春は、模様替えの季節。入学入園、転勤やお引越しなど何かと環境の変化が多い時期ですよね。
自分自身は特にそうした予定はないけれど、住まいのしつらいをちょっと変えてみたい。
気分転換のために新しいインテリアを取り入れてみたい。
でも、大型の家具を置くスペースがなくて。模様替えにはそんな悩みがつきものです。
今回ご紹介するのは、真鍮、銅、錫といった金属を素材とするインテリア。
「加工性」「安定感」「経年変化」と3拍子揃った金属の特性に着目すると、
実は狭いスペースを上手に活用して、模様替えを楽しむためにうってつけなのです。
金属と聞くと、なんだか冷たくて硬そうなものというイメージがつきもの。
ぬくもりのある優しい風合いが好きで、家具やインテリア雑貨は知らず知らずのうちに
木製のものが増えていたという方も多くいらっしゃるかもしれません。
確かに、テーブル、椅子、棚(ラック)といった大きな家具を金属製のものにすると
お部屋のうち目に入る面積が大きくなるので空間全体がクールな印象になりますが、
花瓶(フラワーベース)、収納トレー、ドアチャイムなど、小さなインテリア雑貨に
金属製のものを用いると、空間のイメージを効果的に引き締めることが出来ますよ。
玄関、寝室、窓際のデッドスペースなど、省スペースでの模様替えを楽しんでみませんか。
一言で「金属」といっても、鉄に銅、アルミニウムにステンレスと、実に様々な種類があります。
今回はその中から、経年変化を楽しめて、なおかつ木やコットン、革など
自然由来のインテリアファブリック、家具と相性の良い3種類をピックアップしました。
【1から育てたいなら。経年変化が美しい、真鍮】
5円玉の素材としても用いられているのが、真鍮(しんちゅう)。
銅と亜鉛の合金で、新しい5円玉は黄色みが強くピカピカと輝いていますが、
たくさんの人の手に触れられ程よく酸化が進んだものは
色味が深くなり、ところどころ黒っぽく変色しているのが分かります。
真鍮は腐食しにくい一方で、使えば使うほど独特の味わいが出る素材。
日本では美術工芸品や仏具の素材としても長きに渡って親しまれてきました。
写真は、真鍮製の鍋敷き。こうして置いておくだけでも
まるでオブジェのように様になるインテリア小物です。
使い始めは黄色みが強くピカピカしているのですが、
長年使うと光沢が和らぎ、黒〜ブラウン系の落ち着いた色味へと変化していくので、
金属特有の固く冷たい印象は和らぎ、革のソファ、ウールやコットンのブランケットといった
ナチュラルな雰囲気のお部屋にもしっくりと馴染んでくれます。
こちらはスタッフが2年ほど使っている真鍮製のトレイ。
肉厚の文具トレイやペーパーウェイトはごろっと重く、とても安定感があるので
重みを活かしたデスク小物に活用されることが多いのも真鍮の特徴。
常に空気に触れる環境に置いているのですが、エイジングの進み具合はまだまだのようですね。
そういった意味では、5年10年20年、と長く手元に置いて金属の風合いを「育てる」という
楽しみを味わいたい方には真鍮はぴったりな素材です。
【独特の色合い・質感がニュアンスを生む、銅】
真鍮は銅と亜鉛の合金ですが、シンプルな銅もまた、独特のニュアンスを生む素材です。
10円玉のイメージが強いので、銅といえば赤褐色というイメージがありますが、
実は表面の仕上げによっては様々なバリエーションを楽しめるのが銅の特徴。
たとえば、古来から酒・酢・米糠(こめぬか)といった自然由来の溶液を銅の表面に塗り、
銅の燃焼、冷却による温度変化など、いくつかの技法を組み合わせることで
銅本来の鮮やかな赤や、奥深い青みがかった金属色など、様々な色へと変貌を遂げます。
これによって出来上がる色は、青銅色・煮色・宣徳色・鍋長色・朱銅色・焼青銅色など、
10円玉の色からは遥かに想像を超える、多様なバリエーションを見せてくれるのです。
こちら、すべて「銅」を素材としたミラー。
これぞ銅、という赤かっ色のほか、柔らかな光を投げかけるシルバー系に、
独特の風合いのグリーン系もあります。
特に目をひく青銅色は、他の趣のある渋めの色に比べ鮮やかで、どこか優雅なムード。
ピカピカで冷たい金属の印象は、もうそこにはありません。
先述のような溶剤や温度変化、磨きといった職人技法を駆使し、
銅素材の自然腐食・錆(さび)色を人為的に発色させることで実現するのが、
なんとも優美なこのグリーンなのです。
