真っ白なお皿は、シンプルで使いやすそうなイメージを持ちますが、シンプルが故にディテール一つで野暮ったい印象になっているものも少なくありません。使いやすさと美しさを合わせ持つ白いお皿。今回はそんなお皿と、ブランドについてのお話です。
日本で初めて磁器が作られたのは、1616年、現在の佐賀県有田だと言われています。有田の地は、磁器の原料となる「陶石」を発見したことをきっかけに主要な産業へと発展していきました。
「有田焼」の名はとても有名ですが、普段使いという点ではあまり馴染みがなく、どちらかというと美術品のイメージが強いですよね。そんな有田焼を、毎日使ってもらうための新たなブランドとして誕生した1616/arita japan(イチロクイチロク)は、遥か昔の記憶を引き継ぐように名付けられ、これまでの有田焼とは異なるデザインアプローチを試みています。
今回は1616/arita japan(イチロクイチロク)を立ち上げた、百田陶園の百田様にお話を伺いました。
「有田焼=伝統」や、「有田焼=和食」といった固定概念を覆す、新たなものを模索したいと思っていました。そこでデザイナーの柳原照弘さんへ依頼し、有田へ赴き製造風景や工程を見てもらい、職人との交流を図り、率直な意見をいただきました。
柳原さんからは、『いまの有田焼きは、先人たちの技術やデザインを踏襲しているに過ぎない。』との厳しいお言葉が。もちろん、有田焼でも伝統的な絵付けのもの以外もたくさん世に出ているのですが、それも柳原さんにしてみれば『デザインを少しモダンにしただけで、世界のスタンダードにはならない。』という印象だったのでしょうね。
日本でも食文化がこんなにも多様化している今日、きちんとデザインされた「スタンダード」を世界に出していかないともったいない、と。
日本だけでなく、世界中で使ってもらうためのお皿を、という思いです。有田焼を伝統的な『THE・有田焼』として打ち出すのではなく、どんな料理にも食卓にも合うシンプルで新しいお皿として打ち出し、その生産が有田で行われている、という位置付けですね。
有田焼はどちらかというと、鮮やかな絵付けのイメージが強いのですが、1616/arita japan(イチロクイチロク)ではそれを封印し、代わりに焦点をあてたのは「有田焼の白磁の美しさ」。
白い陶磁器といっても青みがかったもの、くすんでいるものなど実は様々な色がありますが、有田焼の白は土地の持つ「陶石」と呼ばれる石がもたらす白。焼き上がりの強度が高く、かつ濁りがなく美しい白色を出すことができます。また、他の土や原料を配合することなく磁器を作ることができるという特徴があり、それは世界的にも類を見ないとても珍しいことなのだそうです。
1616/arita japan(イチロクイチロク)はそういった素材の独自性や技術面の強みを全面に出して、有田焼が本来持つ良さに再度焦点を当てたものづくりとも言えます。
柳原さんからアドバイスを受け、世界中で使ってもらうためのデザインを考えたときに高台は要らない、ということになったのです。和食器は大体が高台がついており、すり鉢状のお皿が多いのです。それだと色々な料理に対応が出来ないので、高台なしでとにかくフラットで、という指令でした。言うなれば、フォークとナイフでパンケーキを食べられるお皿にする、と。
高台をなくすということはつまり、焼く時に底面が全て下に接着した状態ということ。焼き物は何度か焼き重ねていくのですが、焼く度に10〜20%縮みます。その際に均等に縮んでくれないと、底面のどこかが浮いてカタカタしてしまうのです。このスタンダードシリーズは、置いた時にまるで吸い付くかのようにフラットに置けて、全くカタカタしません。
磁器としての美しさを出すために、釉薬を塗っていません。普通は焼く前に釉薬を塗るのですが、素焼きの状態で研磨し、ツヤを出しています。磁器は水分を吸収しませんから、そういった良さを引き出しています。
変わった点は考え方の転換でした。焼き物として必要だと思っていた高台や釉薬も、より良いもの、これまでと違うものを生み出すために止め、新たな手法を考え模索することが出来たのですから。まるで自分たちの変化を楽しんでいるようです。
新色や新たなシリーズをどんどん追加していくつもりはありません。ブランド立ち上げ当初から'スタンダード'になることを前提に作っているので、その思いを広めることに専念するつもりです。
柳原さんがTYシリーズをデザインされた際、こういう話があったそうです。
『製品とは、デザイナーの自己満足になってはダメなのです。デザインをガチガチに固めてしまうと、普段使いできないものになってしまう。極端に言うと、デザインは30%。残りの70%は使う人がデザインするような余白を残しておかないと。』
とても素敵なお話だと思いました。デザイナーは、アーティスト(芸術家)ではなく、使い手が存在する製品を作っているという自負と、使い手に自由を与える懐の深いデザインがさすがです。ひいては、それが使いやすさにつながっていくのでしょうね。
お料理に合わせて使い分ける「お皿」。和食、洋食、主菜、副菜、汁もの・・・その時のお料理に一番良いものを選ぶ訳ですが、こと「色合い」に関してはやはり真っさらな白いお皿に敵うものはないと思うのです。事実、白いテーブルクロスや食器はお料理の色をきれいに見せてくれる効果があるのだとか。
特にこのTYスタンダードシリーズは、お料理を乗せるお皿の部分は真っ平らでまるでキャンバスのよう。今まであまり見たことのない、折ったようなリム使いも斬新ながらお料理の邪魔はしません。和食、洋食、中華、パン、汁物、果物、ケーキ、そして時にはお料理以外のものも。デザイナーが残してくれたデザインの余白を楽しむように、自由に考えて使い道を探していけます。
「気がついたらいつもこのお皿を使っている」というのが、TYシリーズかもしれません。それだけ使いやすく、他の食器とも合わせやすく、自由。
百田さんも、「愛着とは、毎日使って湧いてくるもの。そのためには毎日使いたいと思ってもらうものを作らなくては。」とおっしゃっていました。
また、「割れてしまうものだから、お客様の愛着に応えるためにはメーカーとして、作り続けることも大事ですね。いつまでも同じものを買い足し使い続けることが出来るようにしないと。」という力強いお言葉も。
その思いに応えるためにも、ZUTTOとしても長くご紹介していきたいと思っています。
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