今回ご紹介するのは、I.Ronni Kappos(ロニー・カポス)のジュエリー。ユニークな色合わせ、モダン建築を彷彿とさせる幾何学的なデザイン。円や直線のパーツを組み合わせ、リズミカルなイメージ、温もり溢れる懐かしい雰囲気など、自由自在なムードを生み出しています。
そうした個性的な雰囲気を構成するのが、希少なヴィンテージビーズたちです。歴史の蓄積によって愛着を増していくのがヴィンテージ品の面白さですが、I.Ronni Kappos(ロニー・カポス)のジュエリーは、数々のヴィンテージパーツを再構成することで新たな価値を生み出していきます。そんなI.Ronni Kappos(ロニー・カポス)のジュエリーについて、魅力を紐解いていきましょう。
I.Ronni Kapposの物語を紐解く前に、少しビーズの歴史にまつわるお話を。石や貝など、自然が生み出した素材に穴を開ければそれがビーズとなり、紐を通すことで装身具となる。とてもシンプルな営みだけに、定義は広く、そして歴史も長いのがビーズの特徴と言えるのかもしれません。
穴の空いたボール状のパーツをビーズと呼びますが、現在も様々な形、素材、色のものがあり、実に多くの種類がありますよね。天然素材のビーズの起源はいまだ明確にはなっていませんが、そのルーツはアフリカからエジプトへとおよぶ地域にあると考えられています。約7万5000年前の貝殻ビーズが南アフリカで見つかり、これが最古の物という説があります。この貝殻ビーズが発見されるまでは、アフリカでの最古のビーズはおよそ4万5000年前だと考えられていました。ビーズワーク(ビーズを編んだもの)としてはロシアでおよそ2万5000年前のマンモスの象牙ビーズが発掘されています。
一方、ヨーロッパでも数々の美しいビーズが生産されています。特に美しいのは、優美な存在感のガラスビーズ。ガラスビーズは古代エジプトから存在していたと言われ、紀元前200-300年の頃に直径5mm以下のガラスビーズがインドで盛んに作られました。その後、ガラス工業の主流はヨーロッパに移り、現在に至ります。工芸品としてビーズ製造がさかんな地域としては、イタリアのヴェネツィア、チェコ、フランスなど。日本のビーズメーカーにも、繊細な小粒のガラスビーズの専門メーカーが存在します。
カリフォルニア州パサデナで生まれ、現在ロサンゼルスに暮らすI.Ronni Kappos。デザイナーであると同時にジュエリー製作の全行程を担う職人でもある彼女は、画家の祖母に影響を受け、幼い頃から音楽やアートなどクリエイティブな活動に興味を持ち、美術史・建築を学びました。双子の姉であるMarinaも著名なポップアーティストとして世界で活躍しています。絵や彫刻といった美術品、快適な室内を構成するインテリアデザインなど、美を追求するものづくりが常に身近にあったことで、彼女の美的感覚が自然に培われていったことは、想像に難くありません。
彼女がジュエリーデザインの道へと進むきっかけになったのが、学生時代に旅先で出会ったヴィンテージビーズでした。ケースいっぱいに詰められたデッドストックのビーズ達は、宝箱を手にした時のように彼女のクリエイティビティを掻き立てたことでしょう。2002年からヴィンテージジャーマンビーズを使ったジュエリーの製作を開始。 当時でしか実現できない技術に敬意を込めて貴重なヴィンテージパーツを尊重し、大きな情熱を傾けて素材一つ一つほどと対話し、モダンなスタイルへ蘇らせています。
モダンアートや建築からインスピレーションを得た、まるでアートのような、I.Ronni Kapposのジュエリー。1920-30年代頃の高い技術によってもたらされたヴィンテージビーズを中心に用い、デザイナー自身の手によって製作されています。当時のヨーロッパのビッグメゾンで使われたパーツも取り入れられ、更に希少性を感じられます。 サンフランシスコMoMAのリニューアルに当たって注目されたのも大きく頷けるところ。 ここで、I.Ronni Kapposが特徴的に用いるヴィンテージパーツを見ていきましょう。
【ヴィンテージジャーマンビーズ】
1920〜40年代にかけて製造されていたビーズは、今では手に入らない材料、顔料や金型を使用しています。 職人の手仕事によりガラスに微量の金属を添加して色を引き出していたそうです。 旧東ドイツなどのボヘミア地方で手作業で製造していた会社は、第二次世界大戦後ほどなくして閉業してしまいました。 コンピューターも無い時代、全てが手業の技量。職人の勘と長年の経験値により作られた1点1点が表情豊かな、深みのある懐かしい色合いの希少価値の高いビーズです。
特に「ルーサイト」と呼ばれる素材は、現在は安価で量産しやすいプラスチックに取って変わられてしまい、当時の金型や顔料を再現することが出来ないため希少価値が高いのが特徴です。
【24kゴールドコーティングビーズ 】
