いま着ている洋服、どこでどんな風に作られたかご存知ですか?
私たちが洋服を選び取る時、その判断基準はデザインやシルエットなどの見た目のお話が先行しがちですが、「生地」について考えてみるのはいかがでしょうか。
その土地で作られる意味がある生地、人の熱意がこもった生地、そして何より着心地の良い生地。今回は、洋服の生地に新たな価値を求めた「東炊き(あずまだき)」のお話です。
その生地に触れると不思議と心が軽くなるよう。空気を含んでふっくらとしていて、柔らかいのにシルエットを出す立体感はあって。体と肌を優しく包むような感覚は一度着ると虜になってしまいます。
それは、東炊き(あずまだき)という生地。
プレーンな生地である生機(きばた)を染め上げる段階で施す染めの工程を、昔ながらの手法で手間ひまをかけながら行って出来上がるのが東炊きです。シワが多く、たまに見受けられる色ムラ。大手ブランドがこだわる規格品としては欠点として捉えられてしまう特徴でも、そこには大量生産品とは比べられない魅力が詰まっています。
そんな東炊きのことをもっと知りたくて、生地の企画者・開発者にお話を伺ってきました。
東炊き生地の生みの親は二人いらっしゃいます。今回、そのお二人を訪ねて向かったのは東京都東日本橋と、向島。隅田川にほど近い、染め物工場でお話を伺いました。
お話を伺った方
大塚さん:東炊き生地の企画者。生地問屋として多くの生地を見て触れて、他にはない理想の生地を求めて自社生地の開発を企画されました。
川合さん:東炊き生地の開発者。向島に染工場を持ち、有名ブランドの生地も手がけていらっしゃいます。
他にない唯一無二の生地を紹介したい、という想いから、他社の生地を紹介するだけでなく新たに自分たちで生地を作ることにしたんです。天然素材を使った、柔らかくて、風合いが良く着心地の良い洋服になる生地を。
全国の染工場を訪ねて協力を求めて動きましたが、なかなか新しいことを一緒にやってくれるところがなくて、本当に最後に辿り着いたのが川合さんの染工場だったんです。
大塚さんの熱意に打たれたのと、染工場としてもこのままではいけない、と感じたからですかね。
大手ブランドは特に、規格に則って作られた生地でないと扱えないんです。色ムラのない生地、ネップのない生地、全て均一な生地。でもそういう生地は、今や日本でなくても世界中どこでも作れる。出来上がったものは全て同じ顔をして、ピシッと整っている。それならば、日本で自分たちがやる意味がないと感じていたんです。
自由な発想と自由なものづくりをしたい、そんな風に考えていた時に大塚さんからこういう生地を作りたいんです、とお話を頂いて。挑戦ではあるけれど、これまでやってきたことにあぐらをかいていたら駄目だ、という想いから受けることにしました。
「柔らかくて、風合いがあって、着やすい生地」というイメージはありました。それをどういう風に生み出すか、という手法は考えていなかったので、そこは川合さんにお任せして。
1年くらいかかってしまいました。一番最初に染めたものは、洗濯機からそのまま出した状態のようなシワくちゃで、そこからは工場に通いながらあがってきたものを修正依頼して、また試してもらって、という繰り返しです。
製品としては最初は6品番でスタートし、それから6年経って、カラバリや厚みなどの違いでいまや100品番にまで成長しましたね。
昔ながらの機械が壊れてしまったら、同じものは現在ではなかなか作れないそう。
東京で行う炊きこみ、という意味で「東炊き」と付けました。やはり、その土地土地で作れるモノ、作ることに意味のあるモノを見出したい、価値を求めたい、という想いがあったので。
江戸時代に生地を染める手法で、当時一番大きな釜であった五右衛門風呂で染めていたようです。釜に生地と染料を入れて棒でかき回して染めていたんですよ。
現代では生産性を優先して大きな釜で染めるので、昔一番大きな釜で行っていたはずの炊きこみも、今にしてみればとてもとても小さな釜という扱いになります。もちろん、さすがに五右衛門風呂では染めませんが、生地を染めるのにはかなり小さい釜を使っています。大手はこんなサイズは使いませんね。小さな釜ということは、それだけ一度に染められる量にも限りがあるということなんです。大量生産に向いていない分、細かなリクエストにも応じることが出来る、と良いように捉えていますよ。
小さな釜で染めるからこその良さがあります。生地と生地がよく揉まれ、釜の壁にぶつかることで生地の芯が抜けて非常に柔らかく、くったりとした風合いが生まれます。この炊きこみの工程こそが東炊きを東炊きたらしめるものと言って過言ではありません。石灰等の自然物で生地をリラックスさせてから染める、炊きこみで「風合い」を出すんです。
