心の底から愛用したいと思ったモノを実際に使い続けてみると、その製品だからこそ出くわす思いがけないアクシデントが多々あり、どうやってお手入れすれば良いのだろう?と頭を悩ませる場面に遭遇します。ところがそんな疑問への答えほど、教科書には載っていないもの。
セレクトショップとして様々なアイテムをご紹介してきた私たちZUTTOスタッフもまた、そんな悩みを抱える「愛用者」。今回のよみものでは、私たちZUTTOスタッフが愛用者としての視点で、こんな時どうすれば?という、まさに最終手段ともいうべきお手入れ実践レポートをご紹介します。
最初に取り上げるのは、「2年目のカシミヤストール」。2シーズン愛用してきたカシミヤストール、そのお手入れ最終手段とは。
【愛用品紹介】
・アイテム:BEGG(ベグ)のスコティッシュカシミヤストール
・サイズ:36×183(cm)
・素材:カシミヤ100%
・使用期間:一昨年の冬から2シーズン
・使用頻度:冬はほぼ毎日。1週間に4-5日以上使用
・洗濯表示:DRY CLEANING ONLY
【日々のお手入れ】
ブラッシングとファブリックスプレーのみ。1年目は使用頻度が低く、目立つ汚れがなかったためドライクリーニングには出していません。
【気になるポイント、悩み】
・淡いアイボリーの色が気に入って購入したのですが、全体的な汚れが気になり始めました。目立ったシミはないものの、2シーズン使用しているので首回りの汗、皮脂汚れが気になります。
・スコティッシュカシミヤは毛が細くて、とても繊細。石油系のドライクリーニングはカシミヤ特有の油分を取り去ってしまうという情報もあり、ドライクリーニングに出すと、かえって風合いが変わってしまうのではないか心配。ここまで自分の手でお手入れしてきたので、なんとか自分の手で綺麗に出来ないか?と考えています。
今回のカシミヤストール、カシミヤケア用のブラシを使って定期的にブラッシングしているのですが、繊維がとにもかくにも繊細で、最近はブラシをかけると表面の柔らかな毛を削り取ってしまっているような感触。実際に使用後の洋服ブラシを見ると、カシミヤと思われるフワフワの繊維がブリッスルの間に溜まっていたのです。「繊維の宝石」とも言われるくらい、上質かつ繊細なことで名高いカシミヤ。その繊維をブラッシングによって削り取ってしまっているとしたら、それはとても悲しいこと。
とはいえ、ブラッシングはやはり必須。繊維の流れを整えずに使用を続けると、毛羽立ち、ひいては毛玉の原因になってしまいます。
そこで見直したのが、洋服ブラシの毛質。これまで使っていた豚毛は、2シーズン以上使っているカシミヤには少し硬い印象なので、より毛の柔らかい洋服ブラシに変えてはどうだろう、と考えます。そこで試しに使ったのは、ベビーヘアブラシ。こちら、ZUTTOでご紹介している赤ちゃん用のヘアブラシで、柔らかな山羊毛をたっぷり使った優しい梳かし心地が人気です。毛もまっすぐカットされていて、断面に凹凸がないタイプ。カシミヤだって、もとは動物の毛。私たちの髪の毛と同じ役割を果たしているのだから、ひょっとして洋服ブラシとしても使えるのでは?と思い立った訳です。
結果は良好。フワフワになったカシミヤストールの表面を、そっと優しく整えるにはぴったり。梳かす時、山羊毛が柔らかくしなるのでストールへの負担も最小限に抑えられます。(ただし、洋服ブラシと比較するととてもコンパクトなので、一度に梳かせる面は狭くなります。いずれ馬毛、山羊毛の洋服ブラシを購入するのが良さそうです。)
こうしてブラッシングの問題は解決されたものの、日々蓄積された汚れを落とすにはやはりクリーニングが必要です。BEGG(ベグ)のカシミヤストールには「DRY CLEANING ONLY(ドライクリーニングのみ)」という洗濯表示がついています。日本の輸入代理店さんに伺ったお手入れ方法としては、
◇毛羽立ちが気になってきた場合は、優しくブラッシングして毛並みを整えた後、低温で軽くアイロンをかけてください。
◇シーズンが終わりましたら、ドライクリーニングしてください。
という2点が案内されており、ZUTTOの商品ページでもそのようにご紹介しています。ところが、「水洗い不可」という案内は特にないのです。「DRY CLEANING ONLY」=「水洗い不可」とも限りません。さて、どうしましょう。
