ZUTTOのスタッフがものづくりの工程を体験し、製品が生まれる様子と高い技術をご紹介する、技術体験ラボラトリーシリーズ。第二弾は多様な革を使い、革の持つ自然の魅力を引き出すレザーバッグブランド、REN(レン)。東京の蔵前にあるアトリエにお邪魔し、メッシュバッグの美しい編み目に秘められた、職人の手仕事を教えて頂きました。
REN(レン)蔵前店のようす。今回はこちらの荒井さんと白井さんにお話を伺いました。
レザーバッグブランドREN(レン)は、素材選定・型紙製作・プロトタイプ製作を全てデザイナー自らが行い、多種多様なレザーを形にしています。もともとはアトリエで自社生産を行なっていたREN(レン)ですが、編みならインド、やぎ革ならバリ、といった風に、国内のみならず海外の作り手が得意な分野を受け持ち、生産を行なっているのだそう。今回ご紹介するメッシュバッグは、編みが得意なインドの職人の手によって作られているものです。
豚革、牛革など、様々な素材を多様な形に作りあげてきたREN(レン)。重厚で上品な雰囲気を作るレザーバッグは、多くの人に愛されるアイテムではありますが、一方で暖かい季節には少し重たい印象を持ってしまいがち。そこで暖かい季節にも持ちやすいレザーバッグとして生まれたのが、編み上げによって透かしを作ったメッシュバッグでした。
中がうっすらと見えるメッシュバッグは、風通しの良さを連想させるからか、暖かい季節でも軽やかに手に持つことが出来ます。また、原料となるレザーは、品質が良くても見た目の傷や色合いによってどうしても表に出せないものがあるといいますが、レザーを細い紐状に裁断して編み上げるメッシュバッグの場合はそうした見た目の気になる部分が目立つことなく製品として仕上げられる、という良さがあります。REN(レン)ではこうした革も積極的に使い、製品化。メッシュバッグは原料を無駄なく、そして美しく作り上げるひとつのアイディアだったのです。
メッシュバッグが考案された後、縁あってインドのタミル・ナードゥ州にある10人ほどで経営しているという小さなタンナーに生産を依頼することになったREN(レン)。インド南部のタミル・ナードゥ州は皮革業がさかんな地として知られており、タンナーをはじめ多くの人が皮革業に携わっています。また、革を編み上げる作業など人の手が必要な工程は町のお母さんたちも一緒に手伝い、町ぐるみで皮革業を行う、そんな地域なのだそう。
メッシュバッグのもとになる、ゴートレザー
REN(レン)のメッシュバッグは、インド産のゴート(やぎ革)を原料にして編み上げたもの。ゴートレザーは革の中では比較的硬めの革で、牛革よりも密度の高い質感を持っています。この原皮を植物タンニンを使ってなめしていき、そのまま紐状に裁断していきます。通常はなめした後に「ほぐし」の工程が入るのだそうですが、REN(レン)ではゴートレザーの硬さをあえて残して型くずれのしにくい製品とするため、「ほぐし」の工程を省いているのだそう。その後、裁断した長さ50〜60cmのレザーを職人がひとつひとつ、木型に合わせて手で編み上げていきます。
この本体に採用している編み方は、「石畳(いしだたみ)編み」と呼ばれるもの。編み目がスクエア状に連なっていく編み方です。この編み方に必要となる革は面積の約5倍の分量とのこと。革を多く使う分、重量が気になるところですが、革の厚みを調整することで、全体は軽量のものに仕上げているのだそう。
メッシュバッグは、ひとつ編み上げるのに要す時間は熟練の職人さんでも、4〜5時間。ひとつひとつの編み目の大きさが職人の手の力加減によって左右されていくので、文字通り、まさに手仕事から生まれる製品です。
今回は、メッシュバッグの特徴である石畳編みをZUTTOのスタッフが体験することに。
作るのは6目×6目の小さなコースター。メッシュバッグと同じ原料のレザーを使いますが、幅を少し大きくしてもらって挑戦しました。
上画像左がひと目多い7目×7目で作られたお手本のコースター。右側は、分かりやすく一本ずつ色付けされたものです。石畳編みは裁断された紐状のレザーをタテ・ヨコ双方から編み上げていく構造になっています。たとえば最下段の一段目の場合、左端の編み目からスタートし、タテは黒色の紐、ヨコは水色の紐を絡ませながら、スクエア状の編み目を作っていきます。一方の紐で輪をつくり、もう一方を通してひとつずつ手で編み目を作っていきます。
早速スタッフが挑戦してみます。紐状になったゴートレザーはくったり柔らかく感じますが、それでもREN(レン)が取り扱っている革の中ではやはり硬いほうに当てはまるのだそう。程良くコシのある革質は、編み上げたときに型くずれしないという良さがあります。レザーの香りがふんわりと香る中、まずはゆっくりと、編み方を教えてもらいながら進めていきます。
