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時を旅するヴィンテージウォッチに魅せられて。GS/TPブランドインタビュー

 

 

かつて時計という概念さえなく、お日様や星の動きだけで時間を推し測っていた時代を、私達はどれほど想像することが出来るでしょうか。1秒、1時間、1日。それは万人共通のものさしとして扱われますが、1秒1時間という感覚は、時計という文明の利器によってこそ裏付けられるもの。

今回取り上げるのは、ヴィンテージウォッチの世界。スマートフォンで正確な時間が分かる時代に、私達が「腕時計」というアイテムに惹かれる理由をもっと知りたくて、腕時計ブランド「GS/TP」卸元である(株)L.F.Cさんのショールームでお話を伺いました。

 

 

 

 

 

様々なファッションメーカーがショールームを連ねる東京・北参道エリア。今回お邪魔したショールームも、そんなエリアに佇んでいます。お話を伺ったのは、GS/TP(ジーエス・ティー・ピー)の腕時計の企画に携わった高橋昌樹さん。高橋さんは数々のヴィンテージウォッチをメンテナンスし、全国のセレクトショップに紹介したり、自らイベントに立ちヴィンテージウォッチの楽しみ方を伝えてきたという、ヴィンテージウォッチのプロです。

 

 

 

 

 

腕時計の歴史と、ヴィンテージウォッチの魅力

 

ショールームに伺うと、そこにはずらりと並べられたヴィンテージウォッチの山が。1960年代頃の海外製品を中心に、高橋さんがセレクトされた腕時計が並びます。

 

 

 

いろいろな腕時計がありますね。年代やメーカーも様々で、どうやって見分けたら良いのか素人にはとても難しく感じます。
どこから手をつけて良いのやら・・・。古い年代の腕時計は、機械としての特徴も奥が深そうです。

 

そうですね。ヴィンテージ時計はどれも唯一無二の一点物なので、年代やデザインによっていろいろな分類をすることが出来ます。どんな軸で分類するか迷うところですが、大きく違うのは「機械式」「クオーツ式」という時計本体の駆動方式です。

針が回って時刻を示すという時計の技術が生まれたのは、400年も昔のこと。それ以降、時計の要素というのはデザイン面でも技術面でもあまり変わらずに変化してきました。そんな中、一番大きな変化といっても過言ではないのがクオーツ時計の誕生です。当時時計の基本はゼンマイを巻き上げ、それが解けていく動力を利用した機械式と言われるものだった中、1960年代に日本の時計メーカーSEIKOが電池で動く精密な時計を発表したという有名な出来事です。

 

 

 

時計の精密さを、機械式時計では「日差」で表すのに対し、クオーツ時計は「月差」で表します。クオーツ時計は日ごとのズレがほとんど気にならないくらい精密ということですね。機械式時計は、季節によって日差が変わるという特徴があります。時計の中身は鉄部品の塊なので、冬は縮んで進みが速くなり、逆に夏は膨張して少し遅くなります。いかにもメカという感じがしますよね。でもこの手のかかりようが、機械というよりもむしろ生き物のような存在に見えてきます。これは僕の師匠の言葉ですが、「時計は、世界で唯一身につけられるアートだ」と。絵画や彫刻を身につけることは出来ないけれど、こんなにも小さな文字盤の上に、緻密で美しい世界で描かれている様相はもはや芸術の域です。

 

 

 

 

「不便を愛でる」ことが出来るかどうか

 

 

 

クオーツ時計と機械式時計、それぞれに良さがあるのだと思います。
ただ、使い勝手という点では、精密で巻き上げの必要がなく、メンテナンスも手軽というクーツ時計の方が圧倒的に優位に見えてしまうような。
それでもなお、機械式の時計に惹かれる理由が気になります。

 

一つは愛着の湧き方でしょうか。確かに機械式は不便です。ランニングコストという点で手間もお金もかかります。身も蓋もないですが、これはもう自明ですよね、はい(笑)。でもその不便を楽しめるか、愛でることが出来るか。そう考えたときに一種の趣味性が出てきます。実用品としての機械ではなくて、ちょっと手がかかる方が愛着が湧くように思います。クオーツ時計の方が簡単だし精密。スマートフォン一つで時間は分かる。そんな時代にあえて機械式の時計、特に手巻きの腕時計を選ぶなんで物好きだねというお話になりますが、その不便さが悪とは限らないということかと。

 

 

不便を愛でるなんて詩的です。ロマンがあります。
どうしても便利さや正確さで比べがちなのは、現代人の癖ですよね。

 

