ZUTTOのスタッフがものづくりの工程を体験し、製品が生まれる様子と高い技術をご紹介する、技術体験ラボラトリーシリーズ。今回体験させて頂くのは、夏空が待ち遠しくなるような涼やかなガラスのアクセサリーブランド・HARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)のランプワーク(別称:バーナーワーク)。高温の炎が繊細なガラスの造形を作り出す技術です。
繊細なガラスを相手にしながら、手仕事とは思えないほど緻密な仕上がり。高温の炎を操りながら、完成させていくランプワークは、全て職人さんの手仕事によるものです。今回は実際に体験しながら、手加工によるガラスアクセサリーの魅力に迫ります。
今回お邪魔するのは東京・小伝馬町にあるギャラリーショップ兼工房です
体験の様子をご紹介する前に、ランプワークについて少しご説明を。ランプワークとは、元となるガラスをバーナーの炎によって熔融させ、成型する技術のこと。紀元前4000年頃に起源を持つガラスが、その初期段階から装飾品などを作るために行われてきたと言われています。硬いガラスが炎の熱によって形を変えていく様はまるで魔法のよう。形が刻一刻と変化していくため、スピードと正確性が問われ、職人さんによる調整が必要不可欠です。
HARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)は、1921年創業の国産ガラスメーカー、HARIO(ハリオ)が手がけるハンドメイドブランド。手加工にしかできないガラスアイテムを生み出しています。HARIO(ハリオ)といえばコーヒー器具や食器のようなキッチン・テーブルウェアが有名ですが、もともと創業当時は職人が1点ずつ手作業により、理化学器具や食器を作っていました。
やがてガラス製品の需要が高まると、効率化を図るため機械製造がメインとなり、職人の仕事は減る一方。これはつまり、受け継がれてきたガラス細工技術の継承が途絶え、新たな技術や製品を生み出せなくなることを同時に意味します。そこで手仕事を現代にも残すべく生まれたのがHARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)。手仕事を活かしたものづくりを続けています。機械による製造が一般的となった今、ひとつひとつを職人が仕上げるガラスのアクセサリーは、今では貴重なガラス製品と言えるのです。
では早速、職人さんに教えて頂きながらランプワーク体験、スタートです。
今回教えてくださるのは、HARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)に入り3年目の藤枝(ふじえだ)さん。「職人」という言葉から、男性を想像することも少なくないですが、HARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)の職人さんは全て女性の方。穏やかでありながら、職人さんならではの凛とした雰囲気をお持ちの方でした。
ランプワークに使うのは主に下記の道具。
・ガラス棒(棒状のガラス)
作るアクセサリーの原型となるもの。細さは様々で、作るものに合わせて選びます。ガラスを結合したり、変形する際にも使用する道具でもあります。
※急熱や急冷に耐えられる耐熱ガラスを使用。ガラスの膨張係数が低いため、急に熱しても割れにくい性質を持ちます。
・バーナー
ガラスを溶かす際に使用。温度調節も可能で、段階によって炎の量や温度を使い分けます。
・加工するための道具
ガラスを平たくする際に使用する【コテ】や先端をねじる際に使用する【ピンセット】など。行う加工によって必要なものを選び取っていきます。
高温の炎を使って作業をするため、目を守る眼鏡も必需品
大まかな行程としては
1. 炎にあてガラス棒を溶かし、原型となる球体を作る。
2. 作った球体を道具を使って加工する。
3. 棒から加工したガラスを切り離して完成。
といった流れ。今回3種類のランプワークを体験させて頂きました。
