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守袋から座布団まで。伝統的な型染め技法を柔軟に変容して今に伝える、ポンピン堂

 

 

世界にも、そしてもちろん日本にも布に色や絵柄をつける「染め」の技術は数多くありますが、その中でも最も細かい紋様の表現が可能なのは「型染め」と言われています。

今回は、慶応3年(1867)創業の型染め屋である更銈(さらけい)から生まれた本品堂(ポンピン堂)を訪れ、型染めの魅力と紋様の美しさを探っていきます。

 

 

本品堂の型染めが生まれるところ

 

 

 

訪ねた工房は、浅草駅と南千住駅の間にありました。観光地の賑わいから少し離れただけでガラリと印象が変わる下町の様子と、ものづくりを生業に古くからこの地に根付いてきたのだろうと推測出来る工房が点在しています。

 

元々は浅草寺の近くで創業した更銈(さらけい)ですが、時として場所を変えながら、2014年にまた浅草の地に戻ってきたそうです。現在の工房は、なんと元診療所。待合室や診察室がそのまま残る状態から、壁を取り払い、フローリングを敷き、染めのための作業場をほとんどご家族とご友人達で作ってしまったのだとか。

 

 

本品堂(ポンピン堂)の製品から感じる温かみややわらかさと同じような雰囲気に包まれるこの場所で、ご家族3人で企画・デザイン・製作・発送など全てのお仕事をされています。

お話を伺ったのは本品堂(ポンピン堂)代表の大野さんと奥様の資子さんです。

 

 

 

更銈の伝統的な型染め技法、糊防染総手挿

 

今から約150年前、幕末の世に創業した更銈(さらけい)は資子さんのご実家の家業で、現在5代目でいらっしゃいます。着物の反物や帯を染め上げる「江戸型染め屋」として続いてきました。

 

大野さんはもともと特注家具のデザイナーさん。資子さんと知り合う前は型染めについてはもちろん、日本の伝統工芸などとは縁遠い環境にあったと言います。そんな大野さんが魅了されたのは、更銈(さらけい)が所有する、江戸時代から受け継がれてきた型紙です。

 

 

 

型染めの柄表現には、和紙に紋様を切り抜いた型紙が必要不可欠です。その意匠の緻密さや美しさ、そして脈々と受け継がれてきた技術に衝撃を受けこの世界に飛び込みました。

 

型染めにも技法が多く存在するのですが、更銈(さらけい)は糊防染総手挿(のりぼうせんそうてざし)と呼ばれる技法を取っています。

とても簡単に言うと、「型紙を使って布に糊を塗り、色が染まる部分と染まらない部分をつくり、色が染まる部分にのみ色を挿れていく」というもの。

 

その手順は何とも気の遠くなるような、かつ大変貴重なものでした。

 

1.柿渋で和紙を貼り合わせた「渋紙」に、紋様を彫ります。

 

2.生地に渋紙を合わせ、ハケで糊を塗っていく。糊が乗っている部分は「防染部分」といって染まらないので、それ以外の部分にのちほど色を挿していくことになります。

使用する糊は、もち米に水、塩、米ぬかなどを混ぜて作られています。

 

3.豆入れと呼ばれる、下地処理を施します。大豆の汁を生地全体に塗ると、染まりつけが良くなり、色を挿した際ににじみ止めの役割を果たします。

 

4.灌滴(かんてき)と呼ばれる、ローラーの付いた台に生地をセットし、色挿しをしていきます。1色ずつハケで色を挿れ、手元の部分が終わると生地を引っ張って回しながら作業を繰り返します。

 

5.高温の蒸気で生地を蒸し、染料を反応させることで色が定着します。この工程により生地に馴染んだ本来の色合いになります。

 

6.生地を水で洗い、型をつけていたもち糊を丁寧に洗い落とします。

ゴシゴシとするのではなく、そっと指でつまんでふり洗い、を一反分繰り返します。

その後、色止め処理や脱水、乾燥、地直しという生地の整理を経て、ようやく完成です。

 

 

 

 

いまに伝えたいことを優先すると見えてくる、本品堂の手法

 

本品堂(ポンピン堂)が基盤としているのがそういった伝統的な江戸型染めではあるものの、やはり現代の生活での使いやすさや価格とのバランスを考えると、そのまま製品にしたのでは立ち行かなくなることは一目瞭然です。

本品堂(ポンピン堂)が目指すのは、伝統紋様の美しさを知ってもらうこと。生活の中で気兼ねなく使ってもらうこと。そばに置いて、感じてもらうことです。

 

