心の底から愛用したいと思ったモノを実際に使い続けてみると、その製品だからこそ出くわす思いがけないアクシデントが多々あり、どうやってお手入れすれば良いのだろう?と頭を悩ませる場面に遭遇します。ところがそんな疑問への答えほど、教科書には載っていないもの。
セレクトショップとして様々なアイテムをご紹介してきた私たちZUTTOスタッフもまた、そんな悩みを抱える「愛用者」。今回のよみものでは、私たちZUTTOスタッフが愛用者としての視点で、こんな時どうすれば?という、まさに最終手段ともいうべきお手入れ実践レポートをご紹介します。
今回取り上げるのは、スタッフが年中愛用している「くたくたの白カーフシューズ」。
スキニーデニムやシャツワンピースにバレエシューズを合わせたくなる今日この頃。1年愛用してきたカーフシューズの経年変化を見てみましょう。
ウエア:シャツワンピース/Les Olivades(レゾリヴァード)
〜1年休みなく履き続けた、白い相棒〜
まずは愛用者であるスタッフに聞いた、愛用品カルテをご紹介します。
【愛用品紹介】
・アイテム:CATWORTH(カットワース)のフラットシューズ JazzShoe White
・サイズ:6/25cm
・素材:カーフレザー
・使用期間:昨年の3月からちょうど1年
・使用頻度:季節を問わず一年中。週2-3回は必ず履いていました。軽くてかさばらないので、スーツケースに入れて旅行や出張に持参することも。
【日々のお手入れ】
お手入れは特にしていません。「カジュアルにどんどん履いてみよう」という位置付けで購入したアイテムだったため、これといったメンテナンスはせずに履き続けてきました。
【気になるポイント、悩み】
・つま先部分の汚れが目立つようになりました。ただ、真っ白でつるりとした新品の頃と比べると程よい味わいが出ているので、今がまさにベストの状態と捉えています。白い靴なので汚れは目立ちやすいのですが、出来るだけ今のこの状態をキープできないか、というのが目下の悩みです。
・履き皺と型崩れが気になります。もともと足が大きく履き始めは少しきつく感じたのですが、1年履くと革が馴染んで足にフィットするようになりました。革が馴染んだ(=伸びた)デメリットなのか、長時間履いた後に脱ぐと、靴そのものが変形してしまっているように思えます。
今回は「今の状態がとても気に入っているので、この風合いを上手に保ちながら出来るだけ長く愛用したい」という希望のため、まずは新品と比べてどんな風合いの変化があるのか比較してみることに。一度使い始めるとその愛用品を新品と比較する機会はなかなかないものですが、まるでタイムスリップするように時間の蓄積を振り返ると、「こんなにもエイジングが進んでいたんだ」と気づくことが多々あるのです。
こうして比べてみるとやはりつま先周辺の変化が目立ちます。トウ(つま先)周辺は、まさに靴の顔。また、甲が当たる部分は足の動きに応じて伸び縮みするため、横に皺が入っているのも見て取れます。柔らかなカーフレザーを使用しているので、一度水分を含むと皺が定着しやすいようです。
ただし愛用者であるスタッフの声にもありましたが、まっさらな新品のシューズはどこかのっぺらぼうな印象で、ちょっとくらい汚れや皺があった方が可愛らしく見えますね。
ところで、愛用者いわく「汚れ」だと思っていた部分をよくよく見てみると、これは汚れではなく革の「擦れ」であることが分かりました。遠目には灰色の汚れが付いているように見えるのですが、拡大してみると摩擦によって革そのものの風合いが変化していて、手で触っても落ちません。つま先の他、右足と左足がこすれる両足の内側部分にもこの「擦れ」が見られました。
そしてもう一つ、比べて実感できるのが踵部分のシルエットの変化。新品(左)と比較すると、1年愛用したものは革そのものがくったりと柔らかくなり、フォルムも丸くなっていることが分かります。愛用者に聞いてみると、「革そのものが柔らかめで履き始めから靴擦れはなかったのですが、半年ほど履き続けてからさらに柔らかくなったように感じます」とのこと。
