乾燥する季節に思うことは、肌に触れるものをちゃんと選ぶという視点を持ってみたら、季節によって乾燥したりベタついたりと揺らぎやすいこの肌も、幾分か改善することが出来るのかな、ということ。
自分の体、肌を労わり守ってあげられるのは自分だけ。そして子供の体、肌を守ってあげられるのも自分。身に付けるものが直接影響する「生地と肌」について考えてみると、一つの答えとして植物性であり最も刺激の少ない天然繊維・コットンに辿り着くようです。
今回は、アトピーなどで肌が弱い方の駆け込み寺として知られる、益久染織研究所(ますひさそめおりけんきゅうしょ)のガラ紡糸と手紡ぎ糸から出来た自然栽培綿のアイテムをピックアップします。
益久染織研究所は「本当に肌に良いものは自然から出来たもの、自然の恵みを壊さずに持ち続けているもの」として、原料である木綿栽培からこだわり、中国・山東省にある自社農園で35年以上に渡り自然栽培綿を作り続けています。
一般的にオーガニックコットンと言うと、「3年以上農薬・化学肥料を使っていない農地」で栽培したコットンのことを指します。つまり、3年以上前は農薬や化学肥料を使っていた土地でも、その期間を過ぎるとオーガニックコットンと呼んでも良いということ。ですが益久染織研究所の自然栽培綿は一般的なそれとは少し趣が異なっています。
創業者の廣田益久さん
益久染織研究所が山東省でのコットン栽培にこだわるのは、この土地がこれまで一度も農薬や化学肥料を使っていない大地であるから。この場所が近代農法に切り替えようとするタイミングで出会った益久染織研究所設立者・廣田益久は、かつては日本も行っていた自然の流れに逆らわないやり方、手作業で生み出されるコットンに感銘を受け、無農薬、無化学肥料の当時の農村の綿作りを続けることを条件に、染織りの指導に当たることになりました。
当時、繊維業の工業化に向けた農村の指導を期待していた現地の方々からは理解を得られないこともあったそうなのですが、根気強く説得を続け、彼らが栽培したコットンから紡がれる糸を適切に買い取り続け、時間をかけて環境を大事にしたものづくりの意義を理解してもらったと言います。
始めた当時はオーガニックコットンという言葉が浸透していなかった時代。無農薬・無化学肥料の栽培をずっと続けていたら、いつの間にかそれは周りからオーガニックコットンと呼ばれていました。
そんな特別な自然栽培綿を使う益久染織研究所が提案する生地は、ZUTTOには現在2種類あります。収穫されたコットンを糸にする方法が異なるのですが、「手紡ぎ糸」と「ガラ紡糸」。それぞれの違いや良さとは?
ガラ紡糸は、ガラ紡機と呼ばれる紡績機でコットンを糸へと紡いだものを指します。元々は明治初期の日本で発明されたもので、物資や素材の少ない時代に、落ち綿や着古したコットンの洋服を繊維に戻した時の短い繊維でも糸にすることが可能であったため、重宝された紡績機です。いわば、落ち綿の廃棄を減らすリデュース精神と、古いものを再利用するリユース精神が生んだものでした。
時代は変わり、物資は豊富になり、効率性と大量生産を可能にする西洋紡績機が登場するとガラ紡機の需要は少なくなり、次第に姿を消していくことになります。
益久染織研究所は、かつて日本国内で使われていたガラ紡機を中国の契約工場で改良し、かつては短い繊維のものしか紡げなかったものを、長い繊維のコットンでも糸にすることが出来るようになりました。
これにより、「短い繊維のコットンから生まれるガラ紡糸=硬くてコシがある」だったのが、「空気を含み柔らかく風合いのあるガラ紡糸」に変貌したのです。
ガラ紡機の仕組み
1.機械下方に見える白い筒に、「撚子(よりこ)」と呼ばれる原料綿を入れる
2.ガラ紡機を稼働させると、綿から繊維が引っ張りあげられ、撚(よ)られていくことで糸になる
3.糸は自動的に巻き上げられ、ガラ紡糸の完成
ガラガラと音を立てて糸にしていくことからその名がついたガラ紡機。機械とはいえ、糸を紡ぐスピードは遅く、その分糸を引っ張る力、撚る力が強くないために糸の繊維の間に空気を含み、ふんわりとした糸や生地になるのだそう。
ガラ紡機の筒1つにつき、糸に紡いでいく量は手紡ぎの半分の量しか1日には出来ないそうですが、紡績機にその筒が沢山あることでその分だけ量産出来る、という効率性も備えていて、その糸から出来上がる生地の良さと、手紡ぎに比べると量の確保も出来る、という両方のメリットがあるようです。
ガラ紡のピローケース
【ふっくら肌触り】
益久染織研究所のガラ紡糸は空気を含んでいるためふっくらしている、とお伝えしていますが、ガラ紡機で紡ぐこと以外にも、ふっくらとする理由があるのです。
