日本人は昔から、夏の暑さと上手く付き合う術を持っていました。
自然に親しみ、暑さの中でどう暮らすかを考えていたのです。
その知恵を紐解くと、体と心への優しさからくるものでした。
エアコンをつければ涼しく快適に過ごせますが、
季節感もない無機質な暮らしではなく、
「愉しみながら夏を過ごす」ことを日本の夏の知恵から学んでみませんか?
暑いからとエアコンの効いた室内にずっといると
身体がだるくなり、余計に食欲がなくなってしまうと
いうことがあります。
涼し気な色や模様のものを身近に置き、サラリと気持ちの良い
素材のものを身に付け、季節を感じる食材を愉しむ。
直接の涼しさではなく、五感を駆使した「涼」を求める姿勢が、
江戸時代から伝わっています。
四季のある日本では「季節」を非常に大切にしてきました。
四季折々の花々や草木を愛でては詩を読み、
神行事は季節にまつわることが多く、
立春や冬至など季節に関する言葉が多いことからも分かりますね。
四季がある国は世界中他にもありますが、季節を通して
風情や趣を感じることをゆとりとしているのは
珍しいのではないかと思います。
もちろん、江戸時代の暑さと現代のコンクリートジャングルの
暑さとは全く違うものですが、暑さに対する知恵をヒントに、
生活に取り入れられるアイディアを掘り下げていきます。
チリンチリーン、と細く澄んだ風鈴の音色と、
同時に感じる通り風は昔も今も変わらぬ「涼」。
風鈴の音を涼しく感じるのは日本人特有の
条件反射のようなものらしいのですが、
風鈴の素材や色、音の高低によっても感じ方は
違うのでしょうね。
能作の風鈴は真鍮製。その音色は高く、細く、
長く続くイメージで、聞いていてとても気持ちの良い音です。
ガラスの風鈴の「カランカラン」という音と比べると、
伸びがあり遠くまで飛んでいく、凛とした音です。
透明で美しいガラスは見た目に涼を与えてくれます。
爽やかで季節感があり、夏の食卓にはぜひ取り入れたくなりますね。
ガラスのコップに氷と麦茶を入れて、ガラスの外側に現れる
水滴を眺めているのも夏らしいです。
こちらは、青森の「津軽びいどろ」のガラスアイテム。
びいどろは、「ガラス」を意味するポルトガル語です。
16世紀、西洋ガラスが日本に伝来した際に一緒に伝えられたと言われています。
津軽びいどろは、溶かしたガラスを吹き棹に付け、
反対側から息を吹き込んで形を整えていく「宙吹き」の
技法を用いて、ぽってりとかわいらしく美しい色合いの
ガラス製品を作っています。
こんな器でかき氷を食べたら美味しそうですね。
想像するだけでも涼しい気持ちになってきます。
他にも冷製スープやカッペリーニ、フルーツを入れたりと
幅広くお使い頂け、丁度良いサイズ感が便利です。
底面にからグラデーション状に散りばめられた色ガラスは、
光を当てると机に美しい影を落とします。
このような楽しみ方ができるのも、
鮮やかな色合いの津軽びいどろならではです。
竹製品もまた、夏の風情と涼やかさを感じさせる素材です。
細かな竹の編み目や、竹とガラスの組み合わせなど
インテリアとして空間に溶け込みます。
いつもの収納を竹かごに変えるだけでも部屋全体の
印象がぐっと変わり、夏のイメージに近づきますよ。
公長齋小菅(こうちょうさいこすが)は竹を使った
美しいインテリア用品、キッチン用品を作っています。
竹が昔から生活と文化に深く関わってきた意味をよく理解し、
暮らしを豊かにする竹製品を生み出すことを理念としています。
白竹の滑らかな表皮がそのまま活かされているので、
使い込むほどに艶が出て色が深みを増します。
シャリシャリ、ざらりとした手触りのリネンタオルケット。
肌に張り付かず、汗をかいても速乾性があって心地良い。