靴で気になるのがアウトソールのすり減り。アッパーがどんなに綺麗でも、アウトソールが薄くなってしまうと靴としての機能を果たせなくなってしまいます。CATWORTH(カットワース)のフラットシューズ JazzShoe Whiteは細かな格子状の凹凸がついたソールが全面に貼ってあるのですが、裏返して見てみると、踵と甲の裏側にすり減りが見られました。これも日々よく履き込んだことによる経年変化の一つ。ただし、すり減ってはいるものの格子の凹凸は保たれているので、このまま履いても問題はなさそうです。
新品と愛用品を比較し全体の色味やシルエットといった全体的な変化を改めてチェックしたところで、実際にどういったお手入れが必要なのか考えていきます。ZUTTOスタッフも基本的な靴のお手入れは把握しているものの、「くたくたになった白いカーフレザーの靴」に対して、どんなメンテナンスが最適なのか、はたまたどこまでお手入れすべきなのかは未知の領域。
そこでまずはレザーシューズのお手入れに詳しい方にお話を伺うことに。お話を伺ったのは、いつもCATWORTH(カットワース)のシューズをご紹介頂いている輸入卸元の方、そしてZUTTOでも展開しているシューケア専門ブランドTapir(タピール)輸入卸元の方です。
【公式のお手入れ方法とは】
強い衝撃を受けたり、繰り返し擦れると白いレザーの表面が削れ、地のグレーの部分が見えてしまうことがあります。短時間のご使用ではそこまで深く削れてしまうことはないものの、日常的にご愛用いただいているとのことなので、恐らく汚れではなく表面が摩擦によって削れてグレーの地の部分が見えているのだと思います。その場合、レザーの色に合わせた補色剤を使って上から傷を目立たなくする方法があります。
新品(写真上)と比較すると、1-2mmほど踵のすり減りが。
今回のJazzShoeは、アウトソールとインナーソールを接着によって仕上げているものなので、物理的にはオールソール交換も可能です。ただし、ソール交換の際に「もとのソールを剥がす」「新しいソールを付け直す」という工程を経るため、どうしても靴そのものにストレスがかかりがちです。オールソール交換を前提とした作りにはなっていないため、極力摩擦を避けて大切に履いて頂き、もう限界!となった時にはオールソール交換、あるいは磨耗が目立つ部分を補強するという対応が良いのではと思います。
【白いカーフレザーには、どのお手入れアイテムを使うべきか】
表革に使えるケア剤の中で、防水や汚れ防止の効果が高いのは「レーダーフェット」です。ただし、白くて表面がマット、かつ柔らかいカーフレザーは、きちんとケア剤を選ばないと色味や質感が変わってしまうこともあります。レーダーフェットと比べると防水性は穏やかになりますが、皮革用防水スプレーをお試し頂くのも手です。ヌバックやスエードといった革にもお使い頂けるスプレータイプのケア剤です。ヌメ革のように油分が染み込みやすいレザーには向きませんが、今回お問い合わせの革であればご使用に問題はないと思います。
一言で革靴といっても様々なレザーが存在するので、用途に合ったケアアイテムをお選び頂くのはもちろん、必ず目立たない場所で試してから全体をお手入れすることです。革の種類だけでなく、色や表面の仕上げ、使用状況によっても異なるので、状態を見ながら少しずつお手入れしてみてください。
ここまでのお話で、
・汚れや磨耗を最小限に抑えるための「事前のお手入れ」が基本
・もう限界!となったら状態に合わせて、オールソール交換や削れてしまった部分の色を補う処理も可能
という2点がポイントであることが分かりました。言うなれば、「転ばぬ先の杖」としての事前のケアを日常的に行うことが、白いレザーシューズを長く愛用することの必須ポイントのようです。
