決してきらびやかという訳ではないけれど、控えめながらも銀色の美しい光を放つ錫(すず)。金属でありながら、冷たい印象というより、どことなく優しい雰囲気を醸し出す素材です。金属の中では非常に一般的ではないので、錫製品がご自宅にないという方も多いかもしれません。今回は錫が持つ特性と代々錫製品の製造を行う、国産ブランド能作(のうさく)をご紹介します。
錫は酸化しにくく、錆びにくい安定した金属として知られています。そのため色の変化が少なく、美しい光沢を長期間に渡って保ち続ける特性を受け、古くから装飾品として用いられてきました。
錆びにくいということは、有害物が溶け出さない、安心安全な素材だということ。また、錫には抗菌作用があることが知られており、その特徴もあってか、神様に捧げる進物としても扱われてきました。
錫は希少性が高く、金・銀に次ぐ高価な金属。さらに金属特有の嫌な臭いもしないため、テーブルウェア用品の素材としても用いられています。錫は金属の一種ですが、純度100%のものは非常に柔らかく、手の力でも曲げられるほど。落とすと変形することはあっても割れにくく、それも手で修復できるのが利点です。
現在では、錫の優れた特徴を活かした製品が多くあり、日常生活に取り入れやすい素材となっています。
富山県高岡市の金属加工メーカーである能作(のうさく)。高岡の地に伝わる鋳造(ちゅうぞう)技術を用い、各金属の特性に沿ったキッチン用品や日用品、仏具製造を行っています。
能作の扱う錫は純度100%です。通常は硬度を持たせ切削性を高めるために他の金属材料を加えますが、能作の錫はそれらを一切含みません。それを可能にしたのは、能作が古くから今に伝える鋳造技術によるもの。
鋳造とは溶かした金属を型に流し込み、冷やして目的の形状にする製造方法のこと。能作は、素材特性を最大限に引き出すべく高岡に400年伝わる様々な鋳造方法・加工技術を用いることで鋳物の可能性を拡げ続けています。
日本では平安時代の宮中でお酒を呑む際に錫器が用いられていたと言われ、お酒と錫の相性はその時代から現代に根付いています。
錫器に入れるとお酒の雑味が抜け、味と口当たりがまろやかになると言われています。錫は熱伝導率が良いので、酒器を使う直前に冷蔵庫で数分冷やすと、十分な冷たさになります。冷酒はキリリと、熱燗は一層香り高く。ビアカップやタンブラーにビールを注ぐと内側の凸凹できめ細かい泡が立ちますよ。
錫には殺菌効果があり、その殺菌効果により、切り花の切り口に雑菌がつかないとの研究結果もあるほど。錫と植物との相性について、まだ知られていないことも多いですが、「錫の花瓶は切り花が長持ちする」、「井戸の中に錫を落とすと水がきれいに保たれる」と古くから言われています。
能作の花瓶は錫とのコントラストで、花の色や植物の豊かな緑が美しく映えます。
錫の柔らかさを活かしたベビースプーンです。赤ちゃんのお口の大きさに合わせたり、ママが持ちやすいようにと、形を変えて使えます。他の金属では形が変えられるものはなかなかないので、出産祝いの贈り物としても人気です。
5種類の花々が可愛らしいこちらの箸置きは、見た目のかわいらしさだけでなく、花びらをちょっと曲げることが出来るので、お箸がちょうど良く乗る角度に調整が出来ます。
錫製品をお使いの上で最も注意しなくてはならないのは、「落とさない」ことです。前述のように柔らかい素材ですので、落としたり強くぶつけてしまうと形状が変わります。もちろん、自分の手の形に合わせてあえて曲げたり凹ませたりすることは問題ないですが、強い衝撃にはお気を付けください。
水に触れることのある製品(カップ・花器)
使用後は柔らかい布またはスポンジで洗ってください。食洗機の使用は不可です。錫は柔らかい素材ですので、たわしで洗ったりクレンザーで研磨してしまうと傷が付いてしまいますのでご注意ください。
冷凍庫には絶対に入れないでください。錫の分子構造が変わり製品の破損につながります。融点が低いため、火気の近くに置かないでください。
普段洗うことの少ない小物類
錫は経年変化が少ない素材ですが、長期間使用しますと、表面がグレーがかり、アンティーク調に輝きが鈍くなってきます。それもまた錫の味わいです。
新品の輝きがお好みの場合は定期的に柔らかい布で乾拭きしてください。光沢が鈍くなってきたと感じた際は市販の金属磨きや歯磨き粉、重曹などで磨いてください。
錫製品の魅力は、「変わりにくい姿」と言っても良いかもしれません。革や真鍮などの比較的早い経年変化を楽しむのも良いですが、錫のように変化が遅いものは、そのものの姿を注視しておかないと気が付きません。モノを大事にする姿勢を持ち、使いやすく優秀な素材であるという点に錫製品ならではの愛着が湧いていくのでしょう。
陶器やガラスのように色鮮やかなデザインを施すことは出来ませんが、素材そのものを純粋に楽しむという点において、錫製品は最適な素材なのです。
▼能作取り扱い商品一覧はこちら