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木々が造る、日本の曲げ物

 

曲げ物とは、わっぱのお弁当箱やヒノキの蒸籠のように、薄く板状にした木材を円筒形に曲げて作った容器を指します。丸みを帯びたその姿は、自然の木から出来たとは思えないほど美しい形をしています。他の素材では真似できない、自然の木々だからこそ成せる特性が昔ながらの曲げ物にはありました。

 

曲げ物のルーツ

 

 

曲げ物は、もともと中国で始まったという説もあるようですが、詳細はよく分かっていないのだそう。
日本では今も作り続けられている秋田県の樺細工のように、剥いだ木の皮を丸く型取り、縫い止めたものが曲げ物の始まりと言われています。その後、ヒノキや杉の木を薄く割って板状にし、円筒形に曲げたいわゆる現在知られている曲げ物が作られるようになっていったと言います。堅い木材を曲げ、容器とする曲げ物の技術は既に古墳時代に確立していたと言うのですから、驚きですね。

 

曲げ物の原料には、木の繊維を壊さずに非常に薄く割ることの出来るヒノキや杉が最適とされています。曲げ物づくりはまず切り倒した丸太の皮を剥ぐことから。熱と水分を加えることで木材は柔らかさを増すので、カンナをかけた木の皮を煮沸し、たわみを付けていきます。この型通りにたわみを付ける工程が、もっとも熟練の技を必要とする部分なのだそう。たわみを付けた曲げ物は乾燥し、両側を接着させると、容器の形になります。仕上げに底面を付け、桜や樺の皮で綴じると完成です。

 

 

曲げ物のほかにも、箍物(たがもの)と呼ばれる道具があるのをご存知でしょうか。

箍物とは、細長い木片を縦に円形に並べ、最後に輪形にした箍(たが)を嵌めて締めた容器を指します。輪形の銅で締めた、木製の手桶やお米を保管するおひつが箍物ですね。

 

箍物は曲げ物が流通し始めた少し後の鎌倉時代から作られるようになったと言います。曲げ物は側板の厚みに限度があり、大型で堅牢な容器は作りにくかったものの、箍物は厚み、幅、長さに限度がなく大きく丈夫なものも作ることができたため、お酒等の液体類の運搬に役立ったのだとか。用途によって、曲げ物、箍物それぞれが日本で広く使われるようになっていったのでした。

 

木々を理解する


木材がそのまま使われている曲げ物。天然素材であるがゆえに扱いづらい面もあるにも関わらず、現代までその形を残しているのは、木材しか持ち得ない特性があるのが大きな理由です。
 

曲げ物にはヒノキや杉といった針葉樹が最適と先述しました。これらの木材では、木の皮を剥がすという工程が容易なほか、香り高さや耐湿性、耐久性といった点が曲げ物に適していることも大きなポイントになっています。

 

■ヒノキの蒸籠

 



江戸時代末期から、トウヒ(ヒノキの一種)で作った曲げ物のふるい業が発展していた新潟県三島郡寺泊(てらどまり)町。この地で10代以上曲げ物作りを続けている足立茂久商店では、ヒノキを薄く加工した、蒸籠があります。



触れてみると分かる、その薄い仕上げ。薄く作られている分、非常に軽く、持ち運びも便利です。箱を開けたときから、ヒノキがふんわりと爽やかな香りを放ち、白木の色が美しく映えます。

 

蒸籠はフタ、スノコ、胴、土台とシンプルな構造。食材を中に入れて温めると、水蒸気が食材に熱を通し、栄養分を保持した状態でふっくらとした仕上がりに。胴のヒノキが内部で水分調整をしてくれているのが分かります。さらに足立茂久商店の蒸籠は電子レンジでも使えるのが最大の魅力。葉物野菜や根菜はもちろん、冷やご飯やシュウマイなど、お料理の幅が広がります。
 

■秋田杉のわっぱ

 


日本の伝統工芸に指定されている大館工芸社の曲げわっぱ。「わっぱ」とは、東北地方で輪っかを意味しています。その名が示す通り、秋田杉を使用し、桜の皮で縫い止められた形はまさに昔ながらの曲げ物を象徴しています。

 

秋田杉はヒノキ同様、割裂性(割れやすさ・剥がれやすさ)が高く、曲げ物作りに適した木材です。真っ直ぐに伸びた柾目(まさめ)の木目が美しく、また、非常に軽いのも特徴。水分をよく吸収するので、お弁当箱やそば皿でも、食材の水分調整をしてくれます。
※大館工芸社の製品にはウレタン塗装が施してあるため、水跡や食材の汚れは付きにくくなっています。

 

■木曽サワラの箍物

 

 

 

木曽で育まれたサワラは「木曽さわら」と呼ばれ、他にはない高い耐酸性と耐水性を誇っています。こうした木曽の木々を活かしたものづくりを行っているのが、山一(やまいち)。山一では、樹齢100年以上の木材の中心(心材)を使い、良質な曲げ物や箍物を作っています。

 

箍物の一つであるおひつは、サワラを均一な板状にし、輪形にした銅製のタガを嵌めて作られたもの。サワラは匂いがあまりない分、食品に匂いを移すことがないので、おひつにはぴったりな木材です。サワラの優れた放湿性から、中に入れたご飯はふっくらとした状態を保つことが出来ます。

 

また、サワラ材は非常に高い耐水性を誇っています。その秘密は油分を多く含んでいること。相反する水と油の関係がおひつや桶づくりに役立っているのですね。サワラ材の手桶は、爽やかに香るヒノキの風呂椅子とセットにして使うと自宅で森林浴を楽しんでいるような気分を味わえます。

 


 

今もなお、現役で活躍してくれる曲げ物。素材の性質を活かして長く使いたいものです。


■使用後のお手入れ

素材にある程度の耐水性があるとはいえ、長時間水に触れていたり、食材を中に入れた状態で放置するとカビや黒ずみの原因となってしまいます。使用後は必ずすぐに水洗いし、よく乾燥させてください。

※山一のおひつ等には、合成洗剤を使用しますと匂いが残る場合があります。気になる場合は、洗剤の代わりに塩を入れて洗ってください。

※表面が傷つきますので、金属製のスポンジやたわしは使用しないでください。

 

■乾燥のしかた

直射日光の当たらない、風通しの良い場所で十分に乾燥させてください。日光や熱源に直接当たりますと製品の反りや割れの原因となりますので、ご注意ください。

 

■木ヤニについて

油分の多いサワラ材で作られた製品は使用環境によって木ヤニが発生する場合があります。

 

 

上記は山一のおひつです。表面にうっすらと黄色く見える部分が分かりますでしょうか。
サワラ材は油分が多いため、こうした木ヤニが発生する場合があります。

 

木ヤニとは、木材の天然樹脂のことで触るとベトベトとした感触があります。人体には無害ですが、気になる場合は、消毒用のアルコールで拭き取ってください。また、木ヤニが発生しやすいサワラ材の製品は、紙や布で包んで保管頂くことをおすすめします。

 

 

 

 

 

投稿者: 植田 日時: 2016年07月02日 11:00 | permalink

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