今回取り上げるのは、「Vibram(ヴィブラム)ソール」の靴。
文字通り、Vibram(ヴィヴラム)社が作った靴底を採用したシューズです。
履き心地や機能性を追求するシューズブランドがこぞって採用する
Vibram社のソールには、長く歩いても疲れにくい、グリップが効き雨や雪にも強いなど
実は様々なメリットがあり、普段使いはもちろん、旅行や雨の日にもぴったりなのです。
普段はなかなか気にかけることの少ない「靴底(ソール)」について、
紐解いてみましょう。
白いシューズ:TRAVEL SHOES ストレートチップ レイン WH
Vibram(ヴィブラム)社は、イタリアのソール専門メーカー。
Vibram社のユニークなところは、靴ブランドではなく靴底(ソール)に特化した専門メーカーであること。
つまり、靴本体は製造せずに、シューズメーカーに靴底を提供しているメーカーなのです。
ここで疑問になるのは、なぜソールだけ?ということ。
その秘密は、Vibram(ヴィブラム社)の誕生背景にありました。
1937年、Vitale Bramani(ヴィッターレ・ヴラマーニ)という一人のイタリア人登山家が
登山仲間であった友人を不慮の事故で失うという経験をきっかけに、
雪山登山にも負けない、安全な靴を作りたいと思い立ちます。
当時の一般的な登山靴は、革を釘で打ち付けたもので、
雪と氷の斜面で足を滑らせたら一貫の終わりという、
人の命を守る靴としては、とても簡易な作りだったのだそう。
こうして生み出されたのが、Vibram(ヴィブラム)ソールです。
初代のVibramソールは、「CARRARMATO」と名付けられたゴムソールで、
これはイタリア語で「戦車」を意味します。
戦車のキャタピラのように、ゴツゴツとした形が地面をしっかりと掴むVibramソールは
瞬く間に登山形の間で話題になり、
1954年には、Vibram(ヴィブラム)ソールを搭載したシューズで
イタリアの登山チームが、エベレストに次ぐ名山・K2初登頂を果たすなど、世界に知られることになります。
こうして誕生したVibram(ヴィブラム)社は、スポーツ用、街歩きからサンダル用など、
登山以外にも様々なシーンで、人の足を守り、快適そして安全に歩くための
ソールを生み出し続けてきました。
靴は、「歩く」「登る」「走る」といった人の動き、ひいては日々の暮らしを
安全に快適に過ごすための大切な存在だから。
そんなVibram(ヴィブラム)社の強い想いが感じられます。
こちらの写真にあげたのは、すべてVibram(ヴィブラム)社のソールを使用した靴たち。
いずれもさりげなくブランドロゴが入っていて、中には黄色いロゴマークが印象的なものもありますね。
スニーカー、革靴、サンダルといった靴のタイプに合わせるのはもちろん、
女性用のヒールシューズ、雨の日用のシューズなど
様々な用途・シーンに合わせた幅広いラインナップがVibram(ヴィブラム)社の強みです。
こうして比べてみると、靴によって溝の形が違っているのが分かります。
初代のソールを思わせる、大きくゴツゴツとした溝から、
砂浜でも歩きやすそうなストライプ状の溝、
はたまたデザイン性の高いイラストが入ったものまで。
また、アッパーのデザインを邪魔しない、同系色のソールを用意していることなど、
まさに「縁の下の力持ち」としての、さりげない心遣いが随所に見られます。
それでは、Vibram(ヴィブラム)ソールを採用したシューズを見てみましょう。
街歩きから旅行まで、長距離を「歩く」時の靴といえば、スニーカー。
ファッションシーンではスニーカーブームと言われ久しいですが、
ブームが定番になり、もはや誰もが持っているのではとも思える
クッション性の高いスポーティーなデザイン。
ただ、定番の形だけにデザインに気を取られ、肝心の歩きやすさを忘れがちです。
写真は、スペインの「MaTeS/マテス(左)」と、イギリスの「WALSH/ウォルシュ(右)」。
誕生した国こそ違いますが、この2つのブランドに共通しているのが、
スポーツシューズから生まれたスニーカーであること、
そしてもちろん、Vibram(ヴィブラム)ソールを採用していることです。
MaTeS(マテス)のシューズは、カーフレザーと呼ばれる仔牛の革を使用しています。
柔らかな革素材を細身の木型で型取り、一つ一つを手でカットし、接合。
熟練の職人が作るシューズはシンプルながら、丸いトウにラインが入ったクラシカルなデザインで、
ファッションアイテムとしても重宝します。