溶かした24金の中に浸し入れ、ヴィンテージジャーマンビーズを丸ごとコーティングしたもの。ガラスなど、ビーズ本体の素材に直接金を密着させるのは難しいため、下地となる別の金属でいったんコーティングした上からさらにゴールドコーティングを施すという、手間のかかったビーズは今では姿を消しつつあります。こうした歴史の蓄積の中から、いくつかのパーツをすくい上げ、新しいデザインへと昇華させることで全く新しい造形美を生み出すというのも、I.Ronni Kapposらしいデザインスタイルのひとつ。
左:経年変化後
右:新品
このビーズの特徴とも言えるのが、使うほどに風合いの経年変化を感じられる点。先述のようにゴールドコーティーングはビーズ本体の上に下地を塗り、さらにゴールドを重ねるという複数の工程を経ているため、時間とともに少しずつ下地の質感が現れてきます。写真の例では、光輝くゴールドの質感から、ところどころ下地の風合いが現れ、まるでいぶしたような渋目の風合いへと変わっているのが分かります。この経年変化のスピードや光沢の変化は、ビーズの種類によっても、使い手の身につけ方によっても変わってきます。
【14kゴールドフィルド】
ジュエリーを長く愛用する上で重視したいのが、金具の素材です。メインのモチーフがどんなに美しくても、それらを繋ぎ、支える金具が磨耗したり、表面の塗装が剥げたりしていると、印象がぐんと落ちてしまいます。
14kゴールドフィルドは、ゴールド層の薄い金メッキと違い、ベースメタルの1/20の重さの金層を熱で圧着したもの。金の層が厚いため通常剥がれていくことはありません。使い込むうちに色褪せがございますが、アンティークのような色合いになることも魅力の1つです。
【ナイロンコード】
ここまでご紹介したヴィンテージビーズを繋ぎ合わせる素材として、I.Ronni Kapposが特徴的に用いるのがナイロン製のコード。特にネックレスに多く用いられ。ビビッドなガラスビーズやゴールドコーティングされた輝きを放つビーズを、このナイロンコードによって柔らかくつなぎ合わせることで、I.Ronni Kapposならではの造形美が生まれます。
金属製のチェーンや革紐といった一般的なコードと比較すると、線が細く頼りないのでは?と心配にも思えるのですが、装身具として不安なく用いることが出来る強度のナイロンコードを選んでいるので、大切に使えば大きな磨耗なく長く愛用出来るのだとか。実際にI.Ronni Kapposのネックレスを日常的に着用しているスタッフも、その点は安心して日常使いにしているようです。
ヴィンテージビーズの収集、ジュエリーデザイン、製作までを一手に担うI.Ronni Kappos。彼女はシーズンごとに新しいジュエリーコレクションを生み出し続け、そのデザインの泉は尽きることがないといいます。それ自体が職人の手によって一度完成されたビーズという素材を使いながら、新たなバリエーションで人々の目を楽しませてくれること。それでいて且つ、I.Ronni Kapposらしいアイデンティティを貫いていること。この「新しさ」と「普遍性」を両立する秘密は、どこにあるのでしょうか。
I.Ronni Kapposのジュエリーコレクションのベースを作り上げるのは、他でもないヴィンテージビーズですが、ビーズを繋ぎあわせるパーツは「14kゴールドフィルド」「ナイロンコード」のいずれかがほとんど。ストイックとも言えるほどに限られたパーツを使いながら、主役であるビーズをいかに配置するかで数多のデザインバリエーションを生み出しているのです。たとえば、ボタンのような円板型のビーズも、14kゴールドフィルドのピンを通してぶら下げれば動きのあるピアスに、ナイロンコードで数珠のように繋ぎ合わせれば絵画的なネックレスに、という風にパーツの使い方でビーズの見せ方に変化をつけています。
このパーツ使いによって独特の「動き」「揺らめき」が生まれます。ナイロンコードで丁寧につなぎ合わせた色とりどりのビーズが胸元で儚げに動き、ピンワークを駆使した華奢なピアスでは、耳元でヴィンテージルーサイトが揺らめく、という風に。いずれも非常に緻密な手仕事によって構成され、女性の耳元、胸元を美しく印象付けます。
こうしたパーツ使いのこだわりがあるため、彼女が手がけるジュエリーは「ピアス」「ネックレス」の2つがメインで、指輪やブローチは存在しません。シンプルなアイテム構成の中で、いかにビーズの可能性を引き出すことができるか。この点に彼女のものづくりの骨子があるようです。
そうしたテクニカルな部分と並立して、ものづくりに対する中性的な視座も、I.Ronni Kapposというジュエリーデザインを特徴づけているように思えます。「ビーズ」や「ジュエリー」というと、美しく彩りを添る女性的なものという印象が強いのですが、限られたパーツを駆使してビーズを繋ぎあわせるという潔さ、カラフルなデザインと並行して度々登場するモノトーンな色使いなどは、女性的とも男性的とも明言しがたい、ニュートラルなものです。
