野菜売り場に並ぶ春菊や菜の花。
旬の野菜を使ったお料理を食卓に並べる時の、
嬉しくて、食べるのが少し勿体ないような気持ちって、ありますよね。
そんな食の楽しみといつもセットになっているのが、器の楽しみです。
今回のテーマは「漆器(しっき)」。
知っているようで意外と知らない、漆器の選び方、
お手入れ方法についてご紹介していきます。
漆器と言われて、まず最初に何が思い浮かぶでしょうか?
黒や朱色の、表面がつるつるとしたお椀、
優美な絵模様が施されたお茶菓子入れや手鏡。
お正月に食べるお雑煮を思い浮かべる方が多いかもしれません。
漆器(しっき)とは、文字通り漆が施された器のことですが、
そもそも、器とは二つの要素から成り立っています。
それは、器の原型となる「素地」と仕上げに使われる「塗料」です。
素地:水目桜(みずめざくら)や欅(けやき)のような天然木、または合成樹脂など
塗料:漆、ウレタンなど
この写真に映っているのは、全て漆器です。
大きさ、形、色や木目の見え方も様々なのが分かりますね。
ZUTTOでご紹介している漆器ブランドは複数ありますが、
今回は汁椀を主に扱っている3ブランドを中心にご紹介します。
山中漆器と呼ばれる石川県の伝統工芸のブランド。
喜八工房は、山中漆器の上塗師、二代目喜八が1882年に
産地製造卸として創業した山中漆器で最も古い工房で、
モダンで薄挽きの美しい造形が魅力です。
木工所として創業した、高度なろくろ挽き技術を活かしたブランド。
喜八工房と同じ、山中漆器のブランドです。
キーワードは「不易流行」。
変わらない山中漆器の伝統の技を「不易」、
現代に生きる感性から生まれるデザインを「流行」と捉え、
このふたつを融合し現代の暮らしにすっと馴染むものづくりを行っています。
創業200年を越える福井県鯖江市の
漆器メーカー漆琳堂が手がけるお椀専門ブランド。
お椀の機能そのものの原点に立ち戻り、
毎日の暮らしの中で使い続けられる製品を
作りたいという思いから生まれた、カラフルなお椀が特徴です。
ではまず最初に、喜八工房(きはちこうぼう)の
ロングライフ汁椀の箱を開けてみましょう。
「喜八」のロゴが入った化粧箱を開けると、
薄紙で丁寧に包まれたお椀が入っています。
漆といえばやっぱりこの色。
黒と朱のコントラストが目を引きます。
このロングライフ汁椀は、下地をあえて塗らず、
黒色と朱色を丁寧に塗り重ねられ、仕上げは漆を刷毛で塗り上げ
しっとりとした質感を出しています。
素地は欅(けやき)で、漆を塗った表面からも、
少しだけ木目が見えるのが分かります。
ロングライフ汁椀の箱に入っている説明書には、
「使い込むことにより、漆が擦れてきて下塗りの色が見えてくることも想定内。
まさにロングライフな椀。どんどん使い込んで、自分だけのMy椀に育て上げてもらいたい」
というメッセージが書かれています。
長く使うことを前提にしているので、
あえて下塗りは施さずに丁寧に漆を塗るという、
新品の時には見えないけれど、長く使うことで違いが現れるという
こだわりが感じられます。
同じ喜八工房の漆器で、
ちょっと趣の違うものがあるので次はそちらを見てみましょう。
写真の左が先ほどの「ロングワイフ汁椀」で、右が「ぐい呑 モダン」。
汁椀をそのままミニチュアサイズにしたかのような
可愛らしいサイズで、酒器としてはもちろん花器や小物入れとしても使えそうです。
この「ぐい呑 モダン」、素地は「ロングライフ汁椀」と同じ
欅(けやき)を使用しているのですが、表面の仕上げが違います。
これは「拭き漆仕上げ」といって、木材に漆を塗った後、
布などで拭き取り乾かすという行程を
何度か繰り返して仕上げたもの。
漆を拭き取ることで天然木本来の木目の美しさを見せることが出来るんですね。
ZUTTOでご紹介しているのは、「ナチュラル」と「拭き漆」の2種。
この2種を比較すると、漆を施さない素地の質感と、拭き漆仕上げならではの
光沢や木目の見え方が分かります。
幾重にも塗り重ねた「黒」「朱」とはまた違う、
拭き漆ならではの趣が好きであれば、
我戸幹男商店(ガトミキオショウテン)の
「MATEVARI 拭漆」の佇まいもおすすめ。
「MATEVARI 拭漆」は思わず頬擦りしたくなるような、
ろくろ挽きによる滑らかな曲線が特徴です。
桜・楓・楢の3種類のお椀は
それぞれが持つ木目の形、色、太さが少しずつ異なり、
同じ形・仕上げでも違う印象があります。
桜は柔らかな丸みのある木目を持ち、
楓はしなやかさが特徴。
楢はこの3種の中では最も力強さのある太い木目が印象的。
同じ仕上げでもどんな木材を素地に使うかで
印象がここまで違うんですね。
そしてさらに、拭き漆に色遊びの要素を加えたのが、
