私達が手に取って便利だと感じる機能的なモノや、定番となっている素材が生まれる背景には、何かしらの「不便の解決」や、「現状をより良くしたい」という想いが垣間見られます。それらの想いが満たされるアイディアや素材が生まれた時、その機能性をまた何か別のアイテムに派生させることで、使い心地の連鎖としてつながっているのではないでしょうか。
今回はいつもと少し趣向を変えて、あるアイディアや機能性から派生したファッションアイテム、という視点でご紹介していきます。
デンマークのニットブランド、ANDERSEN-ANDERSEN (アンデルセン-アンデルセン)は船員の働きやすさから派生したアイディアをニットTシャツを展開しています。
海洋国であるデンマークの伝統的なセーラーセーター(フィッシャーマンセーター)をベースにしており、その特徴としては、
・前後対称のデザイン
・編み目が詰まった、しっかりとした生地
が挙げられます。
「前後対称のデザイン」
私たちが日々洋服を着る際、どちらが前で後ろかということはタグや首周りの詰まり具合で判断することが多いと思います。ところが薄暗い船の中でどちらが前かを確かめるのは困難で、規則ある時間の中で忙しく過ごす船員にとってはその判断の時間でさえも惜しいものでした。そこで行き着いたのは、ニットを「前後対称のデザイン」にして、前後ろどちらで着ても問題ないようにフォルムを設計したのです。
前後対称だからといって首が詰まっていて苦しかったり、腕がまわしにくい、着心地が悪い、などというようなことは全くありません。これを可能にしているのは襟周りが首にまとわりつかず、けれども開きすぎない、絶妙なカーブを生み出すことが出来る「フルファッション製法」です。
編まれた生地をパーツごとに縫製していく従来のものではなく、フルファッション製法はパーツごとに編み上げてから一目一目繋ぎ合わせる方法です。これによりパーツ接合部のごわつきが少なく、着心地の良さにつながるという訳です。
「編み目が詰まった、しっかりとした生地」
船員たちは海洋上での様々な力仕事において、着るものが「丈夫である」ことは大事な点でした。寒さから身を守り、狭い船内での作業にも従事することから、当然ですがすぐにほつれたり破れてしまうものではいけなかった訳です。そのため太い繊維を採用しかつ表裏が同じ編み目となる「両畦編み」にすることで生地に厚みが生まれ丈夫さにつながっているのです。
スカート:リネンティアードスカート、バッグ:PETIT PANIER XS、スニーカー:デッキシューズ L011 WHITE
こちらの「ニットTシャツ」シリーズは上記のデンマークのセーラーセーターの特徴を受け継ぎ派生したもの。船員が仕事をしやすくするための特徴が、日常着として落とし込まれ愛用されているのです。コットンTシャツは使っていくとどうしてもくったりとしてきたり、少々カジュアルな印象を受けますが、そこで役立つのがニットTシャツです。
しっかりとした編みは着用時の端正なフォルムときちんと感につながり、朝のバタバタと忙しい時間に前後を確認する必要もありません。スカートにもパンツにも合わせやすいシンプルさなので、お手持ちのアイテムとの相性もばっちりなはずです。
ポロシャツとは定番品として多くの方が持つ、鹿の子素材に小さい襟付きの半袖Tシャツですが、そのルーツには実は「テニス」があることをご存知でしょうか?
