色、かたち、肌触り。
1枚の服を手に取る時、私たちは無意識にその服のアイデンティティを感じ取り、身に付けてみたいという衝動に駆られることがあります。デザインや色だけでは足りなくて、そこに生地の肌触りや着心地があいまってはじめて、服が完成するという当たり前だけれど、なかなか気づくことができない真実。
FACTORY(ファクトリー)の服は、そんな服作りの全ての工程に対してこだわりを貫いた逸品ばかり。言葉で語らずとも、かたちも、色も、肌触りも、その全てに意味があると伝わってくるから不思議です。今回は、そんな FACTORY(ファクトリー)の服にまつわるストーリーを紐解いていきます。
ブランドの前身は、1978年にスタートした1軒のブティック。もとは仕入れた服を販売するお店からスタートしたのですが、1983年には自社で全ての商品を製造する方針に変え、店舗の裏に工場を作り、オリジナルウエアを展開するブランド「FACTORY(ファクトリー)」がスタート。 1つのミシンからスタートし、自分達が生み出せる最良の服をより多くの人に届けたいという想いからスタートしたものの、ブランドが最初に突き当たった壁は、「理想とする生地がない」「思い通りの色がない」ということだったのだそう。
既成の生地を仕入れ「仕立てる」という意味では、服作りをしているはずなのに、自分たちの理想とする素材・品質・色合い・ニュアンスの生地を手に入れることが出来ないという悩みに出会った時、本当の意味での「服作り」をしたければ、糸づくり、生地づくりからスタートすべきなのだと気づきます。「FACTORY(ファクトリー)」とは、その名の通り「工房」のこと。生地づくり、パターン(型紙)、縫製、染色までを自社の工房で行う丁寧なものづくりをそのまま体現するブランドネームです。
「一着の想いのこもった良い服ができるかどうかは、
服づくりにかかわるスタッフが出来上がりの服が見えているかどうかということが重要と思っています。」
それは自社一貫生産を理念とするこのブランドが、服作りの基準として大切にしている言葉。たとえば裁断は、一枚一枚布目を通し、手作業で布を重ね裁断。一着一着出来上がりの素材の風合いや、仕上がったパターンシルエット、人が着たイメージを持ちながら、すべての過程で丁寧に製作できるのが、生地づくりから染色までを自らの手で行うことの、何よりの強みなのです。
ここで幾つか、「FACTORY(ファクトリー)」の服で特徴的に用いられるオリジナルファブリックをご紹介します。
リネンの中でも世界的な最高品質に与えられる「EUROPEAN FLAX」の称号をもつベルギー(コルトレイク地方)の糸を使用した生地。製造コストを安価に抑えるため、成長剤を撒くことも多い中で、栄養分の多い土地を選び、あえて3年に一度の収穫にこだわり、広大な大地に適度な雨量とたっぷりの太陽と大地を駈ける風により、長繊維まで育てた麻を自然の力でマーセライズ加工(光沢、強度加工)されたリネン原料です。馬毛を想像させるしなやかなで艶のあるこの糸は、リネン特有のチクチク感や固さのない肌触りの良い高級感を演出します。
世界三大コットン(海島綿・エジプト綿・ペルー綿)であるペルー綿のなかでも北部ピウラ地方という場所の綿花を使用したコットン素材。綿と一括りに表記されますが、綿花は様々な場所で栽培され、生産地ごとに様々な特徴があります。このピウラ地方は、一年中30度以上の気温が続き、昼と夜の寒暖差が大きく雨季に適度な雨が降る海岸沿いの畑で栽培されています。芳醇な大地と安定した適度な気候により、油分をたっぷり含んだ長い繊維から紡がれる糸は、しなやかで光沢のある、なめらかな風合いになります。
レーヨンは主に木材パルプが主成分であるのが主流ですが、その成分を竹(バンブー)で作ったユニークな生地。このバンブーレーヨンは、しなやかさと抗菌、吸放湿が優れていて、寝具やベビー服に多く使われています。FACTORY(ファクトリー)ではこのバンブーレーヨン70%にコットン30%の混合率で糸を製造。この絶妙な比率により、バンブーの特徴を活かしながらコットンを含ませることで、デイリーなファッション性のある素材に開発しました。素肌にもさらりと心地よく、まるで風と一緒に歩くかのような心地よさです。
