユニホーム、テーラードといった普遍的なキーワードから、独自の視点で現代のリアルクローズとしてコレクションを展開。時代や流行に捉われることなく、様々な着こなしで自分らしさが表現できる服を発表しています。
村松さん:
「スカートのようなアイテムは別にしても、基本的に変更している点はサイズだけです。元々がメンズのブランドで、ブランドとしてメンズとウィメンズを分けて考えることはせず、差寸や形はメンズアイテムそのままなんです。女性用に作りを特別に変えるといったことをしていないので、紳士服が持っている美しさ、格好良さのニュアンスをそのまま楽しむことができるラインだと思います。」
軍服にルーツをみるクラシックなアイテムが多い中、グルカパンツもその一つです。19世紀前半、イギリスと対立のあったネパールの兵隊であるグルカ兵が穿いていたパンツがルーツになったと言われています。
当時イギリス軍の方が数・資源ともにグルカ兵を遥かに上回っていながら、地形への知識や生まれた土地で培われた耐久力で一度イギリス軍を追いやったグルカ兵。最終的にはイギリスが勝利するもイギリスがグルカ兵の戦力を高く評価し、イギリスの戦力として軍務に参加する条約を結んだという歴史があります。
村松さん:
「グルカパンツは、バックル仕様(ベルト留め)のウエスト、ハイウエストで股上が深い設計、プリーツといった特徴的なディテールを多く持っています。ただ、今ではバックル仕様でハイウエストのものを広く『グルカパンツ』と呼ぶようになりましたね。」
「ブランド立ち上げ当初からコレクションに入っていて、毎コレクションとは言わずとも春夏になければ秋冬に、秋冬になければ春夏に、というようなペースでかなり定期的に扱っているアイテムです。すべてあわせると10型近くはあるかと。」
「そうですね。今でこそ定番アイテムとして定着しましたが、そのときは日常衣類として扱っているブランドはほとんど見かけなかったように思います。流れとして世の中にあったというよりも、オーセンティックなものとして存在していて、それを普段の暮らしに落とし込んだら面白いんじゃないかという感覚で。ちょっと変わったアイテムを展開しているというブランドの姿勢は、昔からあると感じています。
元々のグルカパンツはもう少し凝った作りで、パンツの内側に当たる部分の持ち出しが長くなっていて、さらにそのパーツが左右に付いていて、持ち出しパーツを穴に通し、両サイドをバックルで留めるという仕様。ブランドで最初に作ったグルカパンツもその作りだったんですが、お客様から『脱ぎ穿きしづらい』『お手洗いに行きづらい』とお声をいただきまして(苦笑)。普段着として落とし込んだ際、脱着のしにくさがデメリットになってしまったんです。」
脱着のしやすさを考え、持ち出しを片方に持ってきて簡易的な作りに。
「はい。あと着方も大きく違って、2001年頃だとタックインする方が少なかったですよね。グルカパンツはウエスト部分のデザインが特徴ですし、シルエットが綺麗に見えることからもタックインをおすすめしていたんですが、当時そう着られる方はあまりいらっしゃらなかったです。そもそもハイウエストのボトム自体が珍しく、どちらかというとローライズの時代だったので。」
「はい。グルカパンツとしては簡易的な作りと言えますが、普段着として使っていただきたいですから。あとは前後ろのダーツの取り方から、とても綺麗なシルエットで穿いていただけるパンツだと思います。ウエストまわりはぴたっとコンパクトに穿けて、ヒップトップから裾に向かってまっすぐ落ちていくシルエットが綺麗です。テーパードがぎゅっとかかったものが多い中、このシルエットはドレッシーに着ていただけると思います。」
「今回ZUTTOさんの別注パンツで使った生地は、60の双糸を使ったコンパクトギャバ生地です。インドの高品質を長綿を使っていて、かつぎゅっと高密度に織られていますし、平織りではなくてギャバ(綾織り)はやはり高級感があると思います。あとは光沢感が特徴です。」
「経(たて)糸と緯(よこ)糸に色の違う糸を使っているので、見る角度、光の当て方で表情が変わって見えるんです。カーキとブラウン、2色異なる糸で織られたもので交織(こうしょく)と呼びます。ちょっと緑っぽく見えるのはカーキの糸です。
生地の織り方・染め方として、染めた糸を織るものと、織った布を染めるものとがありますが、これは染めた糸を織っています。織った布を染めたほうが簡単でロスなく経済的と言われますが、染めた糸で織り上げた方が退色しにくい。使っていって極端に変化があるわけではなく、馴染んでいく生地です。かつ生地にコーティングをして作っているわけではないので、一度洗ったら表情が大きく変わるということがありません。」
「そうですね、ひとまず仕上がりだけ良くするためにコーティングされているものもあります。クリーニングでシャツに糊付けしてもらうイメージをしてもらうとわかりやすいでしょうか。そういうものってすぐ取れちゃいますよね。コスト重視で金額を抑えて作ろうとするとそういった加工が入ることもあるんですが、この生地に関してはコーティングなく、生地そのままの手触り、表情が楽しめます。なので変化も緩やかです。」
最初はドレスパンツらしくハリのある生地で、徐々に馴染んでいきます。撥水加工が施されているので、雨の日も選びやすい。
「そうですね。裏側を見ていただくとそれがわかりやすいかなと。パイピングで処理して縫い代がでないようにしていたり。ミシン目が細かい点も特徴だと思います。この細かさがヨーロッパらしいと言われるんです。HAVERSACKはヨーロッパのテイストを汲んでいることが多く、もっと粗い縫い目だとアメリカっぽい印象になります。どちらが良い悪いというわけではなく、テイストとして違うということです。」
後ろ中心の縦に入ったパーツは、昔のメンズのドレスパンツは着ていくうちに仕立て直しができるように付けられていた名残りだそう。(作り上、使うことはできません)
「こういった細かいところが意外と服の印象を変えるもので。ヨーロッパのテイストのもので縫い目が粗いとちょっとちぐはぐな印象になるんですよ。日本産だから丁寧というわけではなく、外国産でも丁寧なものはもちろんあると思っていて、細かく気配りをしていきたいというのが私たちのものづくりだと思っています。」
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今季はこの別注パンツ以外にもシャツやワンピース、アウターなど幅広いカテゴリーのものを取り扱っています。
2WAYで着られるデニムシャツ。(7.5OZライトデニムレギュラーカラーシャツ)
よりミリタリーの要素が強いダブルバックルのグルカパンツ。(ヘリンボーングルカパンツ)
生地をたっぷり使ったドレープの美しいワンピース。(ハイカウントタイプライター ギャザーロングワンピース)
裾を畳んで着丈を変えてしまう大胆な仕様。ギミックが楽しいアウターです。(高密度ドライタフタ アノラックパーカ)
長年大切にされてきた服、誰かから誰かへ受け継がれた服もヴィンテージです。新しいヴィンテージとなりうる服として、HAVERSACKのウェアを一度手に取ってみてください。
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