軽くて、タオルケットを掛けることが億劫になりません。
使いはじめのひんやり感も、リネンに涼を感じる点ですね。
ベッドでタオルケットとしてお使い頂くのはもちろん、
ソファにかけて汗汚れ対策としたり、フェスやキャンプなどの
野外に持ち出すのもおすすめです。
芝生に敷いてシート代わりにしても良いですね。
汚れてもじゃぶじゃぶ洗って干せばすぐに乾く、というのも
夏場に使いたい素材である理由の一つです。
fog linenwork(フォグリネンワーク)のリネン製品は、
日常使いをテーマにしたものづくりを行っています。
リネン特有のネップ(糸がポコッと詰まっている箇所)も
カジュアルな雰囲気を醸し出し、気を使わずにどんどん
使って風合いを出していくのがおすすめです。
暑い夏、喉ごし良くツルツルッといただきたいのが
冷たいお蕎麦やお素麺。
ねぎやきゅうり、みょうが、胡麻などの薬味をたっぷり用意して、
器には雰囲気が一層出る蕎麦皿を。
専用の道具が美しく揃っていることはなんとも贅沢で、
お蕎麦やお素麺もより美味しく感じるから不思議ですね。
大館工芸社の蕎麦皿は、秋田杉を使用したわっぱの蕎麦皿。
厳しい冬に耐えた秋田杉は美しい光沢があり、
それを曲げて作る曲げわっぱは、精巧で長年狂いが出ないと言われています。
樹齢150~200年の天然秋田杉を用いて作られる曲げわっぱは、
耐久性の良さはもちろん、“夏は保冷、冬は保温”と、
自然の力を最大限に生かした秋田の伝統工芸です。
そばちょこは、同じわっぱで揃いにしても良いですし、
宮本泰山堂(みやもとたいざんどう)の陶器のそばちょこを合わせても素敵です。
豆皿が付いているので、薬味やわさびを添えるのにぴったりですね。
こちらも風鈴同様、日本人独特な感覚で、
「涼しさ」よりは夏を感じ季節を楽しむほうになりますが、
蚊取り線香の香りは夏らしいですよね。
どことなく野暮ったい印象になりがちな蚊取り線香ですが、
こんな素敵な蚊遣りに収まっていたら素敵です。
能作の蚊遣りは錫100%製。
手作業で折り曲げられた形は少しいびつで、
表面の地肌はザラっとしています。市販されている蚊遣りは
陶器のものが多く見られますが、シルバー色の蚊遣りは、
見た目にも清涼感があり、夏にぴったりです。
りんねしゃの菊花線香は化学物質を使わず、天然素材から生まれます。
菊花線香は、蚊取り線香ではなく防虫線香です。
つまり、虫を殺虫するのではなく、防虫を目的に作られています。
一般的に販売されている蚊取り線香は化学合成した
殺虫剤成分を含むものが大半を占めています。
殺虫剤成分を大量に使用すると、人体に悪影響を及ぼし、
日常生活にも支障が出る可能性がありますが、
菊花線香は、使う人にも環境にも優しく、穏やかな効き目で
虫をよせつけないというものなので、安全性が高い製品です。
外に出ると炎天下の中体力が奪われていきますが、
日傘を差して日差しを遮るだけで随分と暑さが和らぎます。
傘はもともと、日傘を起源としていて、紀元前から現在まで
変わらず使用されてきました。
昔との違いと言えば、紫外線カットなどの機能性が加わったことでしょうか。
紫外線・日焼け対策ならばUVカット率を、
日除け対策ならば遮光率を気にして選んでくださいね。
槙田商店は、生地から傘を作る織物屋です。
生地の機能性に加え、創業時から大事にしているのは美しい
ジャガード織りの模様。
プリントでは表現出来ない織りの模様にこだわり、
発色も良く、絵柄に立体感が生まれることで高級感さえ感じる日傘です。
内側には反転した絵柄が入るので、傘を差している人自身も
絵柄を楽しむことが出来ます。
かつて、うちわは外出時の日除けに重宝していました。
日傘を持ち歩くのは億劫、という方はうちわや扇子を
持ち歩き、外では顔の横に掲げて日を除け、
