今回焦点をあてるのは、「竹」。竹といえば私達日本人にとって馴染み深い素材のひとつですが、素材としてどんな利点・強みがあるのか、はたまた暮らしの中にどんな道具として活用されているのか掘り下げる機会というのは意外と少ないかもしれません。しかし、長く使い続けられている素材にはそれだけの理由があるはず。なぜ、時代を超えて愛されてきたのか。なぜ、様々な日用品へと姿形を変えることが出来るのか。そんな竹という素材を取り上げ、利点・強みを見つめ直してみましょう。
かぐや姫の物語として知られる竹取物語は「今は昔、竹取の翁といふものありけり」という一文で始まります。かぐや姫がなぜ竹の中から登場するのかという、古典と竹の不思議な関係はさておき、おじいさんが竹を取ることを生業としていたことを考えれば、大昔から竹が人にとって有益な何かをもたらしてくれていたということは、想像に難くありません。竹馬、竹とんぼ、竹定規。デジタルの時代となった今でも、ふと振り返ってみればこうした「竹」素材との触れ合いは生活の身近な場所に見つけることが出来ますよね。
そんな竹にまつわる私たちの原体験を見据え、そもそも素材としての竹がどんな特徴を持っているのか気になるところ。竹の特徴として最初に抑えておきたいポイントが「竹は分類が難しい、不思議な存在である」ということ。実際に製品へと形を変えると、色や素材感からして木のような風合いになるため、私達は無意識のうちに竹を木の一種と捉えがちなのですが、実は竹はもともとイネ科に分類される植物。辞書で「竹」と引くと、「イネ科、常緑性の多年生植物」という説明があります。常緑性とは一年中緑の葉をつけていること、多年生とは1つの個体が1年以上にわたって生き続けることを指し、逆にいえば「季節の変化によって紅葉したり、1年で枯れたりすることがない植物」ということになります。
一般的な「木」は成長するほどに幹が太くなっていく一方、竹は数ヶ月も成長すると幹に相当する部分は一定以上太くなりません。立派な竹林でも、1本の太さは10-20cm程度ですよね。植物の分類について語り出すとそれだけで日が暮れてしまいますのでここでは割愛しますが、植物の成長の過程から分類すると、一般的な木とは大きくことなるということが言えます。木ではないのなら、竹は草なの?という議論も長くなるところで、竹は木でもないしかといって草でもないし、竹は竹であるという見方もあるというから、面白いですね。
そんな木とも草ともつかぬ、独自路線を行く竹は、植物としての構造の面でもユニークな点があります。それは地下茎という土の中にある茎で繋がっていて、非常に生命力が強いということ。「生垣の竹が予想以上に伸びてしまって切ったのだけど、またすぐ伸びてきた」といったエピソードを聞いたことはありませんか。これはまさに竹の構造の特徴によるもの。一般的な木は1本の幹に対して、土の中にそれぞれ根を持つという構造になっていますが、竹は地中の茎で大きくつながっていて、まるで家族のような構成になっています。ですので、地上に出ている竹を切っても地下茎が生きていれば竹はまた成長するのです。
お庭や家の周囲に竹があるとしたら管理は少々大変ですね。ただしこうした真っ直ぐ上に上に伸び、まるで家族のように成長する様子から子孫繁栄のイメージを連想させ、縁起の良いものとして大切にされてきた背景もあるのです。
例えば、竹定規。現在はものさし(定規)を使う機会というのもすっかり減ってしまいましたが、定規の役割といえば「直線を引く」「長さを測る」の2つですよね。まだプラスチックの質が安定しなかった時代、定規といえば竹製が一般的でした。これは、竹が熱や湿度による変質が少なく、形状の変化や伸縮が最小限に抑えられるため。環境によって伸びたり縮んだりということがなく、正確にmm単位の計測が可能なことから竹が好んで用いられたという訳です。