生地は平面。でも、服は立体です。実際に人が着た時に美しく見えるかどうか、心地よく着続けられるかどうかは、パターン(型紙)づくりにかかっていると言っても過言ではありません。
FACTORY(ファクトリー)のデザインパターンは、東京にあるFACTORYデザイン事務所で制作されています。コレクションブランドで経験を積み、パターンメイキングの実践を重ねたスタッフが全て立体裁断で形を作り、サンプル縫いを何度も重ねることで流行にとらわれずとも着心地がよく、<シンプルだけど、どこかユニーク>というFACTORY(ファクトリー)ならではの服作りを日々模索しているのだそうです。
この後いよいよ服を形づくる工程、つまり縫製(裁断した生地を縫い合わせる)に入っていきます。縫製ももちろん、自社工房のスタッフが担当します。縫製は出来上がりのシルエットを細かい部分でクセを付けながら縫製します。シャツで言えば、カフスの丸さ、衿で言えば身頃にフィットするように微調整することで服としての完成度が違ってくるというから驚きです。こうしたパターン作り、縫製へのこだわりは、実際に身につけた時に実感することが出来ます。
たとえば、こちらのシャツ。全体的にワイドなシルエットで袖も長めなので、実際に身につけた時はどんなシルエットになるの?と不思議にさえ思えるのですが、実際に袖を通すとシャツが立体的になり、実に美しいシルエットを生み出します。
ふんわりと空気を含んだ優しいシルエットが胴回りを上手にカバーし、ゆったりとした着心地ながらルーズな印象にはならず、どこかモードな雰囲気に。 さらにドルマンスリーブ風のアームホール、背面首元にあしらわれたタックなど、随所にこだわりが見られるパターンは一段上の着こなしに。袖はボタンではなくゴム仕様になっているのもユニーク。たとえシンプルなシャツでさえ、身につけることで立体的なドレープが生まれ、そこに出来る陰影までもが美しい1枚へと完成する。これは立体パターンだからこそ為せる技なのです。
縫製とアイロンがけが終わった製品を見ると、どれも無垢の色(生地そのものの色)であることが分かります。実は、FACTORY(ファクトリー)が手がける服のほとんどは、製品染めといって、裁断・縫製が終わった後に、服の形まで仕上がった上で染色加工を施しているのです。こうすることで、糸染めの雰囲気とは異なり、柔らかく素朴な風合いに仕上がります。生地は、生成りの状態で裁断・縫製をし、高温で洗ったのち、1枚1枚丁寧に染め上げます。生地の性質によって染めた後で伸び・縮みもあるため、予め生地ごとの縮率分を含んで型紙を作ってあります。そのため、お客様の手元に届いた後も縮みなどの心配が少ないのが利点です。生成り色の製品についても、高温で洗い→柔軟→蒸気乾燥の工程をしているため縫い糸が生地に馴染み、素朴で優しい風合いに仕上がるのだとか。
実は、製品染めはとても手間のかかる作業。先述のように染めによる縮みを予め計算してパターンを作るのはもちろん、非常に縫いづらい綿糸のミシン糸で縫い上げた製品を、ドラムワッシャー機で染め上げなくてはなりません。様々な形状の製品がドラムの中で動いているのを想像しながら、また天然素材なので染色時の気温、時間、水の状態等により服も呼吸しながら色づいていきます。
機械で染める作業ですが、一定の染料の配合、染色過程で行うのと異なり染色技術者が、服と会話しながら色付きを行うので、手染め感覚の染色です。製品染にこだわる理由は、先染めと異なり繊維がギュッとしまり、縫い糸も布地に食い込み一体感のある一点もののような雰囲気に仕上がり、お客様にとってお気に入りの一点になるように、という想いからなのだそう。
それでは実際に、FACTORYが生み出した服たちを見ていきましょう。