 

気づいたら新しくて便利なものに囲まれていますもんね(笑)。ただ、メカとして機械式が優れている点もあるんですよ。精密で分かりやすいという理由でクオーツが機械式に勝ると捉えやすいものの、実は時計として長生きなのは機械式。一般的なクオーツ式ムーブメントの寿命が30年と言われるのに対し、機械式時計はパーツ単位での修理や交換がしやすいので、50年60年と実用に耐えます。よく、親の代から子へと時計を受け継ぐと言われますが、これが出来るのは機械式です。クオーツ式だと、「父ちゃんから貰ったはいいけど動かないじゃん!」となりますよね。

 

クオーツ時計も、ムーブメントを丸ごとごっそり入れ替えれば使い続けることは出来ますが、中身が全くの別物になってしまったら、それがもとと同じ時計かと言われると、やはり違いますよね。それにクオーツムーブメントは中身を丸ごと入れ替える必要があるので、そのムーブメント自体がメーカー廃盤となると、修理しにくくなります。その点、機械式のムーブメントは歯車一つ、ネジ一つの単位で修理が出来るので長生きです。今から50年以上前の時計が今も時を刻むというロマン。これは機械式時計だからこそ為せることなんです。

 

 

 

時計を腕時計たらしめるのが、ベルトの力

 

 

 

ベルトがついていない時計もたくさんありますね。
どんなベルトを組み合わせるかで様々なバリエーションが楽しめそうです。

 

 

機械式の時計本体はメンテナンスしながら何十年も持つのに対し、付属品のベルトはどうしても消耗品になります。夏はステンレス、冬になったら革ベルト、という風に気軽に付け替えて愛用していくのがおすすめです。時計本体しっかりとした「本物」を選びさえすれば、あとはベルトを付け替えるだけで幅広いバリエーションを楽しむことが出来るというのも、腕時計の楽しみ方の一つですね。

 

あとは、誰もが知るような高級腕時計に、あえてカジュアルなベルトを合わせるというのも個人的には好きです。流行りのあのブランドかな?と思わせておいて、よくよく見ると1960年代のロレックスだった!なんてひねりが効いていて面白いかなと。「格好良い」は一過性ですが、「美しい」は普遍です。一過性の格好よさは、時が過ぎれば「ダサい」に変化しますが、例えるなら「モナリザ」のような存在の美しさは何百年たっても褪せない。それと同じで、美しい時計ならどんなベルトでも大抵マッチしてしまうというのが良く分かります。

 

 

ヴィンテージロレックスに、あえてチープテイストのベルトを合わせて。

 

 

GS/TP(新品)の同じムーブメントに異なるベルトをつけて。上から2番目がJBグレーのベルト。

 

 

ちなみにこちら(写真上から2番目)、007の初代ジェームズ・ボンド役を演じたショーン・コネリーが映画の中ではめていた腕時計のベルトをモデルにしていて、「JB グレー」と呼ばれています。

当時は白黒映画の時代。白黒の銀幕ではグレーの縞模様に見えていたのですが、最近デジタルリマスター版で改めてこの映画を見直してみたら、実はバンドがグレーベースではなく、赤いポイントカラーが入ったカーキだったと判明。腕時計業界でちょっとした話題になったという可愛いエピソードもあるんですよ。そして、最近同じジェームズ・ボンドを演じたダニエル・クレイグは初代ボンドへのオマージュで、この「JB グレー」のベルトを配した腕時計を付けて映画に登場しています。なかなか小粋ですよね。腕時計がファッションの一部であること、時代を超えて愛されることの良い例かなと思います。

 

 

 

腕時計を身につけるという原体験

 

ヴィンテージ時計の面白さや楽しみ方を知った上で、
最近は腕時計を持つという経験そのものが減っていることを考えると、少し寂しい気がします。

 

 

そうですね。CASIOのG-SHOCKが爆発的に流行した1990年代にファッションの原体験を持つ世代です。僕自身は仕事柄、骨董市などで見つけるヴィンテージウォッチはもちろん大好きですが、新品の腕時計も隔てなく好きですよ。

あの当時は、ファッションと腕時計というモノの距離がとても近かった。同世代の方には頷いて頂けるのではと思いますが、セレクトショップでシャツやパンツが並んでいる中に、腕時計のショーケースがあるという風景がそこかしこにあったんですよね。時計屋さんに行って「よし腕時計買うぞ」ではなく、服屋さんでTシャツを買ってその流れで腕時計に目が行くというような。時代が進んで、服、靴、バッグと同じラインに腕時計が並ぶというお店が減り、腕時計の経験を持ちにくくなるのはやはりちょっと寂しいなと思います。売り手としても、愛用者としても。

 

 

左:GS/TPのクオーツブラックダイアルQMD03B / 右:高橋さん私物

 

これだけたくさんの腕時計を目にしている中で、高橋さんご自身がどんな腕時計を愛用しているのか気になります。
普段はどんな時計をお使いですか?