どんなガラス作品を作る場合でも基本となる作業。ガラス棒をバーナーの炎で溶かすことで原型となる球体を作ります。この作業をする際は棒自体を回しながら、バーナーの炎に向かってガラス棒を斜め下に向けて作業を行います。すると、溶けていくガラス自身の重みで、ガラスの先端に球体が出来上がっていくのです。
熱して1分もしないうちに、硬いガラスが溶けていきます
2000度の炎が目の前でゴーッと音をたて、ガラスを溶かしていく様に圧倒されるスタッフ。手元が熱いと感じるほどではなくとも、ガラスとじっくり向き合う顔にはやはり熱気を感じる様子。ひんやりとした涼しげなガラスが高温の炎の中で形を変えていく工程は、なんだか幻想的ですらあります。
自分が作りたい葉っぱの大きさになるまで丁寧に回していきます。「ガラス棒を回す」というと一見簡単そうに思えますが、同じスピードで回し続けていくことは大変な作業です。
次は原型となる葉っぱの形を作っていきます。ガラスがオレンジ色になったら充分熱され、溶けてきた証拠。すぐに炎の中から取り出し、ガラスが柔らかいうちに素早く加工。葉っぱ型の場合は、球体を平たくつぶし、葉脈をつけていきます。
コテでつぶし、球体を平らな状態に → コテの跡を溶かして消しながら、葉脈を作り上げます
熱されたガラスは、まるで水飴のように形を変えます。ただその状態も数秒、炎の中から取り出すだけで元の硬いガラスに戻ってしまいます。炎により一瞬で姿を変えるガラスを相手に、苦戦するスタッフ。葉脈を付けるために一部分だけ熱しているつもりでも、別の部分に炎が当たるとせっかくつけた葉脈の跡も溶けてしまうので、慎重に作業を進めていきます。
葉脈をつけた先端を引っ張ることで、葉先をつくり楕円形のような形に。また、ねじりを入れることで葉っぱの立体感も出していきます。
形が完成した後は「徐冷」作業。バーナーの炎の温度を下げ、徐々に冷やすことで割れにくくしていきます。ガラスは細工をすればするほど歪みが生まれて割れやすくなってしまうので、この過程で丁寧に調節しながら冷やし、壊れにくくするのです。まず作ったアイテムはマドラーなので、ガラス棒の状態で完成。
完成品。左:見本でご用意頂いたもの、右:スタッフが作ったもの
作り始めて15分程度で出来上がり。スタッフが作ったマドラーも味があって可愛らしくできましたが、見本のマドラーは葉脈の跡がしっかりついています。これはガラスを熱した後にいかに素早く作業が出来るかに関わってくるので、職人さんに求められるスピード感がいかに素早いものなのかがわかりますね。
マドラーづくりでランプワークに少しだけ慣れたところで、今度はアクセサリーづくりに挑戦。先ほどのマドラーよりも太めのガラス棒を使います。
流れは葉っぱ型のマドラー同様、ガラス棒を斜めにしながら原型を作っていきます。今回は大振りのアクセサリーなので、原型となる球体も大きめ。大きく過ぎると重みでガラスが落ちてしまいそうになり、さきほどのマドラーを回すときよりもバランスが難しい様子。
また、さきほどの工程と少し違うところは雫型をつくるのにガラスそのものの重力を使うこと。
溶けたガラスそのものが下に向かって落ち、自然な雫の形に
希望のサイズになったら丸く溶けた部分を下に向けてくるくる回すと、本物の雫のように下の部分がぷっくりとしてきます。熱されたガラス自身の重みによって作られる、まさに「ガラスの雫」ですね。
ここで別のガラスの棒が2つ登場。雫型の先端にネックレスの革紐を通す輪っかを作るため、まずは雫を安定させるため雫の底にガラス棒をつけます。その後、既にご用意頂いていた革紐を通す輪っか部分がついたガラス棒を、雫の先端に接合していきます。
雫の底に新しいガラス棒を付けた後に、先端に輪っかを付けます
ただ、雫の先端と輪っかの接合部が細すぎると、輪っか部分だけが取れてしまう可能性もあるのだそう。繊細な形を作りながら、壊れにくいガラスアクセサリーを作るためそういった視点は欠かせないもの。実際にはじめにスタッフが作ったものも、藤枝さんに手直しをしていただきながら完成しました。
