今回取り上げるのは、服をケアするための「洋服ブラシ」です。お洒落な服を、長く大切に着続けるためには欠かせないのが、洋服ブラシ。その上手な使い方と、ケア方法をご紹介します。
着物文化の日本ではブラシのかけ方に慣れていない私達ですが、むやみにクリーニングに頼らず、自宅で衣類を長く愛用するためのブラッシング方法を見てみましょう。
洋服ブラシの役割を大きく整理すると、こうなります。
①汚れ(ホコリ・チリ)を払い落とす
②繊維の目を正しい流れに整える
③繊維に空気を通す
①汚れを払い落とす
ニットセーターをはじめ、「織り」の技術で製造された生地は、表面にホコリやチリが付着したまま放置すると、ニット自体が汚れを絡め取り、吸着してしまいます。定期的にドライクリーニングに出すから大丈夫では?と思いがちですが、そもそも石油系の有機溶剤を使うドライクリーニングは皮脂汚れのような脂溶性の汚れを落とすことが出来る反面、水溶性の汚れを落とすことが出来ません。
ドライクリーニングでは落とし切れない汚れもあるということを考えると、日常的な習慣で汚れが付着するのを防いだ方が良いというのが分かります。
②繊維の目を整える
一度も腕を通していない、新品のセーターを思い浮かべてください。毛羽立ちはもちろん、毛玉もありません。光を受けると、綺麗な編み目が連なっていて、繊維が綺麗に一方方向に流れています。
このように、繊維には目(正しい流れの方向)があります。新品の状態から、何シーズンも着古して徐々にセーターがくたびれていく1つの原因が、摩擦によるものです。重ね着した他の衣類との擦れ、運動する際に生地と生地が擦れることによる擦れ、袖を乗せるテーブルとの擦れなど、一度セーターを着て動けば必ず摩擦を受けるものです。
セーターを擦ると、正しい流れで寝ていた繊維が起きて、繊維同士が絡まりはじめます。この状態のままさらに着続けると、雪だるま方式でさらに繊維が絡まっていきます。こうして出来るのが、「毛玉」なのです。
大切なのは、繊維同士が絡まりはじめた状態を制し、正しい流れに整えてあげること。それが「繊維目を整える」ことであり、つまりは「毛玉を防止すること」に繋がります。
③繊維に空気を通す
セーターやジャケットなど、ハンガーに掛けずに畳んだ状態で重ねておいたら、シワがつき、型崩れしてしまった。そんな経験はありませんか?
ハンガーに掛けるというのは、着ている時に近い自然な形(シルエット)をキープすると同時に、衣類の繊維に空気が通る状態を保つという意味があります。逆にハンガーにかけずに畳んだ状態で長時間置いておくと、衣類に空気が通らず、繊維がペタンコになります。繊維が空気を含み、ふっくらとした状態の方が服自体のシルエットも保ちやすいので、服の表面にブラッシングをして繊維に空気を通すことが型崩れを防止するのに役立つというわけですね。
・「エチケットブラシ」や「コロコロ」では駄目ですか?
洋服ブラシと似た用途で、エチケットブラシという名称の商品や粘着シートでホコリを取る、通称「コロコロ」があります。どちらも服の表面に着いたホコリやチリを取り去るのが主な用途ではありますが、「繊維の目を整える」「繊維に空気を通す」という服を長持ちさせるために重要な役割を果たすことが出来ないのです。
イメージとしては、髪の毛を梳かすための「櫛(コーム)」と「ブラシ」の違いに近いかもしれません。どちらも髪を梳かす道具ですが、「櫛」は髪のスタイリングする時に、「ブラシ」はヘアケアする時に使うものです。髪を傷めないように、肌をマッサージしながら毛の流れを整えて髪の艶を出す時には、「櫛」ではなく「ブラシ」を使いますよね。
このような点からも、汚れを落とすだけでなく服の繊維を整えてケアするためには、ぜひ「洋服ブラシ」を使いましょう。
・動物毛が良いのはなぜ?
