絵画や風景をモチーフにしたストール・マフラーはたくさんありますが、それを緻密な幾何学模様の重なりで表現するWALLACE SEWELL(ウォレスアンドスウェル)の織物は、手に取る人の感性を刺激するような唯一無二の魅力を放っています。キャンバスに塗り広げるその筆を糸に持ち替えて、一つ一つ大切に作り上げるWALLACE SEWELLのテキスタイルの魅力をデザイナーに伺いました。
巻き方によって表情を変える美しい模様
WALLACE SEWELLの織物は、世界一の芸術大学である、ロンドンのロイヤルカレッジオブアートで出会ったHarriet Wallace-Jones(ハリエット・ウォレス)とEmma Sewell(エマ・スウェル)の二人によって生まれました。
ロンドンの名門芸術大学でアートを学んだハリエット(左)とエマ(右)
「WALLACE SEWELLが生まれたのは私たちの大学時代まで遡ります。ハリエットと私(エマ)は織のデザインを専攻していて、そこで私たちは出会いました。大学ではテキスタイルデザインにまつわるすべてを学び、卒業後にテキスタイルデザインスタジオWALLACE SEWELLを設立したのです。」
デザインスタジオとして活動する以前は、ハリエットは機織りを使った独創的な構図を生み出してインテリア用のファブリックを、エマは収縮する糸やツイストした糸を用いた織布の構図に惹かれ、ファッション用のファブリックを制作していたそうです。
バーニーズ・ニューヨークをはじめとするバイヤーたちから注目を集めた初の個展。そこで発表したのは、今もWALLACE SEWELLらしさを表す、幾何学模様を複雑に組み合わせたモダンで美しいパターンのストールでした。そのインスピレーションはなんと絵画から。優雅な線を描く絵画をなぜ幾何学模様で表現しているのでしょうか。
「織には、絵画のような模様を描ける「ジャカード織」と幾何学模様が得意な「ドビー織」がありますが、私たちはあえて「ドビー織」を選んでいます。ドビーは具象的なイメージや複雑な柄を組むことはできないですが、そのドビーらしい幾何学の表現方法が好きなのです。絵に使われている色や構成、テクスチャーをデザインソースにすることで、私たちらしいテキスタイルを作っています。」
彼女たちが出会う絵や風景がインスピレーションのもとになり、幾何学模様に落とし込んでいくという独特なデザインアプローチ。初めに考えるのは色合いとバランスで、絵の中にある色を分析しながら、手作業で台紙に糸を巻き付け、デザインを考えているそうです。この緻密で丁寧な作業がWALLACE SEWELLらしさを作る大切な工程なんですね。
「絵画には、普段は見ないようなダイナミックな色の組み合わせがあり、緊張感や落ち着きのような感情を導き出す力があるんです。私たちはその感情までも落とし込めるようデザインしています。大切なのは、トレンドを追わず、あらゆるものに興味を持ち、意外性のある色合わせを見つけること。ひとりひとりの個性に響き、身に着ける人たちに驚きも提供できるようなタイムレスなデザインを目指しています。」
幾何学の世界に惹き込まれそうなほど緻密なパターン
絵画を見るときに受ける感情は人それぞれあるように、WALLACE SEWELLのテキスタイルも手に取る人によって受ける印象が違うのが魅力の一つ。絵画からもらう幾多のインスピレーションを捉えるために、裏地までもキャンバスにして、一枚の中で様々なパターンが複雑に構成されています。一つ一つの模様と対話をするように巻き方を変えながら楽しんでほしいです。
メリノラムズウールマフラー DORVIGNY(CLARET)
ZUTTOがラインアップしているWALLACE SEWELLの中でも、特におすすめしたいのがウールカシミヤティペット(マフラー)DELPHINE。一般的にティペットというと、ファー素材のものを思い浮かべる方もいるかと思いますが、WALLACE SEWELLのティペットは、ウールとカシミヤを使ったショートマフラーのようなもの。手に取るとカシミヤの柔らかさが気持ちよく、ウールのチクチクが苦手な人にも使っていただける素材感です。
