細い、細い糸から作られるhatsutoki(ハツトキ)の織物。
触れた時の驚きと感動を届けたいというブランドの想いが製品に表れるかのようで、手に取るといつも新鮮な驚きがそこにあります。
そんなhatsutoki(ハツトキ)の人気アイテム、ダブルフェイスストール。大判なのに軽く、かつコットン100%なのに暖かいので、シーズン問わず持ちたくなります。今回、爽やかな春風を感じるようなPINK-BEIGEの色みをつくって頂きました。ZUTTO別注カラー制作秘話と、hatsutoki(ハツトキ)がブランドを象徴するような生地だと称する、「ダブルフェイスシャンブレー」について掘り下げてみましょう。
今回お話を伺ったのは、デザイナーの村田裕樹さん。東京のご出身で、現在は兵庫県西脇市に移住され、hatsutoki(ハツトキ)のウエア類・ストール類など全般のデザインやディレクションを手掛けていらっしゃいます。西脇の自然の風景や、季節の移ろいが大きなイメージソースになっているそう。
聞き手は、今回の別注ストールの企画・ZUTTOスタッフの丸山です。
丸山:
hatsutoki(ハツトキ)のダブルフェイス生地に触れると、単に2枚の生地を重ねてダブルフェイスになっている訳ではないことが分かります。これはどういう構造になっているのですか?
村田さん:
通常、織物は経(たて)糸に緯(よこ)糸を入れて織っていく、という流れですが、ダブルフェイスの場合は経糸を上下に分け、その上下に交互に緯糸を入れて織っていくイメージです。生地の裏表に出るのは緯糸なので、異なる色のダブルフェイスにするためには緯糸の色を上下で変える必要があるのです。
△経糸が作られていく整経作業の様子。手前から奥側のボビンのような機械に巻き取られていきます。ストールを形作るために必要な経糸の総本数は6,416本、そして緯糸が7,086本で、合計13,502本もの糸が織られます。
丸山:
複雑な織り方なのですね・・・。緯糸の色を上下で変えるということは、今回のピンクとベージュの色合いを出すのに使用した色は何色あるのでしょう?
村田さん:
経糸がホワイトで、緯糸がピンクとベージュの合計3色使用しています。オレンジの縁取りの横にあるフリンジが緯糸なので、目を凝らして見るとピンクとベージュの2色の糸が1本ずつ交互に出ているはずですよ。
丸山:
本当ですね、気にせず見てしまうとピンクとベージュが混ざった絶妙な色合いなのですが、注視するとそれぞれの色が分かります。緯糸のフリンジに対して、90度反対側には経糸のホワイトのフリンジが出ているのも分かりますね。経糸・緯糸合わせて何万本もの糸がこのストールに集約されていると思うと、とてつもない労力が想像出来ます。
村田さん:
フリンジだけでなく、生地全体を見てもシワの部分の奥と手前で色合いが違うのが分かるかと思いますが、それも様々な色の糸を交互に織っているからこそ生まれる、先染め織物ならではの奥行きがある色合いです。遠くから見ると単色なのですが、近くで見ると色のニュアンスが分かるような。
丸山:
ダブルフェイスシャンブレー生地で使用されている糸はとても細いですよね。hatsutoki(ハツトキ)さんはこういった細い糸の扱いに長けていらっしゃるとお聞きしました。
村田さん:
そうなのです、使用している極細番手の糸は約0.1mmなので、髪の毛と同じくらいの細さなんですよ。細い糸を使うことで表現出来る「繊細さ」や「上質さ」という点が、hatsutoki(ハツトキ)ブランドのイメージやブランドが持つ女性像と重なるところがあって、それで極細番手の糸を使っています。
丸山:
髪の毛くらいですか・・・!この細さの糸で通常作られるものにはどんなものがあるのですか?
村田さん:
通常この細さで作られるものはほとんどないですね。カジュアルシャツで40−50番手ほどなので、極細番手のシャツとなると繊細で上質な印象のものになります。
△hatsutoki(ハツトキ)のツイル シャツブラウス。こちらは100番手単糸を使用した繊細なシャツ。
丸山:
hatsutoki(ハツトキ)で100番手単糸のシャツがありますが、それは確かに上品で女性らしい雰囲気が漂っていて素敵ですね。
細い糸が作る「雰囲気の良さ」以外でのメリットや、それによるトレードオフみたいなものはあるのですか?