そして、せっかく洋服ブラシを使うのなら、化学繊維ではなく天然繊維を選びましょう。
これは、静電気を防止するため。髪の毛を梳かす時、プラスチック製の櫛を使うとパチパチと静電気が起こりやすいですよね。これと同じことが、洋服ブラシでも起こります。
繰り返しになりますが、洋服ブラシの大切な役目は「服の繊維の流れを整えること」。
化学繊維の毛でも、もちろん汚れを落とすことは出来ますが、静電気が起こりやすいため、繊維の流れを乱してしまう可能性があるのです。逆に、天然毛(例えば豚毛のような動物毛)は、適度な油分と水分を含んでいるため、静電気が起きにくいというメリットがあります。
洋服ブラシの役割を理解した上で、正しいブラッシングの方法を見ていきます。
基本のブラッシング方法
1.ブラッシングする衣類をハンガーに掛ける
コートやジャケットなど、型崩れ防止が重要なものは簡易のワイヤーハンガーではなく、木製ハンガーのような、肩先に厚みがあり着用した時に近いシルエットを保てるものを選ぶのがおすすめ。ただ、ハンガーに掛けるとかえってブラッシングしにくい薄手のニットや細いマフラーなどはテーブルに置いてブラッシングしても良いでしょう。
2.繊維と逆方向にブラッシングして、汚れを浮かせる
衣類の上にホコリやチリが付いた状態で繊維の方向に沿ってブラッシングすると、かえって汚れが繊維の中に入り込み、取れにくくなる可能性があります。最初は、繊維の目と逆方向に軽くブラシをかけて、汚れを浮かせましょう。軽く優しく、ささっと払うようにします。
3.繊維の目に沿ってブラッシング
最後に、繊維の目に沿ってブラシをかけていきます。コツは、繊維をこするのではなく「払う」こと。手首のスナップを効かせて、繊維に空気を含ませるようにブラッシングしましょう。
基本のブラッシングはこの3ステップだけでOKです。
コツはとにかく「こすらず、払う」こと。
ブラッシングを終えたら、ファブリックリフレッシュ(消臭スプレー)など普段のケアをしてクローゼットにしまいましょう。
その他、ブラシの取り扱いについても幾つか心がけたいことがあります。
・洋服ブラシも定期的に梳かしましょう
ブラッシングを続けていくと、取り去ったホコリやチリや衣類の繊維がブラシ毛の間に入り込みます。こうした汚れが沢山付いたブラシを使い続けるのは、汚れを衣類にこすりつけるのと同じこと。手持ちの櫛(コーム)を使ってブラシ毛の根元から梳くようにホコリや繊維を取り去るのがおすすめです。
・ブラシの保管に注意
ブラシの毛を上に向けて長時間置いておくと、当然ながらその上にもホコリが付着していきます。ヘアブラシを上向きに放置すると、いつの間にか毛の根元にホコリが積もってしまいますよね。ブラシを使わない時は、クローゼットのフックに掛けるか、上向きに置く場合は布を被せてホコリが付着しないよう心がけましょう。
例えばクジャクの羽根やライオンのたてがみのように、多くの生き物には、お洒落のアピールポイントが備わっています。
私たち人間も、毎日鏡を覗き込んでは、肌の色艶や髪型のアレンジを気にしながらどうしたら美しくなれるのだろうとあれこれ頭を悩ませていますし、美しくありたいというのは古くから変わらない話題だったはずです。
美しくあること、お洒落であること。
私たち人間にとって、最も自由に自分の個性を演出出来るのは、「服」なのではないでしょうか。そんな服を、長く大切に着続けるためのアイテム。それが洋服ブラシなのです。
季節の変わり目など、クローゼットの中身をチェックしながら新しい洋服をプラスする時に、ケアの方法を見直してみるのも良いですね。
▼今回登場したアイテム:
カシミア & ウールケア 洋服ブラシ/G.B.KENT(ジービーケント)
1777年創業のブラシメーカー、G.B.KENT(ジービーケント)。 1955年にエリザベス2世より英国王室御用達証を受けてから現在250種類以上のブラシを製造する老舗ブラシメーカーは、『ブラシの王様』と言われています。 ナイロンなどの化学繊維は一切混合せず、英国森林委員会、オランダ森林協会から認定を受けた森林からの素材調達、伐採後は植林して自然保護に務める活動をしているのもG.B.KENT(ジービーケント)ならでは。
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