石畳編みの難しさは、編み目の大きさと並び方を一定に保つこと。通し穴を大きく取りすぎると編み目も大きくなり、編み目の間に隙間が開いてしまいます。とはいえ、逆に編み目を小さくしようとぎゅっと紐を引っ張ると革がよれてしまってきれいな編み目の形を作れない…。この調整が難しく、ひとつの編み目を作るのにも時間を要してしまいます。
ようやく出来上がった一段目。一定の力加減を心がけるものの、やはり編み目の間に隙間が出来てしまいます。一段目の場合、紐がそれぞれ独立した状態なのでまだ調整が効きますが、これが二段目、三段目となっていくと紐を引っ張っても編み目を絞りづらくなり、調整しづらくなっていきます。
バッグとなると、やはり編み目のかたさの調整が肝となるのだそう。編み目が緩いと荷物を入れた際にバッグが伸びやすくなってしまうという懸念が生じ、一方で編み目をきつく引っ張ってしまうと、綺麗な仕上がりとならないというもの。ひとつひとつの編み目を適度な大きさと堅さにし、そしてその編み目をいくつも並べていく。石畳編みは、技術と根気が必要です。
そして1時間弱かけて出来上がったコースターがこちら。切れ端は全て編み目の裏側へ収納したので、全てレザーだけで作られたコースターです。編み上げながら、徐々にコツを覚えてスピードも上がったものの、出来上がってみるとやはり編み目の緩さが気になるところ。革がよれないように、と気をつけていたら、全体的に編み目が大きくなってしまいました。
石畳編みは全てが力加減でものを言うといっても過言ではありません。REN(レン)の方によると、紐状のレザーが1mm細くなるだけでも、編み上げの難易度がずっと上がるのだそう。手の動きと集中力が必要となる石畳編みの奥深さを実感したのでした。
REN(レン)では、革の持つ特徴を出来る限りそのまま残すために、製品によっては素上げ(すあげ)と呼ばれる仕上げになっています。
一般的に革製品は最終工程で着色や色止め、艶出しといった目的の「化粧」を施しますが、メッシュバッグのCAMELやBLACKの色は、この化粧を施さないことで、素材本来の革質が表れた仕上がりとなります。そのためよく見ると、一本一本の革の色合いも微妙に異なっています。さらに使うほどにエイジングが表れやすいのもポイント。
REN(レン)のメッシュレザーバッグの中でも、CAMELは特に素上げの特徴を見ることが出来ます。上画像の右側は1年ほど使用したバッグ(ZUTTOではお取扱いのない形です)。左側は今回製作した新品のコースター。バッグのほうが格段に色が濃くなっており、その違いは一目瞭然です。
色だけでなく、使用することで艶が出てくるのも素上げによる特徴。光に当たると柔らかい光沢が見えるようになり、また、しなやかさが印象的なゴートレザーがややくったりと柔らかく変化していることが分かります。色を革までしっかりと通したBLACKもまた、時間とともに艶を見せていきます。
REN(レン)のメッシュバッグは、全部で3サイズをお取扱いしています。柔らかく品のあるメッシュバッグはどんなコーディネートにも似合います。
GOAT メッシュバッグ S
ベーシックなSサイズは気軽に持てるサイズのバッグ。コンパクトでありながら、お弁当箱と水筒が入るほどの大きさなので、荷物は小さめ派の方におすすめする休日用バッグです。
GOAT メッシュバッグ L
Lサイズは、持ち手が長めに作られたタイプ。肩掛けにもちょうど良いサイズ感で、高さのある本などを入れることも出来るので、通勤用のバッグとしてもおすすめです。顔料を使ったWHITEは、はっきりとした白が美しい色合いです。
GOAT メッシュバッグ WIDE
WIDEは、横幅を広めに持たせたタイプ。メインスペースにはA4サイズのファイルや雑誌などが収納可能です。荷物の出し入れが楽なので、荷物の多めの方に。
REN(レン)の荒井さんによると、レザーバッグは遠慮せずに使うことがバッグにとっても一番良い、とのこと。使わないとレザーが硬くなってしまい、環境によってはカビの原因にもなるという懸念があります。一方で、使えば使うほど、手触りも柔らかく変化していき、色艶を増していく。だからこそ気兼ねなく手に取って使ってもらうのが、バッグにとっても最良なのだそうです。
使うことが一番のお手入れとなるメッシュレザーバッグ。もし乾燥が気になる場合は、少量の乳化製クリームが良いのだそうです。メッシュレザーバッグは素上げをしていることもあり、一般的な革用オイルを使ってしまうと油分が入りすぎてシミの恐れがあります。そのため乳化製クリームを柔らかい布に少量取り、目立たない場所でお試し頂いてからご使用ください。
使い始める前に、まずは防水スプレーを軽くふるのもおすすめです。スプレーすることで、水分と汚れを寄せ付けにくくします。また、雨の日など、水に濡れてしまった場合は即座に柔らかい布で水気を拭き取り、乾燥させてください。
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