これまでの漆椀のイメージを変えたとも言える「お椀やうちだ」です。
国産の水目桜をくり抜き、色漆と拭き漆を塗り重ねて、
木目が見える程度に、色付を施すのが特徴です。
透明感ある色鮮やかなお椀には、
毎日の使用に耐えるために必要な回数だけ漆を塗り、
多くの人に手に取って頂ける製品になるようにと、工夫されています。
積み重ねても安定した収納が出来るので、使い勝手が良いんです。
こうした工夫は、伝統工芸技術を継承しつつも、
日常に使いやすいようにと考えたブランドの思いを感じます。
色は、黒・赤・灰・紺・黄・緑と6種類のバリエーションですので、
家族みんな好きな色を選んで使うのもおすすめ。
お気に入りの漆器が見つかったら、
気になるのは普段の使い方とお手入れ。
漆の「塗り」の技術が魅力である輪島キリモトさんに
以前伺ったメンテナンス方法を中心にまとめてみました。
<基本的なお手入れ>
・水やぬるま湯で薄めた洗剤を使い、
スポンジで洗い流します。
普段お使いのガラスのコップや陶器を
洗うようにお手入れすれば大丈夫です。
・ガラス等の堅いもの、
先のとがったものが当たると、塗膜が傷ついてしまうことも。
先の尖ったフォークやガラス食器とは別に洗うようにすると
傷を付ける心配も少なくなります。
・洗った後は、そのまま長時間放置しないようにします。
優しくタオルやふきんで水分を拭きとってあげましょう。
水滴を残したままにしておくと、
水道水の中に含まれるカルキ分が残り、
色味の濃い漆器の場合、白っぽいものが目立ってしまいます。
<しても大丈夫なこと>
---熱い汁物を入れても大丈夫?(耐熱性について)
食べられる程度の熱さなら大丈夫です。
天然木を使用した漆器なら、お椀自体が熱くならず手に持つことが出来ますよ。
ただし、沸騰したての高温のものを入れるのは避けましょう。
(急激な温度変化により、漆の表面が変色してしまうことがあるため。)
<してはいけないこと>
---電子レンジ、食洗機、冷蔵庫は?
天然木と漆でつくられた漆器は、
食洗機や乾燥機、電子レンジを使うことは避けましょう。
急激な衝撃、乾燥を与えると、器が傷む原因になります。
冷蔵庫の中は乾燥しているので、長時間入れることはお勧めできません。
ただ、料理を盛りつけたものを
食事が始まるまで一時的に入れておく程度なら大丈夫です。
<自分の肌のように、考える>
例えば、口に入れられる程度の熱いものなら
入れても大丈夫だけれど、沸騰したてのものは苦手。
乾燥や急な温度変化に弱いというのは、
まるで私達の肌のようだと思いませんか?
漆は湿度70〜80%、温度25度という環境の中で最も固まります。
乾燥した環境におくことは、漆器にとって、一番つらく、悲しいことなのです。
毎日使うこと、 毎日洗うことが
結局は漆に必要な水分を補給してあげることになり、
何よりのメンテナンスになるんですね。
その他、器の素地に使われている素材や塗料の仕上げ方によっても、
注意点が異なる場合があります。
器と一緒に入っている取扱い説明書に従えば、安心ですね。
漆の汁碗を春の食卓に使ってみました。
今日の献立は・・・
・炊き込みご飯
・手鞠麩とえのきの清まし汁
・竹の子の煮物
・人参のサラダ、生姜風味
・春菊のごま和え
・ひじきの煮物
和食の基本とえば一汁三菜の献立ですが、
やっぱり汁物はお気に入りの汁碗で頂きたいものです。
そしてお茶漬けのように、
汁碗が主役になるテーブルシーンにも。
写真は塩昆布のだし茶漬け。
薬味を乗せたKastehelmiのプレートを添えていますが、
モダンな漆器は洋食器との相性も意外と良いのです。
簡単だし茶漬けのレシピ
材料
・白いごはん
・だし汁
・塩昆布
・白ごま
お茶漬けの頂き方
・器にごはん、塩昆布盛り、ごまを振りかけて食卓に。
・だし汁を注いで、熱いうちに頂く。
・お好みで梅干し、漬け物や薬味を乗せても美味しい。
何だか扱いが難しそうと敷居が高く感じがちですが、
素材や仕上げの違い、使い方を知れば難しいことはありません。
今回ご紹介した汁碗の他にも、お箸や豆皿、コーヒーカップやインテリアなど
漆を施したアイテムはたくさんあります。
引き出物など、頂きものの漆器が眠っているという方は、
ひとまず使ってみるというのも良いですね。
汁椀という1つのアイテムを通して漆を身近に感じ、
長く愛用出来る漆器と暮らせたら、とても素敵です。
◇主役の漆器
◇春の献立編
・印判花茶碗 セット ハナカザリ
・鳥獣戯画だ円小皿
・拭漆楕円箸
・TY スクエア プレート ホワイト
・箸置 花ばな
・ウッドトレイ
◇だし茶漬け編
・Kastehelmi プレート10cm
・G型しょうゆさし 白
・印判箸置
・ティポット・丸筒・S(鉄)