村田さん:
上質な雰囲気、というイメージ以外には、やはり細い糸が生み出す生地の柔らかさがあります。hatsutoki(ハツトキ)というブランド名が表すように、生地を初めて解(と)く・触る時の感動を大事にしたいと思っているので、それを表現しているという点でもこのダブルフェイスシャンブレーはブランドのアイコンのような生地ですね。
トレードオフはやはり「生産の安定性」でしょうか。hatsutoki(ハツトキ)の生地は全て先染め(糸を染めてから織る手法)なので、特に難しい。というもの、糸を染める時に100℃以上の高圧の窯で染め、洗い、乾燥させるのですが、その染め工程で糸に負荷がかかり、その後に織ることが難しくなるのです。出来上がった糸を織る工程でも何十分かに一度は糸が切れてしまいますね。
丸山:
製品として見てみると、そんな制作秘話があるようには感じさせないほどのクオリティです・・・。
でも確かに、hatsutoki(ハツトキ)のダブルフェイスシャンブレーに初めて触った時は驚きました。ふんわりとした手触りと同時にとろみがあって、織り目が極小なのでサラサラ感もあって。コットン100%というのが信じられなかったです。
村田さん:
作る側としては、最近ようやく安定して織り上げられるようになってきたかな、というところなので、やはり難しいは難しいのですけれどね。
△ポイントなるように入れて頂いた、オレンジの縁取り。
丸山:
今回作って頂いたPINK-BEIGEの色み、イメージぴったりで春の優しい雰囲気が漂っていて素敵です。この色を出すのに苦労された点はありましたか?
村田さん:
裏表で色の違いが分かるように、でもコントラストが強くなりすぎると織りムラが出てしまうので、色合いの微調整で苦戦しました。パソコン上で色のシミュレーションはするのですが、やはり最終的には織ってみないと経糸1色と緯糸2色の組み合わせの加減は分からないのですよ。
丸山:
実は何パターンもサンプルを作って頂きましたね。(ありがとうございます!)緯糸の色を1色変えるだけで大分イメージが変わるものだなと驚いていました。
△経糸は同じホワイトで、緯糸の色を変えて作ったサンプル達。薄い色あり、濃い色あり、印象が異なりますね。
村田さん:
本当に、織ってみないと分からないというのがこのサンプルの色みに表れていますよね。
丸山:
今回のPINK-BEIGEを触ると、hatsutoki定番カラーの「ダブルフェイスストール GREEN」や「ダブルフェイスストール PURPLE」と比べ、より柔らかい印象を受けるのですが、何か違いがあるのでしょうか?
△左:ブランド定番のダブルフェイスストールGREEN。シワが少なく、少しハリがあります。
右:別注のPINK-BEIGE。縦方向に生地が縮み、柔らかさが増す。
村田さん:
織ったあとの洗いの違いですね。定番のGREENやPURPLEはあまり洗いにかけていないのでシワが少なく、巻いた時にハリが出ます。でも今回のPINK-BEIGEはその色のイメージに合うように、より洗いにかけて空気をまとったようなふんわりとした雰囲気にしました。
丸山:
色みのイメージと触り心地に統一性があるというか、違和感がないですね。ピンクの優しさとふんわりした肌触りが気持ち良いです。
村田さん:
春らしく、女性らしい雰囲気を届けたいと思っていたので、良い色に仕上がって良かったです。ピンクだけど淡くて主張が少ないのでお洋服とも合わせやすそうですよね。
△濃色の洋服と合わせても浮くことなく、程よくポイントに。
△淡色と合わせるとよく馴染み、統一感のあるコーディネートに華を添えます。
極上で、肌への負担がない質感の追求のために取られた「極細糸」という手段。やはり、取り扱う上でも気をつけなくてはならない点があります。
どんな織物・ニットにも言えることですが、指輪やネックレスなどの金具、爪に引っ掛けないようにお気をつけください。ストールの着脱の時は、予め指輪などを取ってから行うことをおすすめします。
また、盲点なのはストールの収納場所。天然素材やワイヤーのかご類にポン、と入れてしまうとかごの一部が飛び出していて、いつの間にかストールの糸が引っかかっていた、ということが起こり得ます。一枚一枚畳み、引き出しに仕舞ってください。(引き出しが木の素材でしたら、布を敷くなど、ささくれや木の割れにご注意ください。)
引っ掛かって糸が出てきてしまった場合は、慌てずに平らな場所に広げ、出てきてしまった糸の周りを優しく左右・斜めに引っ張ってみてください。飛び出た糸が中に馴染むように優しく行ってくださいね。
コットン100%ですので、ご自宅での水洗いが可能です。
1.洗面器に水を張り、洗濯洗剤を溶かします(おしゃれ着洗い専用でなくてもOK)
2.畳んだストールをつけおき洗いまたは、押し洗いをします
※ゴシゴシこすらずに、優しく行ってください
3.脱水時は手で絞らずに、ストール単体洗濯ネットにいれ、洗濯機での1分間の脱水をおすすめします
4.半濡れのままで広げ、シワを伸ばしながらハンガーや物干し竿に掛けます
※天日干しで問題ございませんが、長時間日光にさらすことは避けてください
5.カジュアルに使う時は洗いざらしでシワを活かして、上品なスタイルの時はアイロンを掛けて。スタイルに合わせて使い分けが出来ます
細い糸から出来た繊細な生地、というのは確かなのですが、意外にもそのお手入れは簡単。コットン100%なので、水を通すと生地が更にふんわりしていくのだとか。
手に取った時、首に巻いた時、頬に触れる時。いつも新鮮な驚きを、hatsutoki(ハツトキ)のダブルフェイスストールでお楽しみください。
▽【別注】ダブルフェイスストール PINK-BEIGE