1枚の水彩画のように瑞々しく、身にまとった時の流れる質感が魅力のmarumasu(マルマス)のストール。自然に見る美しい色を再現しようと芸術家達がこぞって新しい絵の具を求めてきたように美しい色への探究心は古来から私達の根源的な欲求だった訳ですが、布の上に美しい色を再現するのは、まさに至難の技。そんな、「染色」という名の英知について、読み解いていきます。
marumasu(マルマス)の工房があるのは、東京・葛飾区柴又。古くは東京友禅という、着物の生地を生み出す工房が軒を連ねていた地域で、marumasu(マルマス)の母体である丸枡染色もまた、創業した1901年当初は東京友禅の着物を手がけていました。
1901年といえば明治34年。そこから大正・昭和・平成という時代の流れを経て、求められる「染め(染色)」の形も変わり、様々なファッション産業の染色を担うようになります。そんな中で2011年に生まれたのが、marumasu(マルマス)です。
marumasu(マルマス)が手がけるストールを特徴づけるのが、鮮明な色合いの優美さ、そして、とろけるような風合いの繊細さ。老舗ならではの知識と化学的理論のもと、素材の収穫時期や季節に合わせて厳密に染料・PH・塩分を調合し、染色。触り心地と風合いを大切に、あえて効率を落とし時間をかけて染色したストールは、色鮮やかで、心地良く、巻き方によって様々な表情が楽しめるものとなっています。
marumasu(マルマス)のストールは日本のファッション界では「海外の美術品のように優美」とされる一方で、ロンドン、パリなど、海外の展示会に出展すると逆に「とても日本的でユニーク」と評されるのだとか。
具象的なモチーフは使わずに、色とりどりの色彩と抽象的・幾何学的なデザインで、どれだけのバリエーションを生み出すことが出来るかという視点でクリエーションを行っています。
かつて着物を手がけていたファクトリーブランドだからこそ日本ならではの美意識を受け継ぎつつも、ひとつの見せ方に固執せず様々なアレンジが出来るよう、抽象的なデザインの可能性を追求し続けているのです。
たとえば、「STRATUM BORDER DOUBLE」と名付けられたこちらのストールは、縦100×横175cmという大判サイズの中に様々なグラデーションをちりばめた1枚。
片側には鮮やかなレッド、ブルー、グリーン、ホワイトでリズミカルな模様を配し、まるで地層のようなデザインが特徴的。もう一方には土星と木星を思わせるような、淡いブラウンと、グリーン。
「大きく広げてまとった時、色のバランスが良い」
「折り畳んだ時、どの面を外側に出すかで印象が変わる」
「体に添わせた時のドレープで、陰影が美しく見える」
こういった様々な視点で、1枚の絵画を描くように色を決め、配色を決め、デザインを決めていきます。
marumasu(マルマス)が手がけるストールのプリントには、「シルクスクリーン」「インクジェットプリント」など幾つか種類がありますが、いずれもゆっくりと時間と手間をかけて染色・プリントを行う点で共通しています。写真はインクジェットタイプの機械で、コットンの生地にmarumasu(マルマス)のオリジナルデザインをプリントしているところ。
家庭用のインクジェットプリンタと基本原理は同じで、色が上手に乗るようにコンピュータ制御出来る、とても大きな布用の機械です。最新の高速機械では1時間で1,000mを一気に染めることが出来るのですが、marumasu(マルマス)では、最新の高速機械ではなく、あえて旧式の機械を選び、1時間に約10枚分のスカーフをつくるゆっくりとしたスピードで、手間をかけながらプリントしています。それは、繊細な素材を大切に扱い、時間はかかっても美しい色彩を納得のいくクオリティで表現したいという情熱の現れです。
職人が付いて、生地の加減を手で確かめながら機械に送り込んでいる風景。コンピュータで制御出来るとはいっても、やはり人の手がなければ、理想とするクオリティは完成しません。ストールのベースとなる生地は、プリントの前に糊付けされ、柔らかなストールのイメージからは程遠い、非常にパリッとした硬い風合い。この糊付けによって、滲まず美しい仕上がりになります。
marumasu(マルマス)は、このコットン生地のような織物の生地とニット生地(編み物)の両方を得意としていますが、伸縮性のあるニット生地は、「染色」「洗い」「乾燥」など、すべての工程で美しい色を再現しながら、肌に触れた時の心地よさを失わないために一貫して独自の品質管理を行っています。これが、「染める」プロであるファクトリーブランドとしての強みです。