その実現のために試行錯誤を繰り返し、たどり着いたのが「抜染(ばっせん)+捺染(なっせん)」という表現方法でした。

抜染:あらかじめ1色に染めた生地に、特別な糊を塗り型どった部分のみ色を「抜く」ことで柄を出す手法。

捺染:色をつける手法。

 

守袋 扇に梅

 

抜染は、元の布色に堅牢度(色の定着度)が高いものを使用することが出来るので、日々持ち歩けるような、型染めの魅力を伝えていくためのアイテムとして最適でした。抜染によって型どった紋様に、更に色を挿れて命を吹き込んでいくのが捺染です。

 

糊防染総手挿(のりぼうせんそうてざし)から生まれる布が伝統工芸品だとしたら、本品堂(ポンピン堂)が手掛ける型染めはそのエントリーラインです。伝統紋様の魅力を伝えるためにはじめた、更銈(さらけい)の技術+大野さんのデザインのアウトプット=本品堂(ポンピン堂)という訳なのですね。

 

 

 

守袋で、型染めに挑戦

 

お二人のご好意に甘え、型染め体験をさせて頂きました。挑戦するのは、ZUTTOでも人気の「守袋(まもりぶくろ)」です。招き猫や富士山、七宝など縁起の良い吉祥紋様をデザインした小さな巾着で、江戸時代では御守や護符を入れるために懐中に忍ばせていた、また魔除けのために子どもに持たせていたものです。

 

守袋 未

 

守袋に使用している素材は会津木綿。国内でも残りわずかのトヨタ織機でゆっくりと織られた生地は少しざらっとした手触りで、画一的でない深い表情です。

柄によってそれぞれの色に染められ、袋状になった状態のものからスタートします。

 

守袋に紋様を入れるために必要な型紙は2種類。

一つは、紋様全体のフォルムを抜染するためのもの。もう一つは、紋様の上に色を挿し捺染していくためのもの。下の画像は、抜染のための型紙ですね。うさぎ、千鳥、七宝などのフォルムが型抜きされています。

 

 

この型紙を使って、特殊な糊を塗り形を抜染したものが下の画像です。それぞれの形に色が抜かれていますね。

 

 

体験させて頂いたのは、愛らしいひつじ柄。ひつじの形に抜染されたものの上から、色を挿れていく作業です。

 

1.捺染用の型紙を彫る

 

色を挿れるのは、つぶらな瞳とまあるい角(つの)です。地紙の上にデザイン画を貼り、ペン型のナイフを使って彫っていきます。デザイン画の上から刃を入れなぞっていくのですが、ペン先が思うように曲がらず失敗する部分も…。

本品堂(ポンピン堂)ではデザインと捺染は大野さん、型紙を彫るのは資子さん、と大まかに役割分担をしているそうです。

 

2.色を調合する

 

日々持ち歩き使われることを想定し、使用するのは合成顔料。複数の色を混ぜて目指す色合いを探っていきます。「青をもう一滴入れてください。あと少し…。」などと、細かい指示を受け色が完成。

 

3.色を挿れていく(捺染)

 

小さなデッキブラシのような、毛先が同じ長さの鹿毛のハケを使って色を挿れていきます。染料はほんの少しで十分、大野さんいわくハケの端2mmほどに染料をのせ、お皿の上でブラシに行き渡らせてからそれをくるくる回しながら布に刷り込んでいくようにハケを動かします。水彩画の要領で染料をべったりとつけてしまうと、型紙の下部分に色が入り込んでしまい、思わぬところにはみ出てしまいます。

 

ひつじの角(つの)部分は、各パーツごとに内側に向けてグラデーションになっているので、まず外側の濃い部分を塗り、その色を内側にぼかしていくイメージで進めます。

 

4.熱で色を定着させて完成

使用する染料は多くないので、乾燥までに時間はかかりません。綺麗にアイロンをかけて頂き、完成です!

