波打ったような、特徴的な造形のASCEL(アセル)の食器。
デザインだけでなく、その作陶方法もこれまでにない新しいもので、
なんと3Dプリンターで作った意匠を元に、陶器を作り出します。
そんな特徴的な食器がどのように生まれたのか知りたくて、
ASCEL(アセル)を手掛けるseccaの方にお話を伺いました。
(左)上町 達也さん、(右)柳井 友一さん
代表を務めるお二人とも、金沢美術工芸大学の製品デザイン専攻の卒業生です。
ーーーお二人はもともと、家電やカメラのデザインをされていたとのこと。
プロダクトデザイナーから食器、陶芸の道へ転身された理由は何だったのでしょうか?
元々柳井が大手オーディオ機器メーカーでプロダクトデザイナーとして
働いていた時に、作り出したモノが加速する消費の世界に
呑み込まれていくことに大きな疑問を持っていました。
その時にたまたま陶芸の世界に触れる事があり、
原始的な手法の中で自分らしさを表現しつつ、
永く使うことの出来るプロダクトの世界に魅了され、飛び込んだのがキッカケです。
一方で、代表の上町は同じタイミングで金沢にIターンし、
金沢を拠点にクリエイティブ集団を作って「食とモノづくり」という
キーワードを基に食と共に食器食具を提案していこうと一念発起し起業しました。
そこでまずはじめに相談したのが同じ大学を出て興味深い活動をしていた柳井でした。
それぞれの想いを抱え、学生時代を過ごした金沢へ戻ってきて再び出会ったお二人。
seccaを立ち上げ、工業デザインで培ったスキルを元に
「未来工芸」を掲げる新しいものづくりの価値を模索します。
ASCEL(アセル)の食器は、そのデザインだけでなく
製造方法もとてもユニーク。
3Dプリンターで作製した原型の意匠を石膏型に写し取り、
形状を粘土に転写した後、オリジナルの釉薬を施し窯で焼成する、という手法。
3D切削機や3Dプリンター等を活用して制作した原型から
石膏型に形状を写し取り、最終的に粘土に形状を転写する。
まるで帽子の天日干しのように見えますが、お皿の元となる石膏型です。
焼成する前の生地。この時点で美しい佇まいですね。
釉薬を塗り、窯で焼いて完成です。
この手法に関しても伺ってみました。
ーーー陶芸というアナログ技術と、3Dプリンターという最新テクノロジーを
組み合わせた製作工程はどのように思いついたのですか?
陶芸は原始的であるが故にあらゆる手法がやり尽くされた世界でもあるんです。
陶芸の世界の中で何が自分にとっての強みなのかを自問自答した結果、
自然と導き出されたのが工業デザイナーとして培った3Dモデリングと
陶芸の手作業を組み合わせた作陶でした。
ーーーその手法はどういった新しい切り口を生み出すのでしょうか?
最新のテクノロジーとは、表現の幅を拡げ、
より高みを目指すために必要なツールと考えています。
人は大昔から自分の描く理想に近づくために道具を発明してきました。
それはモノづくりに限らずあらゆる道具は現状より「より良く」するための手段だったはずです。
現在アナログ技術と云われている技術は、過去に最新の道具を
発明することで進化させてきた蓄積だと考えています。
つまり、人のクリエイションは道具とそれを使いこなす
技量とセンスが合わさって進化してきたと考えています。
なので私たちが今力を入れているデジタルツールも
長い目で見ればクリエイティブの可能性を拡げるための
道具であり手段であって、目的ではないということです。
そしてそれらの活用は単に工数の削減や手仕事の置き換えといった
「楽をする」ためのものではなく、今まで出来なかった領域に
チャレンジするための進化した「手仕事」を手に入れるためなのです。
ーーー作家ものでも大量生産品でもなく、どういったジャンルとして定義されていますか?