プリントした生地には、カシミヤやシルクなど繊細な素材を使用した生地もあります。そうした繊細な生地を、たっぷり水槽に入れて、ゆっくりゆっくり手で洗うという工程を繰り返すことで糊や余分な染料を落としていきます。少ない枚数で洗うため、ここでも時間はかかりますが1点1点むらがなく、丁寧な仕上がりに。
「プリント」「洗い」「乾燥」という工程を経た生地は、人の手によって、ストールとしての命を吹き込まれていきます。何メートルにも及ぶカラフルな生地は、複数のストールのデザインをプリントしたもの。これを手作業で裁断し、ストールの形へ。
ふさ(フリンジ)は、ヨコ糸を数本抜き去り、タテ糸だけの状態にしたもの。このフリンジを作るのも、実は手作業です。それは1枚ずつ、大切に大切に仕上げの工程を行うことで、「生地」が「ストール」へと形を変える瞬間といえるかもしれません。
marumasu(マルマス)のユニークさに「デザイナーが、自分の手で自ら染める」という考え方があります。実は、先に紹介した生地のプリントを管理しているスタッフは生地の絵柄を生み出すデザイナーの一人。また、ストールの裁断・フリンジ作りといった仕上げをしているのは銀座の直営店で接客を経験したスタッフです。
デザインは、プリントして初めて生地として成り立ち、ストールは、人が身につけることによって活き活きと魅力を増します。染色し、余分な染料を落とした時にどんな色彩になるのか。お客様が体にまとった時、どんなアレンジを提案することが出来るのか。身につけたときにストールが一番美しく見えるよう、デザインから染色まで考えられていることが、何よりも強みと成っています。
写真上:古い時代の色見本。今見ても瑞々しい色彩が揃う。
写真下:かつての丸枡染色を映した写真。紙ではなく、布地にプリントされたもの。
marumasu(マルマス)のものづくりについてたっぷりと伺った後、実際にストールを使ったアレンジを実演して頂きました。語り手は、marumasu セールス/ショップマネージャーの福田真弓さん。銀座の直営店に立ちながら研究した数々のアレンジを教えて頂きました。
【結び方でどこまで変わる? ーシルクスカーフ】
まずは、ごく簡単に結び方を変えるだけのアレンジ。幅30×長さ160cm、シルク100%のコンパクトな「DROP STRIPE」。ふりふりした両端が、さっと巻くとコサージュのようになり、女性らしい雰囲気を引き立たせてくれます。
A:結ばずに長く垂らすと、縦のラインが強調されて凛々しく。
B:二重に巻いてコンパクトに。紫外線・冷房対策にも機能的。
C:ゆったりと結び目を作って。シルクの空気を含んだ柔らかさが引き立ちます。
D:大きく結べば、アクセサリー感覚に。
幅の細いモデルは、ヘアアクセサリーとしても使いやすくさっと巻くだけでアレンジが広がりますよ。Eのように、きゅっと畳んで一重に結び、両端を長く垂らすとモードっぽい仕上がり。幅を広く余裕を持たせ、エスニックなテイストに見せたのがFです。シンプルなポニーテールにスカーフを1本プラスするだけで様々なヘアアレンジが叶います。
【落ち感と、しなやかさを楽しむ ーニットスカーフ】
続いてご紹介するのが、ニット素材のストール。marumasu(マルマス)らしい、定番ラインの一つです。テンセルの柔らかさ、シルクの光沢感、カシミヤのしなやかさを一つにまとめた混紡糸を、非常に細いゲージで繊細に編み上げた生地を使っています。
大判サイズで羽織れば腰まですっぽり覆える大きさ、薄手のため畳めば文庫本サイズ、おまけに1年中使えるという機能的なモデルですが、ニット(編み物)は織物のストールと比べて伸縮性があるため、大きく肩からまとっても締め付けるストレスがなく、おまけに結び目を作っても、跡が残りにくいという特長があります。
「KLEE BLOCK」は、画家パウル=クレーの絵画からインスピレーションを受け、情熱的な色彩を面で表現した1枚。
G:65×170cmの存在感を生かし、シンプルにまとって。
H:Gのアレンジ形。自然なドレープを作り、くるりと巻き上げると優美な印象。
薄く、しなやかなニットの特性を活かしたヘアアレンジ。お花のように作ったモチーフに、色彩の美しさをたっぷりと詰め込んだイメージです。複雑に見えますが、作り方はとっても簡単。