ポロシャツの原型は、ファッションブランド・ラコステの創業者であるルネ・ラコステが考案者だと言われています。1920年当時、彼は有名なテニスプレーヤーで、テニスをより快適にプレーするために革新的な半袖襟付きシャツを開発しました。
それがのちのポロシャツになるのですが、
・鹿の子素材
・襟付き、ボタン付き
という特徴があります。
「鹿の子素材」
ポロシャツの素材として一般的なのは、編み目がぽこぽことしている鹿の子(ピケ)素材。これはポロ競技の選手が着用していたものをラコステが応用した名残で、生地の特性である吸汗性や通気性に着目しました。よく吸ってよく乾くためプレー中の汗が張り付く不快感もなく、編み素材であるため伸縮性に富んでいたこと、肌離れが良いこともスポーツウェアとして最適だったという訳です。
パンツ:バンブーコットン サルエルパンツ、バッグ:【別注】帆布バッグ SCCF 008 BLACK/MILK
「襟付き、ボタン付き」
ルーツはスポーツウェアであるにもかかわらずポロシャツが襟付き・ボタン付きであることは、むしろ「ルーツがスポーツウェアであるから」と言ったほうが良いかもしれません。古くはスポーツは紳士淑女のたしなみであったことから、テニスやポロ、ゴルフなど礼儀や作法を重んじることが多く、決められたルールが存在します。プレー中のユニフォームもしかりで、襟付き・ボタン付きは対戦相手や観戦客に対する礼儀だと考えられています。
このようにポロシャツの素材使いやデザインの理由は、スポーツをする人のために生まれたという、そのルーツにありました。つまりポロシャツはテニスやポロなど複数のスポーツから派生したものであり、いまやそれはスポーツの枠を超えてポロシャツというファッションアイテムに昇華しているということなのです。
それは鹿の子素材の通気性が暑い夏に着るのにぴったりだということ、そしてTシャツではなく襟付きのポロシャツのほうがエレガントできちんとして見えることから、ビジネスカジュアルやTPOに合わせたファッションが必要な場面でも幅広く活躍してくれるためです。
Glacon(グラソン)のポロシャツは襟が丸く小さいことが特徴。Yシャツなどのように台襟付きで、首周りから折り返すように生地を切替えて付けていることもあり、襟がしっかりと立ちますので、ジャケットなどを羽織った時にもピシッときまりカジュアルになり過ぎないことで人気です。
一般のポロシャツは、ただ襟を折り返しただけの作りで、洗濯を繰り返すことで襟がよれてしまいますが、そうした心配もないのが、Glacon(グラソン)です。
また、ポロシャツの多くは、前身頃と後ろ身頃を比べると、割合後ろ見頃の方が長くなっており、裾を出して着る方には少々格好が悪いと感じる方もいますが、Glacon(グラソン)のポロシャツは前身頃と後身頃の長さが同じで着丈も長過ぎないため、裾を出す時の着方も良く、身幅も日本人の体型にバランスが良い寸法になっています。
トップス:テクノラマ天竺 切り替えトップス、ベルト:レザーベルト PV887、バングル:スネークデザイン バングル/196
季節・年齢・性別・時代・ジャンル問わず活躍する定番アイテムであるチノパン。チノパンは「チノクロス」と呼ばれる綾織りの素材で、多くは少し張りのあるコットン製です。
私たちがファッションを意識するようになる頃には当たり前のように世の中に存在していたチノパンなので、その名の由来が【CHINA】からきていると知った時は驚きでしたが、世界大戦時にアメリカ軍が軍服用に中国から大量に買い付けた生地が元になっています。
つまりチノパンのルーツは軍服にあり、その後これほどまでにファッションアイテムとして定番化したのには理由があるはずです。一般的にチノパンというとベージュやカーキ色を思い浮かべますが、これも元は軍服であることに由来します。染料が高価だった時代の軍服は染めが施されていない白が大半でしたが、英国軍が汚れを目立たなくすることと戦闘中の迷彩効果を狙うためにコーヒーや土で軍服を染めたことから現在の軍服のアースカラーイメージが定着したと言います。
そしてそのベージュやカーキといった軍服の色のイメージがそのまま現代のファッションに受け入れられ、デニムほどラフではなくスラックスほど堅苦しくない「ちょうどいい」塩梅のボトムスとして派生していったのです。