それは、収穫した綿に化学的な洗浄や処理を行わず、綿のふんわりさをそのまま活かしているから。大手ブランドが製造するアイテムの多くは、規格を守るために綿を化学処理して綺麗にし、糸に紡ぐ時も薬品で余計なものが付かないように全てを「削ぎ落とす」ように処理をします。それによって糸の太さや色合いは均一化されますが、空気を含む層までもなくなってしまうのだとか。
種子を守るための綿花は自然の恵みをたっぷり含んでいて、益久染織研究所のコットンや糸は余計な処理が行われていないため、ほわほわとした繊維を残したものが出来上がる、ということなのですね。
ガラ紡のくつろぎ靴下
【馴染んで、水分吸収が良くなる】
ガラ紡糸を使ったアイテムは、普通のタオルに比べて水分吸収量が多いというデータがあります。普通のタオルは自重に対して85%しか水を吸いませんが、ガラ紡生地は自重の107.5%の水分を吸収します。
理由は、隙間があるから。これもまた、空気を含んでいることの良さが生み出す結果なのだと驚きます。
人気者ソックスセット
ガラ紡糸が機械を使って糸を紡ぐのに対して、手紡ぎ糸はその名の通り、人が手で綿から糸に紡いでいく方法です。歴史としては当然ガラ紡より長く、世界の多くの地域で手紡ぎは歴史的に行われてきました。
使っている原綿はガラ紡のものと同じ自然栽培綿。紡ぎ車を回して糸を撚るのですが、人の手を介すのでガラ紡の糸よりも糸の太さが不規則です。細くなったり太くなったり、繊維と繊維の切れ目はポコっとネップのようなものが出来たりと、紡ぎ手や素材の状態によって生み出される糸なのだと実感します。
パジャマトップス+パジャマパンツ(手紡ぎ糸)
益久染織研究所では、これまでアイテムによって手紡ぎ糸とガラ紡糸を使い分けてきたのですが、昨今の中国での人件費高騰と高齢化による技術継承不足から、手紡ぎ糸の継続が困難になってしまったのだそう。
ですので、ZUTTOで現在ご紹介している手紡ぎ糸のアイテムも、在庫している分を最後に取り扱いが終了したり、ガラ紡糸を使用したものに変わっていく予定です。
UVカットストール ストライプ
手紡ぎ糸を使ったルームガウンを愛用しているスタッフがいます。益久染織研究所の手紡ぎ糸の不思議な暖かさとその製造背景に惚れ込み、ルームウェアやパジャマの上に羽織るガウンの別注をお願いしたのは1年半前のこと。
【別注】手紡ぎコットン ショールカラー ルームガウン
「春・秋・冬はこのルームガウンを自宅で着ている気がします。パジャマだけでは寒いのでお風呂上がりにサッと羽織って、寝るときに脱いでベッドの横に置き、起きたらまた羽織って身支度を始める、という流れです。もちろん別のガウンも一緒に使い回しながらですが、ついつい手に取ってしまうのはこちらかも。」
1年半愛用しているルームガウンは、時にはそのまま寝てしまったり、何度も洗濯しながら徐々に馴染んでいき、使い始めた時よりも生地表面にほわほわとコットンが毛羽立ってきていると言います。
「このほわほわが柔らかさと暖かさのもとですよね。やはり寒い季節に着るものなので、コットン素材は心許ないかな?と思っていたのですが、そんなことはなく、ちゃんと暖かいです。
あと、季節的なことを言うと静電気が起きません。もう一枚持っているガウンはフリース素材なのですが、脱ぐ時にバチバチッとすることが多いのに対し、この手紡ぎのガウンは静電気が起きた記憶がありません。そこは使ってみて実感した良さですね。」
今回、新品のガウンと1年半愛用のガウンを比べてみたのですが、確かに生地表面が起毛していて、キュッと閉じていた織り目の境界線が曖昧になっています。そして、同じように畳んだ時の高さが全く違っていました。使っていくうちに起毛された分、ふんわりとしているからかな?とスタッフ。
「起毛するということは、繊維が立っているのでそこに摩擦が起こると毛玉になります。私のガウンもところどころ毛玉はありますが、まだまだ気になるほどにはなっていません。コットンに出来る毛玉も、ウールと同じようにブラッシングケアすれば軽減されていくのか、試してみたいと思っています。」
洗濯するほどに硬くごわついていく化学処理されたコットンとは違い、益久染織研究所のガラ紡・手紡ぎの素材は天然の油分を失っていないために柔らかさとほわほわを持続させます。
益久染織研究所のガラ紡糸・手紡ぎ糸から出来上がるコットンアイテムには、かっこよさはありませんが素朴な温もりと、人と自然への想いがにじみ出ているようで、大切に使っていきたいという気持ちになり、それがモノへの愛着につながっていくのだと実感します。
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