餅は餅屋ということで、まずは詳しい方にお電話してみることに。お電話先は、THE LAUNDRESS(ランドレス)輸入代理店さんです。THE LAUNDRESS(ランドレス)は、「大切なお洋服は、自分の手でケアする」をコンセプトに様々なクリーニングアイテムを展開するブランドで、担当スタッフのみなさんも私物の衣類をどんどんお家でお洗濯されているのだそう。
お電話で状況をお伝えしたところ、いつの間にかお洗濯のカウンセリングに。
「ご質問ありがとうございます。ではお電話で分かる範囲でご愛用品について教えてください。
チェックポイントは
・素材の組成(カシミヤ100%なのか、他の繊維も混ざっているのか)
・装飾パーツがついているか(ビジュー、刺繍、レースなど)
・色と柄がどんなものか(色移り、色抜けの可能性があるかどうか) です。」
「それならご自宅でのお洗濯できる可能性が高いです。
注意点としては、①形が複雑な装飾パーツがついていたり、フリンジが特殊な形のものは仕上げが難しい。
②濃い色や鮮やかな色のものは色が抜けてしまう可能性がある、という2点。
カシミヤは繊細な素材なのでドライクリーニングのみという洗濯表示がついていることが多いのですが、
一般的な織物(縦糸と横糸を織り上げた生地)のストールなら、洗えることが多いですよ。」
「いくつかポイントはあるのですが、最重要なポイントは
・カシミヤ、ウールといった獣繊維に適した洗剤を選ぶ
・冷たい水を使う
・濡れている間に極力こすらない
の3つです。最初からカシミヤのストールで初めて試すのが心配なようであれば、他のマフラーやセーターで手順を試して頂くと、お洗濯がスムーズかと思います。お話を伺うと、そのストール、とても大切にされているようですね。店舗がございますので、もし宜しければそちらで具体的なお洗濯方法、ご案内しましょうか?」
こうして急遽、実際にカシミヤストールの状態を見ながら最適なケア方法を一緒に考えて頂くことに。
(この後、ZUTTOスタッフが本インタビューをもとに自宅でカシミヤケアを水洗いしました。
その模様と併せて、カシミヤケアのポイントをご紹介します。)
ご対応頂いたのは、ショップマスターの下岡さん。
手持ちのお洋服は基本全部自分で洗ってしまうという、ホームケアのプロです。
なるほど、シンプルなカシミヤ100%のストールですね。私なら、ためらわずに自分で洗ってしまいますよ!カシミヤ、ウールはもちろん、最近はラビットファーを自分で水洗いしました。お洗濯表示に「DRY CLEANING ONLY」という表示があるとこれって洗えるのかな、と心配になりますよね。
でも、一度洗ってコツを掴んでしまえば「これも洗える、あれも洗える」という風にセルフケアの幅が広がります。
ドライクリーニング表示は、必ずしもドライクリーニング以外全て不可という意味ではなく、「溶剤を使用したドライクリーニングが出来る」という表示です。その上で、水洗い不可かどうかの判断が必要です。「水洗い不可」という洗濯表示がついているものは、洗わずにプロに任せましょう。それが具体的に何か?というと、例えば「ビジューや刺繍のような細かな装飾がついたもの」「レザー」「お着物」といったものが挙げられます。
一つ一つ製品によって見極めが難しいので、気になる場合は商品の製造メーカーさんに聞く、信頼出来るクリーニング店に相談してみると良いと思います。今回お持ち頂いたようなカシミヤストールなら、ぜひご自宅でのセルフケアを試してみてはいかがでしょうか。
用意するのは、①カシミヤも洗える洗濯洗剤②洋服ブラシ③バスタオル④洗濯ネットの4つ。
「ドライクリーニングマークのお洒落着も洗える」といった謳い文句の家庭用洗剤はたくさんあるのですが、仕上がりが硬くキシキシ感じるものもあるので、柔軟剤の効果も含まれたものを選ぶのがおすすめ。髪の毛を洗う時、リンスインシャンプーを使うような感覚です。
毛羽立ちが気になる時は、繊維の流れを整えてからお洗濯しましょう。繊維が立ったまま水に浸すと、その状態で摩擦が加わるので傷みやすくなってしまいます。お手持ちの洋服ブラシで軽くブラッシングしてから、お洗濯するようにしてくださいね。