ZUTTOオリジナルのチノパンは、美しいディテールを加えることで「チノパン」ではなくより女性らしく上品な「チノトラウザーズ」として昇華させました。裾に向かうにつれ細身になっていくテーパードタイプで、膝下のシーム(縫い目)が前側にひねったようなパターンを採用しました。これは、人間工学に基づいた膝の動きに合わせた立体裁断で構築しているのですが、こういった機能性に加えてより足がすっきりと見える利点もあります。細身なので、ワンピースやチュニックの下に履くコーディネートにも活用します。
バッグ:FLAT SHOULDER/S、パンプス:プレーンパンプス GARGOYLE
こちらは一見普通のコットンバッグですが、その生地をよく見てみると、刺し子織りであることが分かります。愛知県三河の刺し子織の老舗メーカー、タネイが手がけるファクトリーブランドであるCaBas(キャバ)は、古くから同メーカーが研鑽を積んだ刺し子織りの技術から生まれました。
タネイは日本で初めて綿業が根を下ろした三河で1920年に創業しました。刺し子織りは日本に古くから伝わる伝統的な刺繍である「刺し子」を布地に模して織った綿織物のことです。刺し子は布地に補強、保温、装飾のために別糸を刺し縫ったもののことをいい、伝承されてきました。そんな刺し子に似せて織った刺し子織りですが、柔道着や武道の道着と言うとイメージしやすいかもしれません。激しく動き、時には道着を引っ張りながら技を決める、そんなスポーツに適した道具の素材として長く存在してきました。タネイは国内の道着製造のトップメーカーでもあるのですが、そんな「本業」で培ってきた技術は、
・厚手の三河木綿を機械で刺し子織りにする技術
・丈夫な刺し子織りを真っ直ぐに裁ち揃える技術
「厚手の三河木綿を機械で刺し子織りにする技術」
もともと、刺し子は手芸の一種でした。主に東北地方に伝わる伝統的な刺繍で、布地を強くしながら装飾を施すための手法だったのです。タネイはそれを動力による織り機を開発することで安定的に供給することをいち早く可能にし、三河の地に刺し子織りを根付かせたメーカーなのです。三河木綿は生地の凹凸により耐久性、耐火性、保温性、吸湿性に優れ、その上肌触りも良いという特徴を持ちます。
「丈夫な刺し子織りを真っ直ぐに裁ち揃え縫製する技術」
丈夫さをウリにしている素材ですが、裏を返すと加工や縫製がしにくいという側面があります。ですがそこは長年刺し子織りに向き合ってきた経験豊かな作り手の腕の見せ所で、生地は真っ直ぐ綺麗に裁ち揃えられ、一枚一枚丁寧に縫製されていきます。
画像はCaBas(キャバ)の「ランドリーバッグ」。底面がラウンド型のトートバッグで、もちろん洗濯物入れとしてではなく、バッグとしてお使いください。はじめは少し張りがあるように感じられる生地も使うほどに柔らかく馴染み、どんどん持ちやすくなっていきます。季節問わずお使い頂けるデザインとカラーです。
サイズS
深さのあるサイズMも
刺し子織りのしっかりとした生地は収納ボックスにも適していて、へたらずに自立してくれます。プラスチックにはない柔らかな雰囲気が魅力で、実際柔軟性があるので無駄なスペースが生まれず置き場所に困りません。使わない時は折りたたみ可能な点も、布生地収納ならではの利点ですね。サイズはSとMがあり、内側はPVCコーティングされているので古雑誌のストッカー、子どものおもちゃ入れ、タオルやなど日常の中で頻繁に出し入れするものからクローゼットの奥にしまっておきたいものなど、あらゆるものの収納に活躍します。
生地の織りから裁断、縫製まで一貫したモノづくりがあるからこそ、バッグやポーチといった、これまでとは異なるアイテムに生まれ変わっても高い品質を保ち、新たなジャンルに挑戦し続けられる強い土台となるのです。道着の生地から派生したCaBas(キャバ)の刺し子織りアイテムは、日々を彩るアイテムとして自由な発想で使って欲しいという想いから、自分らしいライフスタイルを確立して行こうとするあらゆる世代に向けて発信を続けていきます。
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いつだってモノが生まれるすぐそばには、何らかの「不」が存在し、大げさに言えば私たちの経済活動にはそれらを解決し人の役に立つ、という存在意義が求められます。
今回ご紹介した派生アイテムたちは、ある機能性に特化したことが評価され、一般的なアイテムとして派生していった経緯があるわけですが、その機能性や使いやすさこそがこれまで長く愛されてきた理由であり、今後も愛着が湧くポイントでもあるもかもしれません。
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