レザーが徐々に柔らかく馴染んでいく様子と洗練された印象が心に残るシューズです。
そんなMaTeS(マテス)のソールは、ゴツゴツと溝が大きく深いのが特徴。
グリップが強くてしっかりと地面を掴むように歩け、
少々すり減ったくらいでは溝がなくならない、力強いデザインです。
1945年、14歳にして靴職人の道を選んだノーマン・ウォルシュ氏の名を冠した、「WALSH/ウォルシュ」。
ノーマンの高い靴づくりの技術は、16歳にしてイギリスオリンピックチームの靴を手がけるほどでした。
オリンピックで選手の記録が驚異的に伸びたことで、
世界中のトップアスリートたちにノーマンの靴が知られるようになっていきます。
以降、トラック競技、フィールド競技、クリケット、フットボール、ラグビーと、
あらゆるフィールドで使うためのスニーカーを製造。
そんなWALSHが、用途に合わせたVibram(ヴィブラム)ソールを採用しているというのも納得です。
女性らしいヒールシューズにVibram(ヴィブラム)ソールが採用されているブランドも。
ご紹介するのは「catworth/カットワース(左)」と「chausser/ショセ(右)」。
可愛いけれど、ちょっと疲れる。美しい立ち姿のためには、我慢はつきもの。
女性なら、誰でも経験があるヒールシューズの痛い思い出。
フラットシューズやスニーカーと比べたら、もちろん足への負担は少なくないですが、
Vibram(ヴィブラム)ソールは、ヒールを履く女性の心強い味方です。
ブランド設立以来、全ての製品を英国ノーザンプトンの自社工場にて生産しているCATWORTH(カットワース)。
英国国内に僅か数人しかいない、ダンスシューズのハンドラスターが2名在籍している
貴重な老舗シューズブランドで、一点一点丁寧に仕上げるのが特徴です。
通常、室内で履くためのダンスシューズですが、ステップやタップを多く踏むため耐久性が高く、
日常の外履としてもぴったり。
レザーの柔らかい質感は、履くたびに足に馴染み、
Vibram社のアウトソールは、軽快な歩行と足元を優しい雰囲気に演出してくれます。
履き心地を追求する、日本のシューズメーカーchausse(ショセ)が手がけるヒールシューズ。
4.5cmという高すぎずとも、脚が美しく見えるちょうど良いヒールは
ウェッジタイプで重心が分散されるため、長く歩いても疲れにくいのがポイントで、
ソールの足裏全体に凹凸があるのでグリップ力が強くなっています。
「履く」というブランド名の通り、見た目だけではなく
実際に人が履き、歩くことで靴として完成するという
デザイナーの哲学までもが垣間見える一足です。
スニーカーのように軽快に走ることが出来、ストラップでつま先と足首をホールド、
ストラップはベルクロ式になっていて細かいサイズ調節可能なSUICOKE(スイコック)のサンダル。
そんなSUICOKE(スイコック)の一番の特徴がVibram社と共同で開発した
世界初のVibram製フットベッド。
このフットベッドは、人が歩く時の力、支点を考慮し、踵、土踏まず部分を隆起させることで、
歩行時の足への負担を軽減するコンフォート性に優れ、
サンダルを脱いでいるときも存在感を発揮するデザイン性を兼ね備えています。
水を通さず空気を通すという、レザー素材から独自に開発したchausser(ショセ)のTRAVEL SHOES。
アウトソールはゴムの配合からVibram社で別注されたものを使用しています。
トゥに横一線のラインが引かれたストレートチップといえばフォーマルなデザインが魅力ですが、
実は雨の日にも履けるという頼もしい一足です。
Vibramの中でもグリップ性の高い配合である「ICETREK」というソールを使用し、
氷点下でも柔軟性を保ち、凍結した地表でも優れたグリップ力を発揮します。
旅の持ち運びにもぴったりな布製の巾着ケースに入っているので、
トランクの中にこんなにも素敵な靴が入っていたら、旅先への移動も心軽やかになりそうです。
今回は、Vibram社のソールに注目し、数々のシューズブランドをご紹介しました。
デザインは違っていても、その全てに共通しているのが、
人が身につけ、実際に歩いたり走ったり、旅する時の
様々なシーンを快適にしたいという想いです。
Vibram(ヴィブラム)社の名前は表には見えないけれど、
文字通り靴を支える影の立役者として、地面と靴の間に、そっと息づいています。
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