白い器が好きーー。真っ白なキャンバスに絵の具を乗せていくように、シンプルなお皿にお料理を盛り付けるのが好きという方は多いのではないでしょうか。今回着目する「粉引(こひき)」と呼ばれる器もまた、白い器の一種。白化粧と呼ばれる一手間をかけ、白いけれど、真っ白ではないという奥深い器の世界をご案内します。
器の中でもっともポピュラーな色といえば、白。料理の色が映えやすい、カトラリーやグラス、お椀などどんなテーブルウエアとも合わせやすいなど、様々な理由がありますが、やはり王道というのは無駄を削ぎ落としたミニマルなものへと落ち着くようです。そんな中で、着目したいのが「白」のバリエーションです。というのも、今回ご紹介する粉引(こひき)の器は白化粧(しろげしょう)と呼ばれる加工を施した器だから。
こちらに、粉引(こひき)を含む4種類の器をご用意しました。
焼き物の種類や、表面の仕上げの違いによって様々なバリエーションが見受けられるものの、すべて、ベースは「白」という点で共通しているこちらの4種。2、3の器はどんなお家にも1つはあるような、馴染みのある風合いの焼き物。対して4のマット仕上げの器は、モダンなデザインと真っ白なカラーがあいまって特徴的です。
そして今回ピックアップしているのが1の粉引皿です。先にお伝えした通り、粉引皿とは「白化粧」と言われる加工を施した陶器を指しますが、真っ白ではなくどちらかというとグレーに近いような色味で、他の白い器と比較してみると、味わいの奥深さが改めて分かります。
粉引き(こひき)とは「粉を引いたように白い」ことから付けられたネーミングで、もとは朝鮮半島から伝わった伝統的な器でした。李氏朝鮮(朝鮮王朝)と呼ばれた国は500年もの間続いた国家のため、器の歴史を詳細に遡るとお話が長くなってしまうためここでは割愛しますが、異国から伝わってきたこの白い器の文化を愛で、大切に受け継いできた人々の想いは想像に難くありません。
100年単位で受け継がれてきた酒器や茶碗も存在し、何度も水分を吸って呼吸してきた器は新品とは異なる風合いへと育つと言われています。様々な焼き物が流通している現代では、手に取りやすい価格で大量生産された白い器がたやすく手に入ります。そんな中でこうした歴史的背景をもって受け継がれた素朴な器を見直してみるというのも、なかなか趣深いものです。
そんな粉引皿の魅力は、「3層構造」「御本」「しのぎの模様」という3つのキーワードで紐解くことが出来ます。
一般的に、陶器は陶土(素地)の上に釉薬(ゆうやく)をかけて焼きます。この釉薬は高熱で焼成することでガラス質に変化し、本来吸水性の高い土に水分が染み込むのを防ぐという役割があります。粉引きはもとは赤い陶土を白く見せるために発達した技法で、素地に白い泥をかけ色を付けてから釉薬をかけることで独特の風合いを生み出しています。これが粉引き器の「白化粧」です。上の図で見ると分かるように、「①素地+②釉薬」という2層構造の間に白化粧が入り「①素地+②白化粧+③釉薬」という3層構造になっているのですね。
また、白化粧を施した器は、窯出しの後、薄ピンク色の斑点が出る場合があります。これは御本(ごほん)と呼ばれ、粉引皿の味わいの一つになっています。こちらの写真の器も、ところどころピンク色の御本が見受けられます。この御本が現れるかどうかは器の個体差によるもので、全体がピンクがかって見えることもあれば、御本が全くなく白さが目立つこともあります。これは一期一会の領域ですので、出会った器そのものの味わいとして楽しみたいところです。
粉引皿は、「しのぎ」と呼ばれる模様を施されているのも特徴。「削ぎ」と書いて、しのぎと読みます。これは陶土を成形・乾燥させた後に手作業で器の表面を彫刻刀のような道具で削り、凹凸の模様を作ったもの。しのぎの模様がなく、つるりと平らなデザインもありますが、この模様があることで白化粧に陰影が生まれて独特の味わいが生まれます。白化粧がところどころ薄くなったり濃くなったりすることで生まれる、ある種の偶然性が一つの器を唯一無二のものにする訳です。写真の「リム皿」も、さざ波のようにも花のようにも見える模様が美しいのです。
こうした趣溢れる粉引皿ですが、先述のように素地と釉薬の間に泥の層を挟むため、
・他の陶器と比較すると柔らかい
・水分が染み込みやすい
という特徴があります。陶土を素材とする陶器(土物と言われます)は、もともと素地と釉薬の収縮率の違いによる微細なヒビ(貫入)があるのですが、この貫入から水分や油分が入り込むと、白化粧の上にシミとなって残りやすいのです。また、泥の層でコーティングされている分、強度の面では欠け・割れのリスクも高くなります。粉引の器が使い方次第で風合いが良くも悪くも変化すると言われているのも納得ですね。