 

完成したものだけを見ると、「上手くいったかもしれない!」と思っていたのですが、製品のひつじと見比べてみると仕上がりが全く違いました。

 

 

左がスタッフ作、右が大野さん作のお手本です。

角(つの)の各パーツ、かどが尖っていて丸みのある可愛らしさが表現しきれていませんね…。地紙に彫った時点で決まってしまう部分です。

肝心のグラデーションは、色の移り変わりが弱いのと、薄い部分を薄くしすぎて輪郭が出ていないのが反省点。目は染料をのせすぎて大きく、これだけでも表情が全く異なるのだと驚きます。

 

当たり前ですが、簡単ではありません。

手で作り出すことの魅力は製品から伝わる人の温度ですが、それは決して不安定さとイコールではない。経験と年月によって染み付いた力加減や感覚を手に乗せて生み出すからこそ、温もりを感じながらも美しさを出すことが出来るのだと痛感します。

 

とは言え、最後の工程だけでも自分で作ったものはやはり嬉しいもの。何に使おうかと考えた結果、毎日持ち歩く「リップ・ハンドクリーム+常備薬」セットを入れてみました。

 

 

以前、初期の頃の守袋を十何年も使っていらっしゃるお客さんにお会いしたそうです。きっと生地も紐もくったりと柔らかく、色合いも変わっていたのでしょうね。いまはまだしゃんとした表情のこのひつじさんも、1年2年と使ううちに段々と変わっていくのが楽しみです。

 

 

 

取材中、大野さんが頻繁に仰っていたのは「糊際(のりぎわ)のやわらかさ」という言葉。これを解釈すると、型染めの魅力は「人の手」だということ。精巧で緻密なだけの表現を求めるのならばシルクスクリーンや他の方法はいくらでもあります。でも、求めているのはそういうことではない。

型染めも、言ってしまえば昔の「印刷機」。同じ紋様を効率的に規則的に生み出すための手法です。でも、やはりそこには人の手があり、温もりがあります。

人が紋様を描き、人が和紙に型を彫り、人が糊を塗り、そして色を挿れていく。そうした工程があるからこそ生まれるやわらかな表情に惹かれるのだ、と改めて感じた取材となりました。 

 

 

本品堂の守袋と小座布団

 

ご覧頂いた本品堂(ポンピン堂)の守袋の紋様はさまざまで、どれも江戸の粋人が好んだ、語呂掛けの縁起柄。 
例えば、体調を崩した友人に、早く良くなって欲しいという祈りを込めたり、健康祈願、祈願成就など、相手を想うメッセージをに込めた柄選びをすることができますので、大切な人への贈り物としてもおすすめです。 

いくつか例を挙げますと、

守袋 富士山

 

富士山

古くより霊山として信仰を集めてきた富士山。その秀麗な山姿から様々な美術•工芸品の意匠として描かれてきました。「富士」の読みに「不死」「不二(ふたつとない)」といった意味が重ねられ、開運招福、心願成就、長寿延命を象徴する紋様とされています。

 

守袋 千鳥

 

千鳥

千鳥は人々に親しまれ、様々な美術•工芸品の意匠として描かれてきました。描かれ方も豊富にあり、人々の愛着が感じられる動物紋様の一つです。「千鳥=千取り(多くのものを手に入れる)」の語呂合わせから、目標達成、勝運祈願を象徴する紋様とされています。 

 

守袋 瓢箪

 

瓢箪(ひょうたん)

蔓が広く生い茂り、果実が鈴なりに実る瓢箪は「繁栄」を表す縁起柄として様々な工芸意匠に用いられてきました。 
また瓢箪が六つで「六瓢=むびょう」が「無病」に通じる事から、江戸時代より健康長寿を願うたいへんおめでたい柄とされています。 

 

守袋 三つ扇

 

守袋は印鑑、小銭、お数珠入れ、大切なものや失くしやすいものを入れておくのに便利です。お菓子入れにもちょうどいい大きさですね。 

 

 

小座布団

 

小座布団

 

ZUTTOで新たにご紹介するのが、こちらの小座布団です。

工房で生地を染めたのち、布団職人さんに座布団への仕立てをお願いしています。職人の高齢化などの影響により、座布団はその技術とともに、今やほとんど市場に出回ることのない特別なものになりつつあります。

 

小座布団

 

中綿に保温性と吸湿性に優れたインド綿を使用した小座布団。綿花を繰り返し製綿機に通すことで不純物を取り除き、弾力のある柔らかな綿へと仕上げています。両手で抱えられる小座布団は、中綿に通常の2倍の量を使っているため、しっかりとした厚みと弾力を感じられます。座布団とはいえどちらかというとクッションのような形で、椅子やソファに座った際の背当てにもぴったり。サイズは小さめですが、もちろん小座布団の上に座ることも出来ます。

 

工房でも、愛らしい千鳥の小座布団が活躍していました。

 

 

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投稿者: 丸山 日時: 2019年03月17日 11:00 | permalink

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