常時5本くらいのバリエーションを気分に合わせて選びながら使っています。今日付けている時計は、60年代にドイツ軍に供給されていたスイスブランドのものです。今何時だかちょっと分かりづらいのですが、実は24時間表記になっているんですよ。1日でちょうどぐるっと1回転。もうなくなってしまったブランドというのもありますが、今の感覚では絶対に生まれないディテールが散りばめられているというのもヴィンテージウォッチの魅力です。クオーツショックが引き金となり、60年代以降たくさんの時計ブランドが淘汰されていったのはとても惜しいですが、だからこそ特別感を感じられるというのは少しアイロニックです。

 

 

試着します?と即席でZUTTOスタッフに似合うヴィンテージウォッチを見繕って。

 

 

 

 

ヴィンテージウォッチを修理し、蘇らせることでもう一度命を吹き込む。
そうやって数々の腕時計を販売されてきた訳ですが、やはりファンは男性が多いのでしょうか。

 

やはりこの手のアイテムは男性との相性が良いように思いますが、お客様は男女問わずいらっしゃいます。年代の古い腕時計はフェイスが比較的小さく作られているので、メンズの時計でも女性の腕にフィットしやすいという特徴があります。またこれは実際に見ていて思うことですが、女性は「かわいい!」という第一印象で購入されるのに対し、男性は背景にある歴史の蓄積というか、所謂「ウンチク」を重視されるようです。僕は「つり革バトル」と呼んでいるのですが、電車でつり革を掴んでいる手首は無意識に見てしまいますね(笑)おっ!と思う腕時計をつけた人がいると、この人なかなかやるな、と思いますよ。

 

そうやって時計の知識を蓄えて趣味を深めるというのももちろん良いですが、あまり深く考えずに気になる腕時計を一つ手に入れてみるという気軽さも良いと思います。ちょっとした注意点さえ守れば取り扱いは難しくないので、男女問わずヴィンテージウォッチならではの世界を楽しんで頂けたら嬉しいですね。

 

 

 

 

 

時計の心臓、小さな宇宙を覗き込む

 

ここで時計の心臓部であるムーブメントを見せて頂くことに。腕時計の印象は文字盤のデザインで決まりますが、何十年という年代を超えて受け継がれてきた腕時計は、実際に針を動かす駆動部分にも違いが見て取れるとのこと。年代がおよそ同時期で、異なるメーカーの腕時計を3種類見せて頂きました。

 

 

 

 

 

 

 

時計の内部はなかなか見る機会がないので、ドキドキします。
年代やメーカーによってどんな違いがあるのでしょうか?

 

それでは、およそ1960年頃の時計を開けてみましょう。時計ファンでなくとも誰でも聞き覚えのあるOMEGA(オメガ)、名実ともに最高級といわれるIWC(International Watch Company)、手に取りやすく、価格帯と性能のバランスが良い日本ブランドCITIZEN(シチズン)です。こうして見ると、やはり高級時計と言われるブランドは中身まで細やかな細工が施されていたり、パーツ一つ一つの重みが違っていたりと、随所に違いが見られます。

 

 

 

 

修理者の目線で見ると、やはり中身を見てみたいという好奇心も大きいのでは?

 

そうですね、これだけ沢山の時計を見てきても、毎回一期一会の出会いがあります。それにヴィンテージウォッチというのは修理とメンテナンスを重ねていくものなので、見る人が見れば、これまでの修理士がどんなメンテナンスを施してきたか分かるというのも面白いポイントです。例えばこのOMEGAの時計。メーカーの刻印とは別に、うっすら傷がつけられているの、見えます?これは今までにこの時計をメンテナンスしてきた修理士のサインのようなもの。

 

 

オメガのヴィンテージウォッチの裏蓋。ブランドロゴの周りに付けられた引っ掻き傷が、実はリペア師のサイン。

 

