いつも自分に寄り添ってくれる愛用品は、使っていくうちに馴染んでいく様子が楽しみの一つ。丁寧に使い続けるモノがある一方で、普段気兼ねなく使うモノもあり、使い方も様々です。普段使いしていると、見方によっては汚れていると捉えられることがあっても、それこそが使っている証で、自分のモノという印にもなります。
フランス生まれのバッグ、TAMPICO(タンピコ)。「フランス」ときくとお洒落なパリジェンヌたちを思い浮かべることが多いかもしれませんが、自然豊かな土地が広がり、農業が盛んでワインの産地としても有名なフランス。広大な自然とゆったりと流れる時間が生み出した、肩肘張らないデザインが生まれるのもフランスならではかもしれません。
肩肘はらず気軽にずっと使える、けれどシンプルな美しさ。そんなフランスの美学が詰め込まれているTAMPICOのバッグに私たちが惹かれる理由、そのルーツはどんなところにあるのでしょう。今回は、TAMPICOの日本正規販売代理店であるスタンプスの吉川さん、岩佐さんにお話を伺いながら、TAMPICOバッグの魅力に迫ります。
「TAMPICOのバッグたちは、デザイナー兼オーナーであるニコルさんの作品なんです」とにこやかな笑顔で対応してくださった吉川さんと岩佐さん。お二人とともに、展示会にお邪魔した私たちを出迎えてくれたのは、ずらりと並んだたくさんのTAMPICOのバッグたちです。それぞれ少しずつ形は違いますが、どのバッグもシンプルでありながら堂々とした佇まい。
TAMPICOの歴史は二十数年ですが、その起源を遡ると、1928年に南フランスのボルドー市郊外の小さな町、Mussidan(ミュシダン)で設立したJ.MARTIN TREPOINTES社という革工房にたどり着きます。ブランド名のTAMPICOのTAM(タン)は「タンニン鞣し」のタンから、PICO(ピコ)はウェルト製法で作られた靴のソールに見られる、ジグサグした帯状の革部分をフランス語でPICO(ピコ)ということに由来しています。
年月を重ねていくことは、時として劣化というイメージにつながることもありますが、フランスでの捉え方は大きく異なります。それは人間が年を重ねていくことにも通じていて、フランスの女性は年を重ね、顔に出来たシワを恥ずかしいとは思わず、それこそが美しいものとされています。
「例えば、これはわかりやすい例ですね」と、吉川さんが見せてくださった収納バッグ。
くったりとした表面が特徴的な収納バッグ(小物入れ)は、2つとも実際に普段使われているそうで、TAMPICOと同じくキャンバス生地で作られているとのこと。収納するためだけの用途であっても、その佇まいの美しさは使い込んだモノならでは。「日常使い」というTAMPICOバッグへの想いが込められているようです。消耗品は時として便利ですが、長く使い、日々の生活の中で目にすることを考えると、その丈夫さはもちろん美しさもフランス人にとっては重要なポイントだそう。モノを単なる道具として捉えるのではなく、使い込むことによって現れるモノの変化を美しいと考えることは、フランス人ならではの美的感覚なのかもしれません。
週末は家族でゆったり過ごす、デザイナー兼オーナーのニコルさんの別荘。ソファの上に掛けられた絵は、美術大学で絵画を学んだニコルさんが描いたものだそう。
ブランドロゴが刻まれた、可愛らしい革のチャーム。
TAMPICOのはじまりは、ブランド名の由来ともなった革靴の「ウェルト」(アッパーとアウトソールに縫い付ける、細い帯状の革のこと)を製造する家業から。その家業によって培われた、革の縫製技術が現在のTAMPICOのバッグ作りにも活きていて、使われているレザーもそのつながりから上質なレザーを使用しています。またそのものづくりの工程も、ニコルさんの家族がそれぞれ役割を持ちながら続けているのだとか。
吉川さん:
詳しい製造に関することや素材に関することは、彼女たちは簡単に教えてくれないんですが、ニコルさんの愛情がTAMPICOというバッグに注がれていることは、話しているととてもよく伝わってきます。工房は、彼女たちがバッグを実際に作っているフランス郊外のMussidan(ミュシダン)という街にありますが、他にも名だたる有名ブランドの工房が集まっている地域なんです。一連の流れとしては、ニコルさんがバッグのイメージを作り上げたあと、パートナーのディディエさんがパターンを引いて実際にサンプルを作ります。娘のジュリーさんもお母さん譲りでアートに秀でていて、彼女のアイディアから実際に形になったものもあるんですよ。
実際にニコルさんの娘・ジュリーさんが形を考えたモデル、その名もDINOSAURES(ダイナソー)! 楽しげなニコルさん一家の雰囲気が、商品名からも伝わってくるようです。
