日々の暮らしの中にお花があるとふっと心が軽くなったり、どことなく無機質な部屋に一輪の花があるだけで雰囲気が変わるのは、やはり花の持つ不思議な力のおかげ。忙しい中でも少しの時間をとって花を活けるのは、自分自身を癒すのと同じことですよね。
花を飾る、ということと対になるのが花瓶選びです。そんなに沢山の花瓶を持ってはおけないから、これがあれば大丈夫、という花瓶選びを、お花のスペシャリストにお聞きしました。
今回、花瓶とお花選びについて、お話を伺ったのは華道家の玉野太一さん。
専門学校の講師や生け花教室を開催し、「型」にはまらず花を通して心が豊かになる時間と空間を追求されています。
ZUTTOでご紹介している花瓶を揃え、お花は玉野さんにご用意頂きました。この花瓶にはこのお花かな、と考えながら花を活ける玉野さんのお話の中で一番印象的だったのは、「持っている花瓶は仕舞い込んではダメ。花を活けていない時の花瓶の形や色も楽しまないと。」という一言。
花を楽しむために存在する花瓶は、花がない時には役目はないと、戸棚に仕舞い込んでいた私にしてみれば目から鱗な考え方でした。
「お花を飾ろうかなと思ってお花屋さんに行って、気に入った花を見た時にはパッと飾る花瓶が思い浮かぶのがベスト。花を活けていない時も花瓶を常日頃から視界に入れておくと、花選びに迷わなくなりますよ。」
なるほど、意識の中に入れておくことが花選びの時にも役に立つのですね。そしてそれはつまり、花瓶をオブジェとして飾っておくということ。下駄箱の上や、テレビボード周辺、デスク周辺に、例えばポストカードや雑貨類と一緒に置いておくだけでいいのです。目についていれば、ふとお花を飾ろうかなというきっかけにもなりそうですね。
使わない時も飾っておく、ということの例として、素敵な提案をしてくださった玉野さん。
こちらはクロス型をしたデザイン性の高い花瓶なのですが、なんと横に寝かせてディスプレイ。これほどまでの自由な発想で花瓶を楽しめるものなのだ、とまたまた目から鱗です。
お花と花瓶のお話でしたが、花を活けない時のことをまずは教えてもらったところで、ここからは、おすすめの花瓶とその活け方について。
これから生活にお花を取り入れたい、飾ってみたい、という方や贈り物にまずおすすめの花瓶のサイズはどのくらいのものでしょう?
「お花って安いものではないですし、自分で買うにしても大きなブーケを飾る機会って実はあまりないので、1つ目として揃えておきたいのは中くらいのサイズ。高さでいうと12〜15cmくらいのものですね。この辺りかと思います。」
「この花瓶は4,5本のお花を飾るのも一輪を飾るのもちょうどいいサイズや形なので、使いやすく初心者や贈り物にも向いていると思います。球根を育てることも出来るので、切り花以外も使えていいですね。」
そう言ってお花を選んだ玉野さんが、花瓶から溢れそうなくらいお水を注ぐのでびっくりしてしまった私。なぜそんなに水を入れるんですか?
「透明なガラスの花瓶は、花だけでなく、水も楽しむためのもの。思い切って口たっぷりにお水を注げば透明感や瑞々しさが出て、季節によって涼しげな演出にもなりますよ。あとは、水をたくさん入れることで浸透圧によって水を吸い上げやすくなるんです。」
高さは12.5cm、口がすぼまった形で活けたお花がだらんと広がることもなく、これもまた使いやすいデザインです。でも、ボーダーの柄が入っているのがこの花瓶のポイントでもあり、初心者からすれば難しく感じてしまいそうな点でもあります。
こうした、柄が入っている花瓶を使いこなすためには何に気をつければいいのでしょう?
「選ぶお花の色味を、花瓶の柄とリンクさせることですね。例えばこのOMAGGIOはシルバーのラインが入っているので、シルバー系のお花に合わせれば問題ないです。シルバー系のお花は、白や青みが入っているものという意味。ドライフラワーも合うと思いますよ。」
そう言って、エアプランツと紫のお花を組み合わせたアレンジをしてくださいました。
なるほど、エアプランツの白っぽい表面がシルバー系の色味として、花瓶にマッチしています。そこにポイントとして紫が入るとまた素敵です。
まず最初に欲しいサイズの花瓶が分かったところで、次に必要なのは何でしょう?