絵画に書くサインのように、自分がこの時計にメンテナンスしましたよという印を残すんですね。メーカーが作った完成品に跡をつけることになるので賛否あるようですが、僕自身はこうした遊び心もヴィンテージウォッチの楽しみとしてカウントして良いのではと思っています。お互い顔は見えなくても、前にこの時計を開けた人がすごく丁寧な仕事をしているのが分かったらこちらも張り切るし、逆に何年か後、自分の修理跡を見た別の修理士が僕の仕事を見て頷いてくれたら、それも嬉しいです。そういった形で、ヴィンテージウォッチは文字通り時間とともに育っていくんです。

 

 

 

 

ブランドごとにシリアルナンバーの対応表があり、どの年代に作られたものなのかが分かる。

 

 

 

 

ヴィンテージを知り尽くした先で、GS/TPの腕時計を手に取る

 

 

 

 

 

 

 

ZUTTOでもご紹介しているGS/TPの腕時計は、こうしたヴィンテージウォッチの真髄を受け継いで製品化されたもの。
時計好きをも唸らせるポイントが満載の仕上がりですが、そのアイデンティティについて教えてください。

 

ファッションの延長として身につけられる時計で、なおかつヴィンテージウォッチに対して向けられるような愛着をもって長く愛用出来るものを、という視点で作りました。

最初にリリースした時は「文字盤が小さい」との意見を頂くこともありましたが、逆に現代の時計がやたらと大きいんですよね。物理的に大きくして存在感を演出すれば格好がつきやすいので、こうした傾向がある訳です。だからこそ、ヴィンテージ時計に見られるような小型のフェイスを採用して、初期の航空計器用の時計に見られるようなディテールを散りばめています。語り尽くせないほど沢山のディテールを詰め込んでいるので、細かな情報はZUTTOさんのカタログページを読んで頂くとして(笑)、古いものを愛用するような感覚で育てていける新しい時計を目指した、ということが使い手の方に感じて頂けたら嬉しいです。

 

 

新品の時計を、年月をかけてマイヴィンテージへと育てる楽しみがある訳ですね。

 

ヴィンテージデザインに興味はあるけれど、古いメカを触るのはちょっとハードルが高いという方にもおすすめかと思います。また、機械式(手巻き)とクオーツ式両方のモデルを用意しているので、機械式も良いけれどやはりクオーツが便利!という方にも、もちろんご愛用頂けますよ。

「不便を楽しむ」という視点で熱く語ってきましたが、最後は直感で楽しむというのが正解だと思います。あまり難しく考えずに、シャツを買う、パンツを買う、バッグを買う。その並びに腕時計という選択肢が広がれば嬉しいですね。

 

 

機械式時計を始めてみたい方へのアドバイス

 


—機械式の時計を長く使うためのポイントは?

ヴィンテージの機械式時計は特に、「衝撃」「水分」の2つが苦手です。時計ケースに用いられている金属は気温によって伸び縮みするので、数ミクロンの隙間が出来ます。見た目には分からなくてもこの小さな隙間から水分が入っただけで中のパーツに影響が出てしまうので、水に濡れないように注意が必要です。また時計本体に衝撃を与えてしまうと、この隙間が大きくなったり中のパーツにゆがみが生じたりします。


—メンテナンスは?

3年に一度を目安に、オーバーホールという分解清掃が必要です。絶え間なく動き続ける時計内部は、パーツとパーツが擦れ合うため、潤滑油を差してあります。古くなった油を綺麗に取り去り、新しく油を差すことで、部品の磨耗・故障を防ぎます。

 

—日常的な使い方は?

仕舞いこまずに、日常的にゼンマイを巻いて動かしてあげること、時計として愛着を持って接してあげること。この2つだと思います。

 

 

 

 

 

 

▶︎GS/TP(ジーエスティーピー)について

 

ものづくりに厚い信頼を寄せられるイギリスのメンズブランドTENDER のデザイナーWilliam Kroll氏のデザイン監修と、アンティーク時計を蘇らせる日本人の職人技との協業によって誕生したオリジナルウォッチコレクション。 
GS/TPとはイギリス軍が1939〜45年に軍用懐中時計をバーリントンやオメガ、CYMA社等に依頼して生産していた際、ブロードアロー(イギリス軍の印)とともに時計の裏側に刻印していた名前に由来しています。GSTP(General service time piece):軍支給の時計といった意味。 今回ご紹介したようなヴィンテージウォッチの世界観をそのまま現代に蘇らせた、気鋭のコレクションです。

 

投稿者: 斎藤 日時: 2018年06月17日 10:00 | permalink

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