屋内に入ったらパタパタとうちわを扇ぐ、そんな使い方も粋ですね。
公長齋小菅(こうちょうさいこすが)の京うちわは
細い竹ひごを並べて、両面に紙を貼り、
柄を差し込んだうちわを言います。
京都の工芸品として親しまれているうちわは、
南北朝時代から続く歴史あるうちわです。
柄が中骨と一体ではなく、後から取り付けられる、
挿柄の構造が、京うちわの特徴で、
片面に落ち着いた色合いの麻を使用し、涼しげな仕上げ。
全体はシンプルで美しく、使いやすい形になっています。
栗川商店の渋うちわは熊本県の伝統工芸品にも
指定されている来民(くたみ)うちわ。
和紙に柿から採った柿渋を団扇表面に塗ることで、
丈夫に保つだけでなく、柿渋に含まれるタンニンの働きで
虫除けにもなり、年々色合いが濃くなりその変化も楽しめます。
職人により、1本1本ていねいに和紙を貼り、
いくつかの工程を経て仕上げられる柿渋和紙は、
月日を重ね、だんだんと味わい深い色合いになります。
乱暴に使わなければ100年以上もつといわれ、まさに一生もの。
夏祭り、豆絞りの手ぬぐいを額にキュッと巻いて、
はっぴ姿で闊歩する人を見ると
夏独特のワクワク感が増してきますね。
手ぬぐいは、様々な用途で活躍する万能布です。
名前の通り、手や顔を拭うことはもちろん、
食器拭き、おしぼり、かごの目隠し、
お気に入りの柄は額に入れて飾ったり、
ファブリックパネルを作るのもおすすめです。
屋内でも屋外でも大活躍してくれます。
夏場は白地や水色のものが涼しげです。
ハンカチ代わりに汗を拭く布として持ち歩いても
かさばらないのが嬉しい点ですね。
薄手で縫製がされていないので速乾性があり、
生地の端に汚れやホコリが溜まらずに衛生的であることも
夏に重宝する理由の一つ。
沢山使って洗濯した分、生地がふっくら柔らかくなり
色合いが落ち着いてきます。
風合いが増す、という表現がぴったりですが、
手ぬぐいは更に使い込んでぼろぼろの雑巾に
なるまでお使い頂けます。
夏に使用頻度が高くなるアイテムは、
季節に合ったそれぞれのお手入れ方法を
知っておくことが大事です。
【竹製品】
竹は、乾燥している時は空気中の水分を吸収し、
湿度が高い時は水分を放出する機能を持っています。
しかし、夏の直射日光に長時間あたると変色や乾燥による
割れの原因になりますので、置く場所にご注意ください。
【リネンタオルケット】
速乾性があるので毎日でも洗えて衛生的です。
乾燥機は使用せずに、陰干ししてください。
乾燥させすぎはゴワゴワの原因なので、
直射日光を避けて、乾いたらすぐに取り込むようにしましょう。
【日傘】
日傘は、強い紫外線を直接浴びるために、
次第に変色してしまう可能性があります。
1本1本を長く愛用するためには、
日傘数本をローテーションして使用することをおすすめします。
また、汚れたら中性洗剤を薄めた溶液で生地を
優しく拭いてください。
その後水で洗い流したら、直射日光の当たらない
風通しの良い所で、半開きで乾かします。
水分が残っているとサビの原因になりますので、ご注意くださいね。
【手ぬぐい】
洗剤やお湯は使わず、水で手洗いしてください。
その後、シワを伸ばして広げて干します。
洗濯機を使うとねじれて型崩れやほつれが進む
原因になるのでおすすめはしません。
使いはじめは色落ちしますので、分けて洗うと良いでしょう。
日本の夏の暑さは時にしんどいもの。
しかし、決して長くはない夏を存分に楽しみたいと思う気持ちも本当です。
今回ご紹介したのは、暑さに対処する昔からの「五感を使った知恵」を
ヒントにしたもの。
寒さを得ることは出来ませんが、夏を感じながらも快適に、
心にも優しく過ごすことが出来ます。
ぜひ、楽しい夏をお過ごしください。