皮の紐を通して完成。ガラスの素材が活きたシンプルなネックレスが出来上がりました
そして、いよいよ最後に体験させて頂くのはZUTTOでもお取り扱いのあるティアーズシリーズのパーツ。涙の水滴をそのまま固めて造形したかのような優しい雰囲気のZUTTOでも人気のモチーフです。
今まで体験させて頂いた中で最も小さなサイズ。6mmのガラス棒から8mmの涙の球体を作っていきます。工程は涙の球体を作り、チェーンを通すための穴を作るシンプルな流れ。この日の体験してきた経験値を活かしながら、極力スタッフが自力で挑戦してみることに。
6mmのガラス棒から8mmの球体を作ります。少し回す時間を長くすると球体が大きくなってしまうので、要注意。今回は流れの体験なので、厳密にサイズ計測までは行わずに進めましたが、実際職人さんが作るときはサイズを計測しながら作業を進めていきます。ティアーズのモチーフは小さいため、下に向けて回していくことで自然と涙のような形になっていきます。
新しいガラス棒を用意し、そのガラスを使ってチェーンを通す穴を作ります。二つのガラス棒をくるくる回して近づけながら、球体に二本の角を作ってからつなげて輪っかにしていきます。
ここでスタッフが大苦戦。というのも、角を生やす球体が小さいのでそもそも位置を決めるのが難しく、真ん中に角が生えてしまい、輪っかを作ることがなかなか出来ずに二度、三度とやり直しに。
左が見本のティアーズ、右がスタッフが作ったもの。何度試しても、角が太かったり、真ん中にきてしまったりと大苦戦・・・
しかしその後何度やっても成功せず、結果、今回は完成を断念することになってしまいました。
実は、今回体験させて頂いたティアーズはHARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)の新人職人さんが最初に作るアイテムだそう。練習を積み重ねて製品にしていきますが、1mm単位でサイズが決まっているので、販売可能なアイテムを作れるようになるまで3、4ヶ月がかかるのだとか。職人さんに求められるレベルの高さが垣間見えます。
アクセサリーになくてはならない、パーツを取り付ける細かな部分もすべてガラスで作られています
ランプワークの難しさを肌で体感したスタッフは、職人さんがいかに緻密な作業を行っているかも実感した様子。「刻一刻と姿を変えるガラスを相手にすると、作業だけでいっぱいいっぱいになってしまうのに、製品となるとサイズも重要なんですよね。今回計測は行わずにランプワークだけで体験させて頂きましたが、サイズを測りながらだなんて、想像ができないです・・・」と。
話を伺うと、今回教えてくださった藤枝さんは、美術大学の工芸学科卒とのこと。HARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)の職人さんたちは、0からスタートするのでなく経験者であることが前提なのだとか。スピードと正確性を求められるランプワークは、こうした熟練の職人さんだからなし得るもの。機械を使った製造ではなく、人の手があるから出来る製品であることを改めて実感する体験となりました。
今回体験させて頂いたHARIO Lampwork Factory(ハリオ・ランプワーク・ファクトリー)さんには、ZUTTOの別注品もお願いしています。そんなご相談もできるのは、柔軟な対応をしてくださる職人さんがいてこそ。実は今も別注品をご相談中。出来上がる日をスタッフも楽しみにしながらご相談しているところなのです。
こちらもZUTTOだけの別注品、ピアス バー。上品さを追い求めたどり着いたシンプルな形です
スタッフ愛用のネックレス カナデ。作った職人さんはどんな方かな、と想像するのも楽しくなります
暑い夏を待ちわびるかのような涼し気なガラスのアクセサリーたち。妥協せず、丁寧なものづくりを続ける職人さんの気持ちが一つ一つに込められていることを知ると、もっと愛着が湧いてきますね。
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