変質しにくいことの好例といえば、お茶道具。茶杓(ちゃしゃく)、柄杓(ひしゃく)など、お茶の世界では竹の道具がよく用いられており、実際に使われていた茶道具がもとの形のまま現在に受け継がれている例がたくさんあります。分かりやすい例で言うと、千利休が弟子に受け継いだ茶杓。千利休が自分自身で竹を削って作り上げ、お茶席で使った茶杓が今もなお美しい状態で残っているというから驚きです。千利休が生きていたのは16世紀のことですから、現代に至るまでその間なんと400年以上。保存状態によるものの、竹という素材が100年単位で受け継ぐことが可能なものであることを語るには十分な好例と言えるでしょう。
また、茶杓・柄杓は現代でいうキッチンウエアに分類される道具ですので、衛生面も気になります。その点、竹は天然の抗菌性を備えた優秀な素材。スギやヒノキといった木材がおひつやまな板に使われるのと同様に、竹もまた衛生的に用いることが出来るという点で古くから重宝されてきました。
短期間ですくすく成長する持続可能な素材であること、素材自体が丈夫で、衛生的に長期間の使用に耐えること。竹にはこうした様々な利点があるのですね。
竹定規に、茶杓、茶筅。どちらも、なるほど言われてみればと頷ける竹製品ですが、残念ながら現代の私たちの暮らしにとってさほど身近なものではなくなりつつあります。ここからは、現代のキッチンとリビングで活躍するよう生み出されたモダンなアイテムを見ていきます。実際に竹を用いて生み出された暮らしの日用品を見てみると、竹という素材の強みを感じ取ることが出来ますよ。
こちらは竹を使った箸。箸といえば一般的に木、もしくはプラスチックが用いられますが、長く使用していると欠けたり、塗装が剥げたりして見た目だけではなく使い心地をも大きく左右します。その点、軽さと箸先の細さが特徴の竹の箸は、滑りにくく口当たりが優しいため、食事をより美味しく感じられるのが特徴。見た目は繊細でも、丈夫で、長持ち、腐りにくくて扱い易いという優秀な箸。食い先は非常に細く、豆一粒も逃さずぴったりと掴めるほどの使い心地です。
続いてご紹介したいのが、こちらの花入れ。
ボール状に編まれた竹の中に、ガラスの器を入れるというシンプルなデザインで、竹のしなりが毬の形を作り上げ、美しい工芸品のような風格を醸し出しています。かごを構成するのは繊維に沿ってカットされた帯状の竹。シンプルな素材に「曲げ」という職人技を加えることで、こうした立体的なモノづくりも可能なことが竹の面白いところ。現在も喜びの行事で使われるくす玉。プラスチック製が出回る以前は、竹を編み込んだ素材で作られていたのだそう。古くからこうした技術を大切にしてきた日本文化の奥深さを感じられますね。
「しなり」「曲げ」をさらに応用したのが、「編み」の技術。日本だけでなく、世界中で様々な「かご」が生み出されてきましたが、私たち日本人が古くから作り続けてきたかごの一つが竹かごです。写真のように竹の表皮を活かして作られた竹かごは、折れにくくしなりが良い、ツルツルと滑らかな手触り、そして何より竹という自然素材から温かみを感じることが出来ます。現代にはメッシュ素材というものが存在しますが、規則正しく職人の手によって編み出された竹かごは、そうした大量生産の品々とは全く異なる風格を備えているのが分かります。
竹といえば、節のある円筒形を思い浮かべますが、竹を材木の一種として用い、様々な形へと加工することも可能です。その一つが集成材(しゅうせいざい)と言われるもので、竹を繊維方向に細く切ったものを均一に削り、一本一本を接着剤で貼り合わせて作る板状の素材です。 こうすることで竹の繊維がストライプ模様に見え、断面はまるでブロックのようにモダンなデザインになります。一見するとそれが竹とは分かり難いものの、表面の艶や質感は、やはり竹ならではのものです。和モダンな美しさから、フラワーベースや小物入れといったインテリア用品をはじめ、フローリングや壁といった建材にも用いられる素材です。