実際にこのシューズを愛用しているスタッフに聞くと、「少し傷がついてグレーがかっているところも愛着が湧くポイントなので、今の風合いを活かしつつ革を労わり、汚れを防止するためのお手入れが出来ればベスト」とのコメントだったため、「ソール交換」「色を補う処理」は今はせずに、今後大切に履くための「事前のお手入れ」を試すことにしました。
【写真上/左:布用の洗濯洗剤】
シューレース(靴紐)と靴の履き口に使われている布テープの汚れ取りに使用します。今回はシミ取り効果の高いThe Laundressのステインソリューションを使いました。
汚れを優しく取り去る靴用クリーム。無色タイプを使用。
レーダーフレーゲクリームにも防水効果はあるのですが、今回は仕上げの処理として防水スプレーも併用することに。
【写真下:新聞紙】
シルエットを美しく保つのはシューケアの基本ですが、今回のように柔らかいカーフレザーの靴には、ぐっと力をかけて革を伸ばすシューツリーは向きません。適量の新聞紙を詰めて代用しました。
①新聞紙でシルエットを補正
靴紐を外し、新聞紙を詰めていきます。クリームを塗ると革が保湿され、革自体がしなやかで伸びやすい状態になるため、新聞紙を入れた状態でお手入れするのがポイント。
②履き口の布テープを拭き掃除
ガーゼに布用洗剤を適量取り、履き口の布テープをとんとん叩くように拭き掃除をしていきます。続けて水で湿らせ固く絞ったガーゼで洗剤を拭き取ります。(レザー部分に洗剤が付かないよう慎重に!)
③レザー用クリームで汚れ落としと保湿
今回使用したTapirのクリームは無色タイプといっても、ほんのり黄色みのあるクリーム色。Tapir(タピール)の卸元さんから頂いた助言通り、目立たない部分で試してから全体に塗りました。もともと日々の使用で真っ白だった革が少しクリーム色に近く変色していたので、クリームを塗ったことで色が変わるということはありませんでした。今回のようなマットな革は、艶出しのための磨き上げは不要です。ごく薄く均等に指で伸ばすのがポイント。
④防水スプレーで仕上げ
2-30cm離したところから、満遍なく防水スプレーを吹きかけた後、余分な液剤は柔らかい布で拭き取ります。一連のお手入れが終わったタイミングが、革が保湿され最もしなやかな状態。シルエットを補正するイメージで中に詰めた新聞紙の量を調整し、しばらく休ませます。
一連のお手入れをして、侮れないなと気づくのがシューレースの存在です。これは意外な盲点なのですが、シューレース(靴紐)は一度通したらなかなか外す機会がありません。靴紐を通した状態で外に向いている部分は汚れやすい、紐と紐がクロスする部分には汚れが溜まりやすいなど、幾つか集中的に汚れやすい場所があり、靴そのものの見栄えも悪くなってしまいます。
定期的に外し、洗剤で水洗いすると見違えるように綺麗になりますよ。水洗いの際は、指で扱き(しごき)ながら真っ直ぐに整えると、紐についたクセが直り、靴に通した時の印象も美しくなります。
全てのケアを終え靴紐を再び通したシューズがこちら。右がお手入れ前、左がお手入れ後です。甲の部分の履き皺が改善され、全体のフォルムが整ったのが分かります。カーフレザーの傷や風合いはそのままに、シューレースは汚れを取り去り真っ白に仕上げることで、きりりとした印象へと変化しました。
今回のお手入れは「今の風合いを活かしながら、今後も大切に使い続けるために出来る限りのセルフケアをする」という視点でした。今後さらに磨耗が進んだら、ゆくゆくはオールソール交換、削れてしまった部分に色を補うという処理が出来るという点は、本編でご紹介した通りです。
経年変化、経年劣化は似て非なるもの。真新しいピカピカの靴の美しさもあれば、何年も履いてくたくたになった靴の美しさもあります。白い靴、白いシャツ、白いハンカチ...。白いものにとって、汚れと劣化は宿命ですが、1日1日をともに過ごす愛用品に関していえば、必ずしも「新品同然に戻す」ことが最善とは限らず、上手に時を重ねるためのセルフケアという視点を持つことも一つの学びといえるのかもしれません。
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