ポニーテールの結び目の下に折りたたんだストールを通し、おでこの辺りで結び目を作ります。そこから「こより」を作るようにストールの両端をねじりながら合わせ、
おだんごを作っていきます。ストールの端は合わせ目に差し込むだけで固定出来るので特別な道具がなくても、さっとアレンジ出来ますよ。
大判のストールでも、コンパクトに使えるアレンジがこちら。ニット素材の落ち感と生地が重なった程よいボリュームが首元を落ち着いた印象に見せてくれます。外に見える面積が小さいので、どこを表に見せるかつまりどんな畳み方をするかで全く別のストールを身につけているように見えるのがこのアレンジの面白いところですね。
【色を着るという感覚】
そして、100×170cmのストール1枚を使ったおすすめのアレンジがこちら。一箇所に結び目を作るだけで、ロングカーディガンのように着ることが出来るんです。
1:長い辺を二つに折り畳みます。
2:「輪」を上に持って、その両端を揃えます。
3:揃えた両端を2回、固結びします。
4:結び目を開くと、図のようにアームホールができます。
ストール:STRATUM BORDER DOUBLE、ベルト:90132G THIN7mm BELT、ボトムス:ベルギーリネン タックワイドパンツ(販売終了)、バッグ:3way レザーポシェト enveloppe GREY(販売終了)、シューズ:ターバンデザインエスパドリーユサンダル(販売終了)
無地カットソーとボトムスといったシンプルな装いにプラスだけでも一見するとストールとは分からないくらい、立体的な美しさが生まれます。畳んで結ぶだけの簡単な造りですが、「着る」という見方をするだけでたちまちハイアレンジになるのです。左右の裾を合わせにして、ドレープを作るとカシュクールシルエットの上品な雰囲気にもなるので、ベルトやブローチといった小物とのコーディネートも面白いですよ。
ストールを巻くという発想を超えて、「もう一枚着る」という感覚でお楽しみ頂ける着こなしです。
【バイアス使いで、エアリーなアレンジが叶う ーコットンスカーフ】
こちらの2つは、どちらも同じカーディガン風のアレンジですが、スカーフの素材が「コットン」になります。
ニットが伸縮性と落ち感のある素材なのに対し、こちらのコットンストールは織物なので、空気を含みふんわりとエアリーな着心地に。同じアレンジでも、素材と絵柄でこんなにも印象が変わります。
また、「織物」のストールを使う時には、「バイアス使い」をマスターしておくと表現の幅がぐっと広がります。バイアスとは織物に見られる縦糸と横糸の「目」に対して斜めに折りたたむこと。
写真左が目に対して平行に折っている図で、一方の写真右がバイアスの畳み方です。ニットストールの場合、重みで生地が伸びてしまうのでバイアス方向に折るアレンジは不向きですが、伸縮性の小さい織物のストールは、ぜひバイアス使いも楽しんでみてください。
L:折り紙を折るように三角形を作り、肩からまとったアレンジ
M:Lをさらにアレンジ。三角形の二辺を後ろに持って行き、背中で結んでボレロ風に。
N:三角形に折り畳み、くるくると巻いてひと結び。角が重なることでボリュームが生まれる。
O:ひだを作るようにバイアスに折ったストールを、長く垂らしてエレガントに。
ここまでたくさんのアレンジをご紹介してきましたがストールの面白いところは、用途を限定せずにアイディア次第で様々な魅せ方が出来るところだと思います。
同じストールでも、実際に店頭でお客様とお話しながら、普段お召しのお洋服のイメージに合わせて似合う1枚を探したり、メイクのお色味や髪型に合わせた選び方・アレンジをご紹介したりと私達も日々勉強しながら新しいストールの在り方を模索しています。
「結び目を作る」「肩から羽織る」というとても簡単なことでも、ちょっとした工夫で見え方の印象はがらりと変わります。女性の定番の髪型といえばポニーテールですが、高い位置で結べば快活な印象に、低く垂らせば落ち着いた雰囲気に、結び目から少し毛束を緩めたら、こなれた印象になりますよね。
それと同じように、気分に合わせて自由にmarumasu(マルマス)のストールを楽しんで頂けたら、心から嬉しいです。
▼shop info:
MARUMASU GINZA
東京都中央区銀座5-2-1東急プラザ銀座3階-12
11:00~21:00