「竹の色」と言われて思い浮かべるのはどんな色でしょうか。人によっては鮮やかなグリーンであったり、少しくすんだカーキ色であったりと、いろいろなバリエーションがあるはずです。
日本に生息するだけでも、実は竹には600もの種類があり、品種によって色あいが異なるというのが一つあります。私たちが目にする機会が多いのは「孟宗(そうもく)竹」「真竹(まだけ)」といった種類で、いわゆる竹らしい緑色をしています。他にも幹の部分が黒く、葉は緑色の「黒竹」など、様々な品種が存在しています。
また、同じ竹でも経年変化によって色が変わることがあります。その好例が「煤竹(すすたけ)」。これはかつて、茅葺屋根の建材として竹が用いられていた頃、囲炉裏(いろり)の煙によって竹が燻されて色が変わったものを指します。何年もの時間をかけて煙で燻されることで赤黒く色が変化するのですが、昨今は自然に生み出される煤竹自体が大変希少な存在となっているため、人工的に煙で燻してこの色合いを出すこともあるのだそうです。
竹の構造で特徴的なのが、「節(ふし)」。他の草木にはなかなか見かけない特徴的な構造ですよね。竹はとても速いスピードですくすく成長するというのは先にご紹介した通りですが、実はこの節があることで他に類を見ない成長スピードが可能になっているのです。
筍(たけのこ)をカットすると、内部にたくさんの横線がありますよね。実はこれが節。筍では間隔がとても詰まって見えるのですが、成長するとそのまま竹の節になります。というのも、竹の節の数は小さな筍の状態からずっと変わらず、例えば節が60本あるとしたら60本のまま成長します。この節の一つ一つがぐんぐん育つことで、全体が速く成長することが出来るのです。また竹が上に上にと高く伸びた時、この節があることで空洞を物理的に強くするという役割も担っています。
竹の成長のために大切な役割を果たしている「節」ですが、これをデザインとして生かした製品も数多く生み出されています。例えば、こちらの耳かき。節と節の間の空洞を活かし、国産竹をカットして筒型の耳かきケースにしているのです。他の素材であれば、型に流し込んで固めたり、中をくりぬいて空洞を作ったりという作業が必要ですが、竹本来の節の構造を活かした造りになっているのが面白いですね。
一般的に、金属やプラスチックと比較すると、木や竹といった天然素材の方が取り扱いはデリケートにすべきという認識はあるものの、本来竹は柔軟性に富み、なおかつ丈夫な素材。基本的には他の木製品と同じに取り扱えば問題ありません。
竹はイネ科の植物のため、虫が付きやすいと言われています。一般的に、インテリアやキッチンアイテムなど、家庭用品に用いられている竹は製造の段階で油抜きや乾燥の処理を経て加工されるものがほとんど。ただし、濡れたまま放置したり直射日光のあたる場所に長期間放置すると変質・破損の危険があるので、通気性の良いところが保管し、水分がついたら優しく拭き取るようにしましょう。
基本的には竹は丈夫でなおかつ衛生的に使える素材なので、口に触れるキッチンアイテムについても、お手入れについてさほど神経質になる必要はありません。硬いブラシやタワシ、研磨剤の入った洗剤は避けましょう。併せて、つけ置き洗い・熱湯・食器洗浄機・食器乾燥器は避けるようにします。
▼今回ご紹介したブランドについて ー公長齋小菅(こうちょうさいこすが)
公長齋小菅(こうちょうさいこすが)は、1898年に創業した、竹製品ブランド。竹が昔から生活と文化に深く関わってきた意味をよく理解し、暮らしを豊かにする竹製品を生み出すこと。21世紀に相応しい暮らしの道具として、竹製品を作り続けています。またその製品は、世界の博覧会でも多数受賞をしています。
竹は古くから日本人の暮らしに寄り添ってきた素材で、自然からの贈りものです。公長齋小菅は、その素材で工芸品や暮らしの道具を作り、生活文化を豊かにしたいと考えています。時代を越えても変わらない価値観や、感性などを忘れる事なく、ものづくりに取り組んでいるのが、公長齋小菅の魅力です。