ウールカシミヤティペット(マフラー)DELPHINEは、オルセー美術館でのリサーチからデザインを起こしました。一つずつインスピレーションのもととなった絵画があるので、どんな絵か調べながら選ぶという楽しみ方ができるのもWALLACE SEWELLの面白さ。
「ティペットは小さいサイズのスカーフのように、一日中身に着けていられることをコンセプトに作りました。コンパクトなサイズなのでシンプルに結んでもアクセントになるよう、大胆な色合わせを意識していて、巻いた時に様々な表情が出るようなデザインにしています。」
なんとなくマフラーは大判サイズが機能面でもファッション面でも使いやすいと思ってしまいがちですが、コンパクトなサイズだと首・肩周りが動かしやすくなり、一日中着けていても気にならないですね。また、寒すぎたり暑すぎたりすることなく快適に使える素材なので、秋冬だけでなく寒さが柔らぐ春にもおすすめ。明るいカラーの春物に合わせた色遊びを楽しんでみてください。
WALLACE SEWELLのテキスタイルは表と裏でも表情が異なるので、巻き方によって雰囲気を変えながら楽しめるアイテム。ティペットだと首にかけておくだけでスタイリングできてしまうので、巻き方にこだわりがない人や男性にもおすすめですよ。そんなティペットをもっと楽しんでもらうために様々なアレンジに挑戦してみました。
まずは、フィンセント・ファン・ゴッホの「オーベルの教会」を元に作られたLEAFを、結び目を作らずさらっと首に巻きつけて。 若葉のようにフレッシュなグリーンと、空を思わせる深いインディゴブルーの組み合わせが気持ちの良いカラーリング。フレッシュグリーンが明るさを引き立たせ、爽やかな印象に。
白馬が浸かる冷たく澄んだ水を描く、ポール・ゴーキャンの「白馬」を元絵にしたDENIM。ふわっと結んで首回りにボリュームが出るように巻くと、首元全体が温かく包まれ華やかな印象に。メインカラーのブルーとピンク・モスグリーンのストライプ模様が美しく、遊び心も感じさせます。
首元にきゅっと結び目を作ると、スカーフタイのように紳士的な使い方も。フィンセント・ファン・ゴッホによる「医師ガシェの肖像」をイメージしたRUBYは、ゴッホが絵の中に込めたとされる悲しさの中にある情熱を感じさせるデザイン。この大胆な色使いも、コンパクトなティペットならスタイリングしやすく、ダークカラーを中心とした秋冬の洋服のアクセントになりますね。
最後に、ジャケットと合わせたメンズライクなコーディネートをご紹介します。ギュスターヴ・クールベの 「The Stormy Sea」から作られたTRYOLは、冬の暗く荒れた海を表現したダークトーンにロイヤルブルーとレモンイエローの光が差したデザイン。落ち着いたトーンのコーディネートにも合わせやすく、フォーマルな場面や男性にもおすすめしたい一枚です。
どんなに大切に使っていても、使っていくうちに汚れたり穴が空いたりすることもありますよね。WALLACE SEWELLは、そんな時も新しく創造することの楽しさに気づかせてくれるブランド。例えば、マフラーに穴が空いたらダーニングをして自分らしいカラーを加えれば、自分だけの特別なマフラーとして一層愛着が増してくるんです。こんな風にWALLACE SEWELLは、捨ててしまいそうなものでも新たな魅力を発見する面白さまでも提案してくれています。例えば、端切れもその一つ。
「生産時に切り落としてしまう生地のみみ(両端)や端切れを廃棄したくないと思い、いつも何か使い道はないかと考えていて、何年分も全て保管していていたんです。それがある程度貯まったときに、トリミングやラッピング用のリボンにしたり、手織りのキットやクリスマスリースの素材として提案すると、どんどん人気が出て、今では保管していたもの全てなくなってしまいました。」
自分だけの特別なものになるようなWALLACE SEWELLの端切れを使ったハンドメイドのアイデア。
どんな素材もアレンジ次第で、楽しく使い続けれられることを教えてくれるWALLACE SEWELL。創造力を発揮すればいつまでもお気に入りのアイテムとして側で輝いてくれるんですね。こうして彼女たちの魅力を知ると、ティペット一枚の中にもたくさんの驚きと感動が詰まっていることが分かります。自分の個性に響くデザインを探しながら、自分らしく楽しんでみてください。
▼WALLACE SEWELLのアイテム一覧はこちら