名も知らぬ古い時代の誰かが生み出したビーズの持つ物語をすくい上げ、再構成する。幾何学的だけれどもそこに冷たさはなく、歴史を経た温もりと愛着が溢れている。そんなお守りのようなジュエリーを生み出すデザインセンスは、幼少期から培われたモダンデザインへの深い造詣によって裏付けられているようです。そこに「女性的なもの」といういわゆるジュエリーのイメージはなく、彼女が生み出す数々のジュエリーは、「美しいデザインを身につける」という私たち人間の根源的な憧れを満たすものなのかもしれません。
ヴィンテージビーズという一度完成された素材を選び取り、それらを再構成することで新たな命を吹き込むI.Ronni Kapposのジュエリー。ここまでお伝えした数々のデザインソースや、I.Ronni Kapposその人自身が作り上げる世界観によって唯一無二のコレクションが作り上げられる訳ですが、シーズンを追うごとに登場する新作はいずれも革新的。今シーズンは、I.Ronni Kapposらしいモダンデザインと、お守りのように身につけたくなる素朴さが絶妙に調和した新作が届きました。
ネックレス1562は、トップに存在感のある3つのビーズが配されたデザイン。ブラック、ブラウンにうっすらとマーブル模様が施されたホワイトの配色で、落ち着いた味わいとどこか懐かしいような優しささえ感じさせます。円とカーブが重なったデザインは、20世紀のモダンアートのようにも見える一方で、深い歴史の蓄積を経たプリミティブな装身具のようにも見て取れます。それは、合わせるお洋服によってこのアクセサリーがいかようにも変化して見えるということと同値です。タイトなニットやカットソーと合わせれば都会的な雰囲気に、コットン、麻といったナチュラルな服地のワンピースに重ねればエスニックやボヘミアンといった一味違う印象にも。
モダンデザインの縮図とも言えるような幾何学模様が美しいデザイン。様々な大きさ、カラーのヴィンテージビースをピンで連ねた構成になっており、レッド、ブルー、ブラックといったビーズが耳元で揺れる様は、まさに唯一無二のシルエット。どこかポップアートを思わせるようなリズミカルな色合わせもユニークで、どんなお洋服と合わせるか考えるのが楽しくなりそうです。
存在感のある大粒のヴィンテージビーズがモードな美しさを演出する、ネックレス1584。円、四角形、直線、曲線という形のリズムに、黒、イエロー、ピンクという色のリズム。その2つの組み合わせが相まって視覚的なリズムが生まれているのがこのネックレスの面白いところ。まるでお洋服がキャンバスのようになり、その上にモダンアートが繰り広げられるような、そんな物語のあるアクセサリーに仕上がっています。一つ一つのビーズの存在感が大きいので、トップスはうんとシンプルにしても良いですし、あえて柄の入ったシャツやシフォン素材のブラウスを合わせても不思議とごちゃごちゃせず、上品にまとまります。
レッド、オレンジ、ブルーという3色のビーズが印象的に揺れるデザイン。直線と曲線のコントラストを上手に引き出した幾何学的なデザインになっており、シンプルなニットやカットソーの胸元に絶妙な存在感を放ちます。透明感のあるビーズは、合わせるお洋服の色味によっても印象が変わるのが面白いところ。モダンアートのような中性的なデザインなので、胸元にアクセントが欲しいけれどフェミニンなペンダントやネックレスとは違う装身具に踏み込んでみたいという方にぴったりです。
ボール状のビーズが連なった印象的なデザインの、ネックレス1563。ホワイトにブラックがまだらに配されたビーズが5つ、そしてレッド〜ブラック系の色味のビーズが1つだけというアシンメトリーのデザインになっているのがI.Ronni Kapposらしい遊び心を感じさせます。大ぶりのモチーフが連なったビーズジュエリーはその大きさから悪目立ちしやすいというイメージを持ちやすいですが、このネックレス1563はモダンな配色とアシンメトリーのデザインによって意外にもお洋服に溶け込みやすいのが特徴です。
ヴィンテージビーズを使用したビーズは、パーツ一つずつが貴重なため、破損や劣化を避けるのが一番。その上で適切なお手入れをすることで、長く愛用することが出来ます。
【心得ておきたい商品特徴】
・I.Ronni Kapposが使用しているヴィンテージビーズは、同じ種類でも趣が異なり、どの素材も唯一無二のパーツ。今からおよそ100年前に製造されたヴィンテージビーズは、パーツによって形・色味に個体差があります。
・14kゴールドフィルドパーツおよび24kコーティングビーズなど、金を使用したパーツは使い込むうちに色褪せがございます。アンティークのような色合いになることも魅力の1つと捉えて頂ければ幸いです。
【長く愛用するためのお手入れ方法】
・整髪料や化粧品が付着してビーズが劣化してしまうことも。ジュエリーの装着は、お化粧やヘアセットが終わった後にしましょう。
・日常的なお手入れは、柔らかいクロスで優しく磨くだけでOK。
(研磨剤の入ったクリーニング剤はビーズの風合いを損ねる可能性があるため、避けましょう。)
・ナイロンコードの汚れが気になる時は、水を含ませ固く絞った布で拭きあげます。
▶︎使い手によって味わい増すヴィンテージジュエリー。I.Ronni Kapposアイテム一覧