ふんわりとした優しさと、リラックスしつつもルーズになりすぎない絶妙なバランスを生み出すのが、素材のペルー産コットン。シルエットに合った素材を選んで初めて、実際に着用した時の良さが分かるのがシャツの難しいところ。このシャツのシルエットを存分に引き出しているのが、着心地柔らかなコットンなのです。身につけた時はさらりと心地よく、表面はまるでシルクの光沢のように、ほんのりと光を返す美しさがあります。こうしたワイドシルエットなシャツは着た時に立体的なドレープができるので、この生地感がデザインの特徴をよく引き出してくれるのです。 手染めのカラーは、白、ライトベージュの2色。細身のデニムやテーパードパンツに合わせればナチュラルな大人の印象に、またロングスカートやガウチョパンツのようにあえて重めのシルエットを合わせて、よりモードっぽく仕上げるのも素敵です。
綿麻×ベルギーリネン プルオーバーは、身頃がニット、袖がリネンという、異素材使いがユニークな一着。袖口がギャザーゴムとなっていてフェミニンなボリューム感があり、袖を下ろしてゆったりと着ても、少し上に上げて手首を見せて女性らしく着こなしても素敵です。本体ニット部分は、ペルー綿とベルギーリネンを組み合わせた糸を使用。空気を含んだコットンの柔らかさと麻のシャリ感両方の良さを併せ持ち、上質なベルギーリネンを使った袖とのコントラストが目を引くデザインになっています。
一見するとシンプルなコットンパンツですが、一度履いて納得するのが、そのシルエットの緻密さ。実際に履いてみると、下半身をUラインに見せるように計算してデザインされていることが分かります。腰周りに自然な丸みがあり、そのまますとんと真っ直ぐに落ちるシルエットで、太めのシルエットながら脚のラインがとても綺麗に見えるのです。ワイドシルエットをルーズな印象ではなく上品に仕上げているのは、パターンメイキングに定評のあるFACTORY(ファクトリー)だからこそ為せる技。丈は長めですので、ロールアップで足首を見せる履き方もおすすめです。
シンプルながら他にはないディテールの追求が随所に見られる一着。くるくるとロールアップして履く、長めの丈感でゆったりと体を締め付けないシルエットで、右側のポケットだけにコインポケットが付いています。また、実は膝下あたりに斜めのプリーツが施されており、単純にすとんと落ちずに布地が少し内側にカーブするという、絶妙に計算された立体的なボトムスなのです。身につけた時の履き心地を追求し、ウエスト部分は左右から背面にかけてゴムが入っているのも嬉しいポイント。
バックデザインにも余念がありません。ヒップ部分は生地の切り返しとそれに伴うステッチが右に下がるようにデザインされたアシンメトリーの設計。右側のポケットがワークパンツのように深い作りになっているのが視覚的な面白さを生んでいます。大きなポケットは、全身を華奢に見せれてくるという利点も。
サルエルパンツといえば、股上が深いパターンのボトムス。まっすぐに立つと一見スカートのようですが、丈の長いキュロットのような作りなので、脚さばきが良く歩きやすいのが特徴です。ウエスト部分はギャザーゴムと紐の仕様になっていて、身につけていてストレスのない快適なデザイン。太ももからふくらはぎにかけての体型をさりげなくカバーしつつ、足首が見える丈感なのでシューズやサンダルとの合わせ方でコーディネートの幅が生まれますし、裾が内側に入るので通常のロングスカートよりもコンパクトに見えます。
ストンとしたシルエットに見えて、実は小技が効いたサルエルパンツは、カジュアルなTシャツにスニーカーという組み合わせから、エアリーな薄手ニットに革のレースシューズなど、合わせるトップス・小物によって全く違った印象に見えるのが面白いところ。また、春にはレギンスを合わせて夏は1枚でと工夫するとまた違ったイメージで楽しむことが出来ます。
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