モノをぽんぽん入れ、ガシガシ使うことを考えて作られたTAMPICOのバッグ。「お洒落のために、綺麗に使う」バッグではなく、市場で買い物をした野菜を入れるエコバッグとして、遠出をするときに必要なものを入れるトラベルバッグとして、時にはモノを収納するためのインテリアとして。フランスで暮らす人々の生活にいつでも頼もしく寄り添うのが、TAMPICOのバッグなのです。
例えば、「BEACH BAG」というバッグ。
このバッグはその名の通り、ビーチに持っていくためのバッグとして誕生したのだそう。フランスの避暑地としても名高いArcachon(アルカション)。ニコルさんが青春を過ごした場所であり、今では一家の「週末の家」として別荘を構えている場所です。ワインの産地として有名なボルドーに住む人の多くは、このArcachon(アルカション)でバカンスを過ごすとも言われています。車を停める駐車場から続く海への一本道はなんと何キロも離れているそう。日本でいう海の家、フランスには存在しません。そんなビーチに向かうとき、手に持たなければいけないものは水着や着替え、タオル、飲み物・・・と多岐にわたります。海で楽しく過ごすためのバッグなので、大容量で丈夫で、持ち運びしやすいサイズかつ、持っていく姿もフランスらしいシックな格好良さが実現されたデザインに。
吉川さん:
ただ荷物を入れて運ぶためだけだからといって、ショッピングセンターのエコバッグではフランスらしい格好良さは出せないんです。選び取る雑貨、使う日用品、全てが使う用途以上に、それを身につけたときに美しさまで考えられて作られています。あとは「自分たちが使うため」に作っているというところも日本人にはない感覚ですよね。多くの人に受け入れてもらおう、じゃなくて自分たちが使いやすいバッグを作る。その潔いシンプルさが、機能性やデザインをより際立たせているようにも思います。だからこそ、バッグのサイズも、彼らのライフスタイルをもとに作られているから、日本で普段使いしようとすると大きいんですよね。日本では一回り小さいサイズを展開していることが多いです。
日本で展開しているサイズは、実際にフランスで使われているサイズより少し小さめ。実際にはそんなに“SMALL”でもないんですよね、と笑顔を見せる吉川さん。
バッグ:SMALL MINI BEACH BAG、スカート:リネンティアードスカート、スニーカー:SHELLCAP LOW AI/OFF WHITE、スカーフ:【別注】スカーフ 43×43
「BEACH BAG」にそんな制作背景があるならば、と他のバッグについて伺ってみると、抽象画家でもあるニコルさんの人柄が見えるような答えが。
ニコルさんの自宅には、ニコルさん自身が描いた抽象画が並んでいます。
吉川さん:
全てのバッグの名前に意味があるわけではないんです(笑)MANHATTANやBROADWAYなど都市名が名付けられている場合もありますが、特別な意味が込められているわけではなく、閃き、インスピレーションなんだと思います。そのあたりのことについて、ニコルさんはあまり多くを語りませんね。きっと言葉以上の何かが彼女の中にあるのでしょう。あとは、カラーリングにもその直感的な感覚は出ているように思います。展示会へ足を運ぶ度に、新しいカラーの商品があって。日本の商品として仕入れるときは比較的ベーシックなカラーを選んでいますが、実際に現地へ足を運ぶと発色のはっきりしたバッグもたくさんありますね。
生地見本をいくつか見せてくださいました。見本をまとめている細い革紐のカラーが、向こうでは持ち手に使われることもあるそう。
バッグ:ZANZIBAR BAG S、トップス:ボーダーカットソー BREST P BLUE/ROUGE、シューズ:ビットローファー スエード ベージュ
実際に取材したスタッフもTAMPICOのバッグを愛用していますが、はじめに感じたことは「大きい」こと。そこが気に入ったポイントでもあったのですが、その理由は先述した、ニコルさんの普段の暮らしを伺うと、なるほどと納得します。今回、さらにその特徴について伺ったところ驚くことが。
吉川さん:
実は日本に来ているTAMPICOバッグの8割が、日本オリジナルの規格なんです。フランスで使われているサイズをそのまま日本に持ってくると、体格の違いからやはり大きすぎて。実際僕もカタログ上で見ていた商品を手元で見たときは驚きました(笑)先ほどお話した「BEACH BAG」も、彼女たちが使っているオリジナルのサイズはこのSMALLより一回り大きいんですよ。
ZUTTOでもお取り扱いのある、PETIT PANIER XS(右)。オリジナルサイズ(左)と比べるとこんなに違います。
吉川さん:
