今回取り上げるのは、ヴィンテージビーズを用いたジュエリー。
革や金属と比較すると、ビーズやパーツの「経年変化」「エイジング」は想像しにくいものですが、
20世紀初頭から受け継がれたヴィンテージビーズは、時とともに味わいを増し
尚且つそれ自体の希少性が高い、ひいては大切に使いたくなるという点で愛着を増すアイテムです。
そんなヴィンテージビーズの魅力と、ヴィンテージ品ならではのお手入れ方法をご紹介します。
ヴィンテージビーズについて深める前に、
まずは「ビーズ」について、その歴史を見てみましょう。
穴の空いたボール状のパーツをビーズと呼びますが、
様々な形、素材、色のものがあり、実に多くの種類がありますよね。
天然素材のビーズの起源はいまだ明確にはなっていませんが、
約7万5000年前の貝殻ビーズが南アフリカで見つかり、これが最古の物と考えられています。
この貝殻ビーズが発見されるまでは、アフリカでの最古のビーズはおよそ4万5000年前だと考えられていました。
ビーズワーク(ビーズを編んだもの)としては
ロシアでおよそ2万5000年前のマンモスの象牙ビーズが発掘されています。
古代エジプトではグラスビーズやファイアンスビーズ(Faience) が作られるようになって、
本格的な装飾品としてのビーズワークが盛んに作られるようになったのだとか。
「ファイアンス」とは焼き物の一種で、繊細な淡黄色の土の上に錫釉をかけた陶磁器のこと。
青色に彩色されたファイアンスビーズで作ったドレスとネックレスが見つかっています。
人類の歴史と装身具の歴史は密接に紐付いているため、
今後も発掘・研究が進み、新たなビーズの歴史や起源が明らかになるかもしれませんね。
アフリカ、エジプトにその起源を持つビーズですが、
ヨーロッパでも数々の美しいビーズが生産されています。
特に美しいのは、優美な存在感のガラスビーズ。
ガラスビーズは古代エジプトから存在していましたが
シードビーズを用いたビーズワークの起源はあまり古くありません。
紀元前200-300年の頃に直径5mm以下のガラスビーズがインドで盛んに作られました。
その後、ガラス工業の主流はヨーロッパに移ります。
工芸品としても有名なものに、ヴェネチアングラスがありますね。
15世紀のヴェネチアではイタリア政府がガラス製造技術の流出を恐れ、
ガラス職人をムラノ島へと強制移住させました。
ところが、これは皮肉なことにかえってガラス製造技術の発展を促すことになります。
16世紀になると、ボヘミア地方(チェコ)でもビーズ専用の溶鉱炉が設置されガラス製造が盛んになります。
ガラス文化を創った職人がガラス職人の一部がボヘミア王国(現在のチェコ) に渡り作ったのがボヘミアンガラス。
ビーズのカット技術や加工技術はチェコが本家本元といえるかもしれません。
ところで、日本もヨーロッパと並ぶビーズの産地だということをご存知でしょうか。
日本が得意とするのは、シードビーズと言われる極小サイズのビーズ。
その名の通り、小さな種のような繊細な造形が持ち味のガラスビーズで、
主な生産国は日本、チェコ、フランス、インドとなります。
今でこそこういったビーズ大国と並ぶ日本の技術ですが、日本のビーズ企業の創業は終戦後のこと。
シードビーズ製造はガラスを溶かし、中に空気を吹き込んで管状にしてから
細かく切断するという繊細な工程を必要とするのですが、
日本のビーズは一粒一粒の形が整っており、その輝きや華やかさから、
名だたる世界的デザイナーやブランドが使用しているほど、高く評価されています。
ヴィンテージビーズとは、現在では手に入らない金型や顔料を使用した、
レアでコレクティブなビーズのこと。
今回は I.Ronni Kappos(ロニー・カポス)のジュエリーを例に、
ヴィンテージビーズに特徴的な素材をご紹介します。
【ジャーマンガラス】
1920〜40年代にかけて製造されていたビーズは、今では手に入らない材料、顔料や金型を使用しています。
職人の手仕事によりガラスに微量の金属を添加して色を引き出していたそうです。
旧東ドイツなどのボヘミア地方で手作業で製造していた会社は、
第二次世界大戦後ほどなくしてして閉業してしまいました。
コンピューターも無い時代、全てが手業の技量。
職人の勘と長年の経験値により作られた1点1点が表情豊かな、深みのある懐かしい色合いの希少価値の高いビーズです。
ガラスから色を引き出すために微量の金属を添加して製造するため
職人による微妙なさじ加減が発色や仕上がりを左右します。
スワロフスキービーズのような工業製品でなく、
職人さんの思いが伝わってくる「ぬくもり」あるビーズといえます。
【ルーサイト(アクリル樹脂) 】
ルーサイトは1941年にデュポン社(Dupont)が特許を取得した
透明で強度のある着色可能な熱硬化性のアクリルの樹脂の総称です。
当時は新素材として大変注目されていたプラスチックであり、
1940から1950年代の欧米ではホームワークとして初期プラスチックに
彫刻するというクラフトが人気を博しました。
写真のように、レトロなカラーリングと
どこか温もりのある質感で、他には真似出来ない魅力を放ちます。
【ゴールドコーティングビーズ 】
今では殆ど見られない24kのゴールドコーティングが施されたビーズは、
溶かした24金の中に浸し入れ、ビンテージジャーマンビーズを丸ごとコーティングしたもの。
使用状態により24kコーティングが削れて下地の色が見えてくる場合もありますが、
アンティークのような雰囲気になることも魅力の1つです。
【取り扱いの注意事項】
◇ビーズパーツはデッドストックのため、色味や形状など、一点一点の表情が若干異なる場合がございます。
◇現在ではあまり見られない24kゴールドコーティングビーズは、
使う環境によっては部分的に削れて下地の色が見えたり、退色が見られる場合がございます。
◇14kゴールドフィルドも退色の経年変化を遂げてゆく素材ですが、アンティークのような風合いへの変化もまた魅力の一つです。
◇硬いところに打ち付けないよう、お取り扱いにはご注意ください。
◇研磨剤の入った磨きクロスは、表面のコーティングがはがれる要因となりますのでご使用は避けてください。
【経年変化ビフォーアフター】
特に魅力的なのが、ゴールドコーティングされたビーズです。
金メッキを百回かけたのと同じくらいの厚みがあるため、とても滑らかで、深い輝きがあります。
使い込んでいくうちに退色する場合がありますが、
アンティークのような風合いになり、とても素敵です。
もとのきれいな色合いを保つには、着用後柔らかい布で汗などの汚れを拭き取り、
ジップ付きのビニール袋に密封した状態で保管します。
時々ぬるま湯で薄めた中性洗剤で優しく洗い、柔らかい布で包むようにして水分を取り、
充分に乾燥させてから保管してください。(左:経年変化後、右:新品)
1920-40年代のボヘミア地方の職人技巧によって造られた
ビンテージジャーマンビーズを使用したジュエリーを展開するブランド。
建築や絵画・モダンアートからインスピレーションを受けて作られるジュエリーは、まるで「アート」のようです。
1970年代まで製造されていたルーサイト(アクリル強化樹脂)は 細心な手仕事により、
どこか懐かしさとぬくもりを備えています。
1920〜30年代にヨーロッパのビッグメゾンで使用されていた貴重なパーツに巡り合い、
限られたビーズで創り上げられるジュエリーは数量限定 。
彼女の無駄のない幾何学的な感覚と入念で緻密なビーズの配列、個性的な色彩が絶妙です。