「お花って、時間が経つにつれて小さくなっていきますよね。一輪のものだと切っていくので短くなりますし、ブーケだと元気がなくなったものは省いていくので少なく、小さくなります。そうすると、最初は中〜大型の花瓶でも、最終的には低めの花瓶や小さい花瓶が必要になるんです。どんなお花を飾るにしても、小さめの花瓶は持っていた方が良いですよ。お花好きの方は普段使いのサイズは持っていると思うので、そういう方へのプレゼントには小さめサイズもいいですね。」
デザイン、サイズ、カラーの異なるミニ花瓶3つがセットになったこちら。花を楽しんでいくうちに小さくなったり少なくなったものをこの花瓶に移して最後の最後まで飾っておけますよ。
「3つセットだからといって、全部一緒に使う必要はないですよ。一緒に置かなくてもいいし、1つや2つだけにお花を活けてもいいのです。ここもまた、自由な発想で。
また、こうしたシリーズものはまとまりを持たせるためにもトレイなどを使って飾るのも。リズムが生まれて、存在感も増します。」
小さな花瓶なので、キッチンやトイレ、本棚の一角にポン、と置くのにもぴったりなミニ3点セットです。
そしてこの3点セットも、まさに花を飾っていない時にオブジェとして楽しむのにも最適です。
「浅くて口の広い形はどんな風に活けることが出来るか難しそうですが、実はあると便利な形の一つです。こちらも寿命が近いお花を短く切って、お水にポンポンと浮かべておくだけという手軽さなのに生み出す空間は、なんとも美しく優雅なのがこのフラワーボールの特徴。」
お花以外にも、お菓子やフルーツを盛り付ける器にしたり、インテリアのディスプレイにしたりとお花を活けない時にも収納の必要なく、お部屋のインテリアとして飾ることが出来るのです。
圧迫感のない背丈なので、ダイニングテーブルの中央に置いたり、リビングのローテーブルに配置してもいいですね。
お花屋さんによくある、小さいブーケ。色合いやテイストが合う花材を組み合わせているので、一見飾りやすそうと思っていました。やはりお花初心者はそういったブーケから始めてみるべきですか?と、玉野さんに聞いてみました。
「お花屋さんのブーケタイプは、そのまま活けても大丈夫なように花材が考えられていますが見切り品を組み合わせていることも多いのでともすれば野暮ったい印象になりがちです。それよりも、まずはもっとハードルを下げて一輪からはじめてみてはいかがでしょう。
気に入ったお花を一輪。たった一輪でも、好きだと感じられるお花だったらそれだけでも存在感はありますし、何より選び取った花で自分のポリシーを確認するようで面白いものです。その一本と向き合う数日を設けるのはとても豊かな時間のように感じませんか?」
確かに、小ぶりなブーケは手軽で良いと思っていましたが、「とりあえず感」が出ているような気もしていました。一輪だけでも、自分で選んで素敵な花瓶に活けることで、ちゃんとお花を愛でる充足感はあるものなのですね。
一輪で活けるためのお花を選ぶポイントは、「枝分かれが少なく、シュッと立ち姿が綺麗な1本を選ぶ」こと。なんとなく何本も選ぶのではなく、「自分の好みと気分に合うものを探す」ことだそう。一輪挿しは細くて背の高いものが多いので、その佇まいを邪魔しない花を選ぶことも大事なのですね。
「もちろん、それでもブーケを買ったりもらったりした場合は、そのまま飾るのではなく出来れば輪ゴムを解いてバラしてみてください。一本一本確認し、組み合わせを変えたり一輪で飾るものがあっても良いと思います。」
とのこと。誰かが作ったものでない、自分にとっての飾り方を考えていくのが楽しみにつながっていくのでしょうね。
他にも、お花にまつわる気になることを質問してみました。
・花を飾る場所で気をつけた方がいいことはある?
日差しやエアコンの風が直接当たるところは避けたほうがベターです。
・花を飾って長持ちさせるコツは?
水を綺麗に保つ事が大事なので、1-2日に1回の水交換と、茎の断面のバクテリアの繁殖で水の吸い上げが悪くならないよう、常に新鮮でいられるようにカットしていくことです。
・花瓶に水はどのくらいまで入れるのがいい?
水は花器の7-8分目まで入れてください。
水がたっぷり入っていると水圧で茎が水を吸い上げやすいのです。また、たっぷり入っている事で、お花を活けて高さが出ても、花瓶に安定感がうまれます。
・贈り物に選ぶ花瓶は、どんなものがいい?
1〜2本飾って楽しめるサイズで、大きすぎないものが良いです。
素材は、陶器、ガラスが使いやすいです。ガラスと陶器の場合は、透明なガラスは水を楽しめますが、その場合茎の入れ方にも気を配る必要があるので、初心者には陶器がいいかもしれません。
ないと暮らせない訳ではないけれど、あると豊かさが違う、お花。それはきっと、お花そのものに癒されていることに加え、花を選び、お世話をする時間に価値を見出せるから。
そんなお花に寄り添うように存在する花瓶は、お部屋を花ある空間に変えてくれる大事な器。花がある時もない時も、オブジェのように愛せるものを選び取りましょう。