フランス人女性の”格好良い”スタイルに合うのは、大きいサイズなんです。小さいとどうしても”可愛く”なってしまうんですね。バッグを手にしたときのスタイルや、美的感覚というところにこだわりを持っていますね。その格好良さがTAMPICOの魅力だと思います。日本へ仕入れるための形、カラーを選ぶときもその格好良さや美しさが伝わるバッグを選ぶようにしています。
日本ではおなじみの黒いレザー。「道具としての美しさ」を知ってもらうため、敢えて黒いレザーのものを仕入れているそう。
日常使いをするからこそ、耐久性にはニコルさんのこだわりが表れています。実際に愛用者であるスタッフも感じていたことですが、TAMPICOのバッグは触れてみるとわかる通り、しっかりとした厚みのある生地。その秘密は、コットンを2枚重ねてボンディングをしていること。この工夫で生地の強度がぐんとアップするのです。
ぱっと見ただけではわかりませんが、生地の見本で試してみると、確かに2枚重ねです。
岩佐さん:
ちょうど先日、10年前に買ったTAMPICOバッグの修理をご依頼頂いたんです。持ち手が外れてしまった、とのことだったので、国内で修理する形でお受けしました。実際そのバッグは使用感はもちろんありましたが、コットンはどこも破れておらず、本当に持ち手部分がぽろっと外れていただけでした。修理後も問題なくお使い頂ける様子でしたね。長く使うことを考えて、耐久性はしっかりと考慮して作られているのだと思います。
実は今回、スタッフが1年使ったBAG MANHATTAN(※ZUTTOでのお取り扱い終了商品)と、使い始めたばかりのPETIT PANIER XSを見て頂き、お手入れのことや使い方についても伺いました。
【BAG MANHATTAN(使用歴:約1年)】
◇使用頻度:週1〜2回、書類・ペットボトルなど比較的荷物は多め。
岩佐さん:
そうですね、こちらは中底もあるので、より丈夫で、型崩れもしにくいタイプです。BROADWAY BAGも同じように中底があるので、お仕事で使いたいという方や、重たいものを入れることが多い方にはおすすめですよ。
バッグ:BROADWAY BAG、スカーフ:MANTERO シルクスカーフ (70×70)、シャツ:OVER SIZE PULLOVER シャツ、パンツ:バンブーコットン サルエルパンツ
岩佐さん:
はい。クローゼットに仕舞ったままにせず、たくさん使って頂くことがお手入れのようなものかもしれません。レザーも、使うごとに手の油分が馴染んでいって柔らかくなります。ホコリが気になる箇所は洋服ブラシなどで軽く払うだけで大丈夫ですよ。
【PETIT PANIER XS(愛用歴:約1ヶ月)】
◇使用頻度:週2〜3回、お弁当箱やカメラなど比較的かさばるものも入れています。
岩佐さん:
素材本来の風合いを生かすために、キャンバス・革部分ともに防水加工は施されておらず、防水スプレーの使用は推奨していません。というのも、生地を2枚重ねて接着剤で張り合わせしたものを使用しているため、防水スプレーを使用することによってスプレーの水分で接着剤が剥がれて空気が入り、表面が浮いてきてしまったり黒ずみのようになってしまう恐れがあるためです。軽い汚れでしたら消しゴムで落ちる場合もありますし、日頃からのブラッシングで汚れの定着を防ぐこともできます。汚れを気にせずに普段使いにすることもTAMPICOらしさのひとつとして、使っていただければ嬉しいです。
お財布、お弁当はもちろんのこと、コンパクトな一眼カメラまで入ってしまう収納力。
吉川さん:
もともとこのPANIER(パニエ)の形は、ニコルさんの家でクッション入れのような立ち位置で使われていたんです。もちろんインテリアとして見ても遜色なく、自然と馴染んでいました。さらには家のソファにもTAMPICOのキャンバス生地が使われていて、彼女たちの生活の中から自然と生まれてきたというTAMPICOのルーツを感じました。「モノとして丈夫でちゃんとしていること」と「フランスらしい洗練されたシンプルさ」が見事に融合していて、フランスの美学が詰まったブランドですね。
今回お話を伺い、TAMPICOの生みの親・ニコルさんの根本にある「先を見据えたモノづくり=長く使えるスタイル」という考え方を随所に感じた今回のインタビュー。可愛らしいパリの雰囲気とは少し異なり、ゆったりとした一面とものづくりにストイックな一面を併せ持つニコルさん一家の人柄と、彼女たちが育ったフランス郊外の自然豊かな風景が浮かんでくるよう。フランスの”格好良い”が詰まったTAMPICO、その使い勝手の良さは一度手にしたら忘れられないバッグです。
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