こうした加工が施された銅製品は、箱を開けた瞬間から
職人の手によるものづくりという、時間の蓄積を感じさせます。
そういった点では、使い始めの段階からお部屋に馴染む、
温もりあるテイストにしたい場合にぴったりの素材と言えるでしょう。
もちろん、使い込むほどにさらに味わいは増していくので、
経年変化を楽しみながら、デニムを履きこむように育ててみたいものです。
【涼やかな光を放ち、成形も容易な、錫】
真鍮、銅はカラーが特徴的なのに対し、続いてご紹介する「錫(すず)」は
その名の通り、とても涼やかな印象です。
鉄や銅に比べると融点が低く、溶かし、成形するのが比較的容易なことから、
古くから鋳造技術が受け継がれてきました。
そんな錫は、酸化しにくい、つまり錆による変化が比較的少なく
安定した素材として知られています。
錆びやすい金属は表面の風合いや色合いが次第に変化しますが、
その点、錫は、大切に使えば光沢を失わずに美しさが持続しますし、
空気に触れても変質しにくいので、インテリア製品のほか、直接口に触れる
食器や酒器に使われるという特徴があるのです。
さらに錫を特徴づけるのが、「柔らかさ」。
金属は硬いというイメージがありますが、
錫の場合は薄い形状であれば指で簡単に曲げることができ、
表面に傷がつきやすい、落とすと凹みやすいのです。
一見すると、これは弱点であるようにも思えるのですが、
金属の冷たさ、硬さを意識させずに空間に馴染み、
使うほどに小さな傷がついてかえって優美さを増していくのは利点ともいえます。
【スツール×トレイで小物の定位置を】
リビングのソファ脇や寝室のベッドサイドなど、
コットンやリネンの布製品、木のインテリアが集まる場所に
金属製のインテリアを一つ置くだけで、空間がぐっと引き締まります。
写真は、どちらも木製のスツールをミニテーブルに見立て、そこに銅製のトレイを載せています。
ついつい家のどこかに置き忘れてしまうリーディンググラスやピアスを置く場所として
活用するのにぴったりです。
【窓辺や壁のデッドスペースに、花を飾る】
ちょっと殺風景だから花やグリーンを飾りたいけれど、スペースが小さくて…。
そんな時こそ金属製のインテリアの出番です。
例えば、錫のフラワーベースなら小ぶりでも金属の重みで安定感があるので
窓辺の狭いスペースに置いても不安がありません。
また、金属の加工性を活用した薄型の壁掛けフラワーベースなら
台がなくても、直接壁に設置して、一輪挿しを飾ることが出来ます。
【玄関でおもてなしの音を奏でる】
こちらは鉄製のドアにピタッと付ける事が出来る、ドアベル。
「どありん」というネーミングも可愛らしいベルで、
フレームはアルミ、おりんの部分は真鍮製というツートンカラーがモダンです。
鉄製のドアなら、直接マグネットで設置可能で、
鉄製でなくても付属のマグネット1枚を取り付けたい箇所にネジ止め、
あるいは両面テープで貼り付けることが出来る素材なら、賃貸でも十分に楽しむことが出来ます。
玄関以外にも、お部屋のドアや窓、冷蔵庫の扉につけてみるのも素敵です。
・錆(サビ)の正体を知る
今回錫をご紹介した際、「サビ」にくいという特徴をご紹介しましたが
一般的な金属は錆びやすいものが多く、
人が手を加えることで精製された金属は、言い換えればとても不安定な状態。
酸素と結びつく(=酸化する)ことで安定した状態になろうとします。
これが金属が錆びるメカニズムです。
冬に使うホッカイロが、封を破った瞬間から酸化が進むのも同じ理由です。
(ホッカイロは、この酸化の際に発生する熱を活用したものです。)
ですので、金属が錆びようとするのは自然な現象なのです。
・日々のお手入れ
金属の錆は、金属と空気の設置面で発生します。
また、金属の表面に水分があると、化学反応が進みやすくなります。
水分の多い海辺に置かれた自転車や道路標識がすぐに錆びてしまうのはこのため。
錆を防止したい場合は、水分がついたらこまめに拭き取るようにします。
ただし、少々酸化が進み、深めの色に変わってきた頃が格好良いというのもまた事実。
小さな傷や色合いの変化は、「劣化」ではなく「味わい」と捉えて
末長く育てていくことが出来たら素敵ですね。
▼真鍮の佇まい、無垢な美しさ ーFUTAGAMI(フタガミ)
▼おりんが奏でる優しい音 ー優凛(ゆうりん)
▼錫(すず)を自由自在に形作るインテリア ー能作(のうさく)
▼古来から伝わる銅をモダンに ーtone(トーン)