染める前の生地は幅150mのものを使っていますが、東炊き生地として完成すると115mまで縮んでいます。それだけ生地が揉まれ、縮むことであの独特の風合いとくったりとした、でもどこかハリのある柔らかさになる、という訳です。
やはり表情があるところでしょうか。柔らかいシワが付いているけれど、画一的でなく、洋服にした時に特に素敵な表情になるなと感じます。洋服にするために、一生懸命作った生地だから、ちゃんとその良さも悪さも伝えて、同じように一生懸命洋服を作って売ってくれるところに託したいんです。
東炊きの生地の特徴でもあるシワは、表情として捉えれば全く気になりません。それは恐らく、硬いシワではなく柔らかいシワだから。ふんわりと空気を含んだ状態で付く細かなシワなので、生地の立体感や動きを出すのに必要な要素だとも感じられるほど。裏を返せば、1日着用する中で必ずある「座る、立つ」という動作によって新たに出来てしまうシワを隠してくれるので、ピシッとアイロンがきいたシワ一つない生地よりも、よほど神経質にならずに1日中楽に着られる、という嬉しいシワなのです。
ZUTTOでは東炊きの生地を使ってワンピースを作りました。
東炊きの気持ち良さを堪能出来るよう身頃をたっぷりとって、生地をふんだんに使っています。
東炊きヘリンボーンリネン シャツワンピースは、春夏秋3シーズン着られる前開きのリネンシャツワンピース。身頃をたっぷりととって、腕周りをゆったりさせたシルエットと、胸元の大きなポケットがアクセントです。
腰の細身の紐がポイントで、一枚で着るときにはウエストを絞り、スタイルアップして見せることができます。ストンとしたシルエットでも、ボタンを開けて羽織のように使うのも素敵です。身長が高くない方でも、ウエストで丈感を調整できるロングワンピースなら挑戦しやすいですね。丈は長めで、一枚ではもちろん、下にレギンスや細身のボトムスを合わせても良いと思います。
前身頃は東炊き、後ろ身頃は伸縮性のあるカットソー生地の異素材をミックスさせた一枚。首元がすっきりと見えるVネックで、袖は肘あたりまでくる5分丈。
裾の左右に深めのスリットが入っているので、レギンスやパンツを穿いてくださいね。ワイドパンツを合わせてもスリットからちらりと見えるのでおしゃれなシルエットになります。
カラーはBLACKとMUSTARDの2色です。MUSTARDは後ろをカーキ色のカットソー生地にして、色みに差を出す遊び心を。BLACKは前後ろともに黒なのでコーデにも迷わずに安心出来る色で、生地の違いによるニュアンスの差を楽しめますよ。
こちらはリラックス感あふれる、マキシ丈のキャミソールタイプのワンピース。ふんわりとした素材を活かすために切り替えは高めの位置に入れています。
タウンユースの場合は中にTシャツやタンクトップを着て、旅行先のリゾートでは潔く一枚で楽しんでくださいね。
ストラップにはボタンホールを5つ設け、身長によって長さの調節がしやすいようにしています。インナーを着る場合、着ない場合によっても長さ調節が必要になるので、その日のコーディネートで位置を決めることが出来ますよ。
※ワンピースには着脱用のジッパーやボタンはありませんので、かぶって着用頂くタイプになります。胸元はゴム仕様ではなく、着脱時に窮屈に感じる場合があります。
東炊き生地のワンピースを着てみて。
とにかく気持ちいいです!素肌に触れるとふんわりと、リネンのちょっとサラッとした感じが好きです。
どのワンピースも、東炊き生地の中では基本となる厚みのものを使っているそうで、「透けないけど暑くない」のも良いですね。透けない安心感は欲しいけど、そのために生地に厚みがあると季節感が出ないし、重さも出てしまいますよね。その点、バランスが取れているので夏に重宝するアイテムだなと思います。
スタッフの取材後記
東炊きの工場を見学して感じたのは、東京という地で作られる生地、その特徴を大事にして活かしていきたいという作り手の想いです。
仮に全く同じ生地を、別のところで同じように染めてもらったとしても、違う風合いと柔らかさのものが出来上がるそうで、やはり東炊きを手がける職人の経験と勘、そしてその土地の気候に大きく左右される、唯一無二の生地だということですね。もちろん、日本や世界各地で素晴らしい生地は生み出され、その優劣の話をしているのではなく、東炊きの良さというのは東炊きにしかない良さなのだと実感出来たこと、そして作り手によって大事にされている生地を使ってZUTTOオリジナルのワンピースを作れたことへの嬉しさが、今回の取材の大きな収穫となりました。
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