ここからいよいよ、水洗いの行程に入っていくのですが、動物の毛は人間の髪の毛と同じと考えます。私たちの髪も、濡れている時が一番傷みやすいと言いますよね。つまり洗剤を溶かしたに浸してから、脱水するまで出来るだけ摩擦しないことが大切。「水洗い」というと、押し洗いや揉み洗いをご想像される方が意外と多いのですが、繊維を傷めないために、触らずにそっと浸けておくのが正解なんです。洗剤を溶かした水に浸すだけで、汚れは浮き出てくるので、極力触らないようにします。
ここでのポイントが、洗濯ネットです。洗濯ネットは他の衣類との絡まりを防ぐために使うことが多いですよね。今回のような一枚洗いの場合も、繊維と繊維が擦れるのを防ぐのに意外と便利。水を含んだ衣類は重くなるので想像しているよりも扱いが難しいもの。そんな時も洗濯ネットに入れておけば、一つ一つの動作がぐっと簡単になりますよ。私たちが目安としてご案内している浸水時間は「30分」。濡れた状態で触らなければ、時間が多少長くなっても風合いが急に変化するということはありません。今回のように繊細なもので風合いの変化が気になるという場合には少し短く調整してみるのも良いと思います。
実際にZUTTOスタッフが自宅バスルームで水洗いした様子
①石鹸水の準備:カシミヤ用の洗剤適量を水に入れ、よく混ぜる。浴槽を使う時は、シャワーの水を当てると簡単。モコモコ泡が立ちます。
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②浸水:洗濯ネットに入れた衣類を、①の石鹸水に浸します。そっと静かに沈めるように。そのまま30分ほど放置します。
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③すすぎ:石鹸水を抜き、3-4回水を変えてすすぎます。この時も衣類を擦らないように注意。弱流のシャワーを上からかけると簡単です。
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④洗濯ネットから取り出す:洗濯ネットから出し、軽く水を切ります。重ねている分たくさん水を含むので、優しく押したり、そっと持ち上げたりして水気を切りました。
実際の脱水の様子。ZUTTOスタッフ調べでは、お洗濯の中で一番難しいのがこの脱水でした。
この後は脱水です。洗濯機は使わずに、自分の手で脱水します。大きめのバスタオルに平たくストールを伸ばし、端からくるくると丸めていきます。巻き簾で海苔巻を巻いていくようなイメージですね。
脱水が終わったら、乾燥させましょう。お部屋の中で平干しスペースが確保できない時は、浴槽の蓋に大きく干すのも良いですよ。乾燥の時に繊維の立ち上がりなど「仕上がり」が決まるので、半乾きの状態で風を当てたり、裏返しにしたり、空気の含ませ方によって風合いが変わってきます。ふんわり仕上げたい時は、風を当てるのがおすすめです。
お店でレクチャー頂いた内容をもとに、自宅のバスルームでお洗濯、リビングで乾燥という一通りの行程を行いました。脱水が終わるまで、本当に大丈夫かな、失敗してしまうのでは?と、最後まで半信半疑だった今回のお洗濯。最終手段という位置付けではありましたが、乾燥途中に気づいたことがあります。それは、「カシミヤの"さざなみ"」が復活していたこと。BEGG(ベグ)のカシミヤは、あざみの実で表面をハンドブラッシングすることで生まれる、独特の波模様が特徴。このうねりのような質感があることで、他の繊維にはない、カシミヤらしい艶やかな質感が楽しめるのです。
新品の時と比べると、表面が少しずつ起毛しフワフワの肌触りになってきているのですが、水に浸して乾燥させるという行程を経たことで、繊維がのびのびと呼吸し、さらにふんわり優しく仕上がったようです。自宅で洗わず、ドライクリーニングに出していたらどうなっていただろう?水洗するにしても、専門クリーニング店にお任せした方がよかったのだろうか?その答えは分かりませんが、こうして自分の手でケアすることで、唯一無二の愛用品としての愛着が高まるのだな、という学びを得ることが出来るのかもしれません。これぞ「お手入れ最終手段」。まだまだ愛用品との絆を深める珍道中は続きそうです。
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