そこで実際に新品の粉引皿を使って、ZUTTOスタッフが使用感を検証してみました。
「粉引き」の器についていろいろと調べてみると、土鍋のように目止め(めどめ)の処理が必要という情報がたくさん出てきます。目止めとは、土物の器にある微細な穴を予め埋める処理のことで、米の研ぎ汁などデンプン質のものが使われます。一方で、デンプン質で目止めをすると吸水性の高い粉引皿はかえってカビや劣化の原因になりやすいという情報も。目止めはするべき?しないべき?という質問が出たため、今回ご紹介している「粉引 リム皿」を手がけるTOJIKITONYAさんに伺ったところ、
「今回の器でしたら、使い始めに目止めは特に必要ないです。ただし、土物なのでどうしても色の濃い、あるいは油分の多いお料理を盛り付けるとシミになりやすいという特徴があります。これは好き好きですので、気になる方はサラダなど色の薄いお料理から徐々に慣らしていくというのも一つの方法かと思います。また、徐々に水分を含みやすくなるど、器表面に濡れたような模様が出てくる場合もあります。こういった個体差も含めてご愛用頂くのがよろしいかと。」
とのアドバイスを頂きました。デンプン質を使った目止め処理はせずに使い始めてOKなようです。
粉引皿の愛用にあたって大切なのは、どうやら「器と水の関係」であるということが分かってきました。目止めは不要というお話でしたが、さらに調べてみると「初めて使う時は、一晩水に漬けておく」「お料理を盛る前に毎回さっと水にくぐらせる」という方もいるようです。そこで実際に一晩水に浸してみることに。
一晩中、洗い桶の水の中に器をどぼんと浸しておいたのですが、これといった大きな変化は見受けられないようです。上の図にあるように、器の一番外側には釉薬がかかっています。この釉薬はガラス質なので、簡単には水は染み込まない造りになっています。この釉薬のかかり方や厚さによっても水の染み込みやすさは異なるので、新品の状態ではさほど神経質になる必要はなさそうです。
今後、器を使い続ける中で貫入が進めば、この器にも水の模様が出てくるかもしれません。そうした経年変化の余白が残されているのも、土物の器ならではの特徴と言えるのかもしれませんね。
使い始めの検証が済んだところで、実際にお料理を盛り付けてみます。「粉引 リム皿」は7寸(22cm)と9寸(26cm)の2サイズ展開。今回は、一人分のサラダを盛り付けるのにぴったりな7寸を選びました。「器は料理の着物」と言いますが、器それ自体も料理が盛り付けられて初めて息が吹き込まれるように思えるから不思議です。
・和洋どちらのお料理を載せても違和感なし
・白といっても完全な白ではなくグレーに近い色味なので、他の食器とのコーディネートもしやすい
・油分のあるドレッシングをかけても使用後シミや匂いの移りは気にならなかった
実際に盛り付けてみると、こうした感想が出てきました。とても使い勝手の良いサイズ感なので、カレーやトマトソースのお料理など、色と匂いの強いものも徐々にチャレンジしていけば、使用頻度の高い愛用の器になりそうです。
今回は粉引皿をピックアップしてご紹介しましたが、器との出会いはまさに一期一会であること、土から生まれた器は呼吸していること、というこの2点がよく分かります。そっと水に浸すと、まるで器がごくごくと喉を潤すように水分を湛え、使うほどに貫入が進み年を重ねるように味わいを蓄積していく。すぐには分からなくても、長年寄り添うことで器が育つという不思議。この魅力は、粉引皿に限らず様々な土物の器に共通する点なのではないでしょうか。
▼TOJIKI TONYA(トウジキ トンヤ)について
2007年、TOJIKITONYA(トウジキトンヤ)は、問屋業を営んでいた3社が地域の歴史や文化に育まれてきた素材を活かし、現代の生活に見合う良質な陶磁器製品を伝えていくという使命をもって始まりました。 焼物産地においても昔ながらの技術や職人が急減している中、日本の食文化の歴史とともに歩んできた陶磁器産業の優れた技術や製品を継承していきたいとの想いがあります。
また、TOJIKITONYA(トウジキトンヤ)は、活動目的から逸れることなく自らの製品に責任をもって製造を行うため、公的機関の支援や補助を受けず、生産者と消費者が近い距離に立って、日用品として長く愛用出来る陶磁器を提案しています。今回ご紹介した美濃焼の粉引皿の他にも様々な焼き物をご紹介しています。
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