シンプルにseccaというジャンルを育てていくつもりで活動しています。
金沢で活動していると、よく「九谷焼ですか?」と聞かれることがあります。
しかし、私たちの考えとして、大昔に九谷焼はたまたまこの土地で
自分らしく作陶していた作り手達がお互い影響し合いカタチづくられた結果、
共通点を分類しある種のブランドとして作られたカテゴリーだと推測します。
あくまでその文脈に敬意を持った上で、はじめからカテゴリーに身を委ねるのではなく、
今の時代にフラットに自分たちが提供したい価値を模索する事がseccaの指針です。
自分たちが信じられるモノづくりをした結果、後になって何かしらの
カテゴリーに分類されていくかもしれませんが、
その時に「secca」という固有のカテゴリーになっていることが理想です。
ZUTTOでご紹介しているのは、
波打つようなデザインのSCOOPシリーズと、WAVEシリーズ。
今までに見たことがないような、不思議な形のお皿で、
一見斬新なようですが、どこか懐かしさも漂うモダニズムデザインです。
使い勝手は良いのかな?と心配してしまいそうですが、
ただ単に形の面白さを狙ったのではなく、
この形には意味があり、リムの一部を高くすることで
最後まで料理をすくいやすくなっています。
重ねて収納出来るようになっており収納にも場所を取りませんし、
さらに器の表面には撥水加工が施されているので、お手入れも簡単なのです。
WAVEシリーズ
ーーーSCOOPシリーズ、WAVEシリーズともに特徴的なデザインですが、
どのような意図を持って生まれた形なのでしょうか?
両シリーズともに、柳井が個人活動をしていた時に生みだした
コンセプトである「landscape ware」を引き継いでいます。
料理と器の関係は、建築と大地の関係と似ていると考えています。
大地の起伏やそこに流れる空気や温度との関係の中で
建築家がこの土地にどのような建築を建て、どんな価値を生むのか。
といった思考と同じように、料理人にとって器の造形が
新しい表現のアイデアにつながるような器を目指しています。
そうして生まれた造形アイデアを多くの方にも体験して欲しいと
始めたのがこのscoopやwaveを展開するブランド、ASCEL(アセル)です。
プロ向けほど尖った造形ではなく、日常でお使い頂く中で、
料理を作ることや、盛り付けること、
そして食べることがいつもよりほんの少しでも
「より良く」なるようなキッカケとなるようにと思っています。
ーーー原料を組み合わせ、オリジナルの釉薬を
作っていらっしゃるそうですが、色や風合いの決め手は何でしょうか?
多様な生活の「色」とのコーディネートを意識して決定しています。
私たちは工業デザイナーとしての意識が根底にあるので、
その結果良い意味で冷めて自分たちの作品を見つめる癖があるんです。
ユーザーにとって私達の器は生活の一部でしかありませんし、
テーブルの上だけで考えても大切に使っている他の器や食具があるはずです。
その時にそれらや料理と調和しつつも、ASCELの器があることで
その方の生活の色が滲み出てくるような、そんな存在を目指しています。
そのため、自分自分と考え過ぎず全体の調和の中での特徴点になるには
どのような色、形、素材が良いのかという視点を大切にしています。
ーーー最後に、金沢という地について伺います。
ものづくりという観点から、他の地域と比べ秀でている点はどういったところでしょうか?
新しい文化を生み出す事を支援する人がいることだと思います。
客観的に見て、伝統や文化という価値に対して、「守る」ことに重きを置く者と、
「育てる」ことに重きを置く者とに分かれている印象があります。
金沢は後者の意識を持つ方が多いのが特徴だと感じています。
金沢は元々加賀藩の施策で各地にいるモノづくりのスペシャリストや、
今で言うプロデューサーを誘致し、クリエイティブを推奨することで、
江戸に対して戦意が無い事を示し戦から逃れたと云われています。
その結果多種の工芸が発展したわけですが、
その背景には他の血を積極的に混ぜる事で起こる
化学反応が文化を育んだと考えています。
その気質は今にも受け継がれ、金沢をリードする方ほど
私達のような「よそ者」を快く受け入れ、心から支援をしてくれています。
文化を育てることで伝統を切り拓いていく、そんな土地で皆口を揃えて云う言葉があります。
「伝統は革新の連続なり」
この言葉にこの土地の本質があると思います。