フィッシャーマンズセーターという伝統的なニットがあるのを、ご存知ですか。
中でも、アラン諸島という大西洋に浮かぶ島々で生み出されたニットをアランニットと呼びます。
今回は、大西洋の豊かな自然に育まれた
本場アイルランドのニットウェアブランド、INIS MEAIN(イニシュマン)を取り上げて
その歴史と伝統的なニッティングの魅力に迫ります。
まだまだ冬までには時間がありますが、
早めに準備したいのがマフラーやショールのようなニット小物。
今シーズンは、定番のメリノウールのニットに加えて、
さらりとした肌触りが心地よい、ベビーアルパカとシルクを混紡したシリーズも展開しています。
背景のストーリーまで暖かい、アランニットの小物で新しい季節の準備を始めてみませんか。
そもそも、アラン諸島とは「イニュシィア島」「イニシュマン島」「イニュシュモア島」の
3つの島を合わせた総称で、人口は3島あわせてもわずか約1400人。
こちらの写真の星印のあたりに、とても小さな島が3つ並んでいます。
右側の大きな島がイギリス本土、真ん中あたりの島がアイルランドなので、
大きさで比べてみても、とてもとても小さな島であることが分かりますね。
これらの島は寒さと海風が厳しく、農業に適さない土地で、アラン諸島の人々の生業は漁業でした。
大西洋の強風から身を守るために、島の人々が身につけていたのが、独特な網目模様の「アランセーター」でした。
アランニットの歴史は古く、もともとスコットランドの漁村のフィッシャーマンズセーターが、
アラン諸島に伝来したのち、アラン諸島に住むアメリカ帰りの女性の技術によって、
独特の編み方のアランセーターが誕生。そして1950年代になってハイブランドのデザイナー達が
このニットに着目し世界に広がったという流れがあります。
1960年から1970年にかけて、素朴ながら味わい深いアランニットはイギリス本土他、
世界のファッションシーンで注目されるとともに、
類似デザインのニットがアラン諸島の他でも大量生産されるようになります。
この時に広く認知されたデザインが、いわゆる縄目模様のセーターだったことから、
一般的には「アランニットといえば縄目模様」という風に定着している側面もありますが、
本来のアランニットには、素朴な幾何学模様やシンプルな編み方も多かったようです。
アランニットのストーリーを語る上でよく出てくるのが、
縄目の模様が家紋のような役割を果たし、万一漁師が海で不慮の事故に遭っても、
その人が着ているセーターの模様で人の判別が出来たという小話。
もちろんそういった側面もあるようですが、
実際には、縄目が家紋になっていたというよりも、
手編みのニットは作り手によって編み方の癖が如実に現れるため、
そのニットの風合いによって誰が編んだかすぐ分かる、ということだったよう。
必ずしも、アランニット(フィッシャーマンズセーター)=縄目模様ということではないのですね。
意外にも、真のアランニットはシンプルなデザインで
深い海の色に溶け込み、厳しい大西洋の風に負けない丈夫なニットだったのかもしれません。
アラン諸島で生まれたデザインを模したニットが大量生産されるにしたがって、
本場アラン諸島での昔ながらのニット製造は縮小されましたが、
イニシュマンの創業者であるターラック・デ・ブラカン氏は、
アラン諸島に残るニット製造の技術と伝統を絶やしてはならないという想いのもと、
雇用を増やすことも目的の1つとして、会社を立ち上げました。
それが、今回ご紹介するブランド、INIS MEAIN(イニシュマン)です。
ところでこの1枚の写真、この辺りの漁師がニットセーターを着る時の一般的なスタイルなのですが、
ちょっと独特な着こなしに気づきませんか?
ヒントはベルト周り。
そう、ニットセーターをズボンの中に入れて着ているんです。
極寒の大西洋で忙しく力仕事をする漁師達にとっては、
お腹周りを暖かく保ち、尚且つ動きやすいこの着方がぴったりだったようです。
そして、特徴的なこのベルト、島の女性が
糸を手で編んで鮮やかな模様を作り上げるという伝統的な工芸の一つだったのだとか。
今ではこの手工芸の技術を有する人も少なくなってしまったようですが、
こうした伝統を現代に伝えるブランドが存続しているのは、とても素敵なことです。
INIS MEAIN(イニシュマン)自体は比較的若いブランドではありますが、
この土地に根付いた伝統はニット製品にそのまま投影され、機械織りでニットが生産されるようになった今も、
イニシュマン島の四季が織りなすカラーや、自然の中に見えるモチーフ ー例えば春の花々や苔、
切り立った岩、厳しい冬の海や、凪いだ海などー は、このブランドならではの味わいとして受け継がれています。
そんな豊かな自然を背景に、伝統を継承しつつ洗練された
ニットウェアを展開するINIS MEAIN(イニシュマン)。
2016秋冬コレクションのご紹介にあたりブランドインタビューを行いました。
---2016年秋冬コレクションのコンセプトについて聞かせてください。
今シーズンは、イニシュマン島に伝わるシンプルなワークウェアに着想を経た
ニットウェアを展開しています。
これまでと同様、伝統的なニットのアーカイブに立ち返るイメージです。
---この地方における伝統的なワークウェアの特徴とは、どんなものだったのでしょう?
20年ほど前に漁業関連の設備が改良されるまで、
この島への荷物の運搬は、すべて小さな舟で行っていました。
大型のフェリーが近くまでやってきて、積み荷を降ろして
それをさらに小さな舟に乗せて、漕いでくるんです。
アイルランド地方に伝わる木で出来たカヌーのような舟で、
INIS MEAIN(イニシュマン)のロゴにもなっています。
海から陸に上がった後、この舟をひっくり返して、男たち数人で担いで移動するのですが、
肩の部分が擦れてしまうので、この部分を丈夫にするために
当時の人々が芯を入れたり当て布を付けたりしていたんですね。
これに限らず、私たちの地域のあらゆるニットは、
「仕事のため」、つまり強い嵐や雨、水しぶきから守るために作られてきました。
私たちは、そういった「ワークウェア」の概念を取り入れたものづくりを行っています。
---なるほど、アランニットはワークウェアであるという伝統的な考えのもと、
シーズンアイテムを展開しているのですね。
毎シーズン魅力的なカラーバリエーションが目を引くINIS MEAIN(イニシュマン)ですが、
この色みはどのように決められるのですか?
はい、これは毎シーズン変わらぬ要素なので
恐らく既にご存知かとは思うのですが、INIS MEAIN(イニシュマン)のニットは
この島の自然から強くインスピレーションを受けています。
海の色から陸の色まで、様々ですね。
---ZUTTOではメリノウールと、ベビーアルパカ+シルクのラインナップを
ご紹介していますが、長く愛用するための工夫はありますか?
素材に合わせたお手入れ方法をして頂くのが一番です。
まず、ベビーアルパカ+シルクはドライクリーニングで。
一方のメリノウールはご自宅でもお手入れが可能です。
ごく薄くウール用の洗剤を溶かしたぬるま湯に浸けて、手洗いしてください。
2016年秋冬は、ベビーアルパカ80%にシルク20%を合わせた
シリーズを多く取り揃えました。
まるで、イニシュマン島の朝の光を
そのまま毛糸で表現したかのようなボーダースカーフ。
ニット棒とのコーディネートで様々な見せ方が可能です。
秋冬のニットというと、防寒対策のためにもこもこと厚みがあって
毛足の長いウールニットを持つ人も多いですが、
このベビーアルパカ/シルクのニットのように薄手の編み方でも
毛糸自体が柔らかく、保温性の高いものであれば、十分に暖かく過ごせます。
また、シルクが20%入っていることで適度な光沢と滑らかさがあるので、
太めの毛糸のウールニットは肌に直接触れた時にチクチクして苦手という方にもぴったり。
そんな、秋口から冬本番まで活躍しそうなニットスカーフです。
こちらは、同じくベビーアルパカ/シルクのショール。
薄手ながら、ベビーアルパカの温もりをダイレクトに感じることが出来るとても柔らかな質感で、
ショールとして羽織っても良し、さっと畳んでひざ掛けにしても良し。
50×160(cm)という大判のデザインで、
肩から掛けるのはもちろん、ドレープを寄せるようにして首元に巻き、
ボリュームを出してファッションの一部にするのも素敵。
シンプルなエクリュ(生成り色)と、伝統的な縄編み模様による陰影があいまって、
ぐっとシックな風合いを醸し出します。
アウターを1枚着るのと同じ感覚で取り入れたい、まさに一生もののニットです。
まだコートを着るほどではないけれど、ちょっと肌寒いかな?という10月は
カットソーの上から1枚羽織ればそのままお出かけ出来ますし、
北風の冷たい冬本番は、コートの上から体を温めるのに重宝します。
1本の毛糸から生み出されるニットウェア。
世界にはたくさんの伝統的なニットブランドがあり、
それぞれに数え切れない魅力がありますが、
ブランドインタビューでもあったように、フィッシャーマンズセーターは
「仕事着」としての丈夫さや温かさという機能性によって特徴付けられます。
はるか遠く、大西洋の自然が育んだイニシュマンのニット小物で、
そんなストーリーを感じてみてはいかがでしょうか。
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