Fukuda Orimono(福田織物)の光透けるストールに初めて触れ、手に取ったとき、ここまで軽やかで柔らかい綿のストールがあるのかと驚きました。コットンストールときいて思い浮かべる手触りとは違う繊細で滑らかな生地面に、空気を含んだようなふんわりとした質感、そして生地の向こうにある手が透けて見えるほどの薄さ。肌当たりが気になりやすい首まわりだからこそ、身につけたいと思えるものだったのです。
グレージュ
スカイブルー
遠州織産地である静岡県のテキスタイルメーカーが手掛ける光透けるストール。改めてその紹介とともに、工場のある静岡の掛川まで足を運んで伺った、制作秘話もご覧ください。
静岡県西部に位置する遠州地方は、江戸時代から綿織物が盛んな地域で、日本三大綿織物産地の一つとしても知られています。
そんな遠州地方、静岡県掛川に拠点を構える福田織物は、1964年に創業。数々の試行錯誤を重ね、透け感のある繊細な生地を得意とするテキスタイルメーカー(生地メーカー)です。そして福田織物の定番商品である「光透けるストール」は、開発から完成まで3年かかったもの。
・重量45gと身につけていることを感じさせない軽やかさ、柔らかさ
・シルクのような艶
・カシミヤを思わせる滑らかさ
・自宅で洗えて衛生的
こういった特徴を始めとした「他のストールにはない気持ちよさ」が、光透けるストールの魅力です。
アプリコット
愛用スタッフ:
「このストールを身につけたときは、他のストールにはない軽やかさ、生地の気持ちよさに驚きました。薄手だからといってボリュームがでにくいこともなくふんわりしていて、くるくる巻けばちゃんとボリュームも出ます。しかもシワになりにくいので、気軽に持ち運べます。
ここまで薄手の生地だと自宅での洗濯は難しいのかと思ったら、水洗いもOKでお手入れ面も満足です。シルクやカシミヤだと、水洗いできずドライクリーニングのみということもありますから、自分でお手入れできるのは嬉しいですよね。」
※直射日光の当たらない場所で時間をかけて乾かすと、柔らかな風合いをキープしやすいそうです。
ライラック
「ここまで柔らかい生地だと、シワになりやすかったり、お手入れしにくかったり、質感と引き換えに何かしら不便なことがあるものですが、この光透けるストールはそれがなかったんです。表面のコーティングには、植物油、シルクプロテインが使われていて化学的なものではないので、肌が敏感な私でも気持ちよく使えました。」
軽さ、持ち運びやすさが使いやすいポイント
さくら
「光透けるストールは軽くて薄手なので、畳めばコンパクトになりますし、バッグの中に入れて持ち歩いても重たくありません。シーンにあわせて身につけたり外したりできる点は、日々使う中で便利であることを実感します。
さらにシワになりにくいという特徴も、持ち運ぶハードルを下げてくれるポイントです。
簡単に体温調節が可能なストールは旅行先の必需品。ジャケットを持っていくよりも、コンパクトでバッグの中に入れやすい薄手のストールはきっと重宝すると思います。旅行では着回ししやすいようにベーシックな色味の洋服を持っていくことが多いので、その分ストールで明るい色を足すのもおすすめです。」
光透けるストールの一番大きな特徴は、糸の細さ。どうやってこの光透けるストールが生まれ、作られているのか、ものづくりのストーリーを知るべく福田織物の工房を訪ねました。
掛川駅からバスに30分ほど揺られた先、海風の気持ちよい場所に事務所と工場を構える福田織物。取材を受けてくださったのは、代表・福田靖さんと専務・福田正子さんのお二人です。
「細い糸でつくる生地を、うちならではの強みとしたかったんです。父が1964年に機屋を創業して私は2代目なんですが、継ぐ当時、生地を織る機屋(はたや)は分業制の側面が強く、実際に出来上がった生地をお客様へ届けるのは別の会社。自分たちがつくっているはずなのに、まるでつくっていないような、そんな感覚があって。そこで目指したのが、織ることに高度な技術を必要とする『細い糸を使って織物をつくる』ことでした。」
「とにかくまずは勉強。実際に会社に入り、父の背中を見たときにその技術、知識に圧倒され、まずは父に追いつこうと必死でしたね。そしてある程度技術が身についてきて『良い生地』を追求していく中で、シルク織物である丹後ちりめんからヒントを得たんです。」
「はい。丹後ちりめんといえば、独特のシボがありますよね。あれはS撚り(右撚り)と、Z撚り(左撚り)を組み合わせることで生まれているもので、それを綿でもできないか?と考えて。
ただ綿糸は、Z撚り(左撚り)が基本。元々綿から手で捻るように糸を撚っていたから、右手で糸を撚ることを想像しやすいでしょう。だから、逆向きのS撚り(右撚り)がほとんど市場になかった。そこでS撚りの糸を特注で作ってもらうことからスタートしました。」
「たて糸とよこ糸、どちらにもS撚り・Z撚りを交互に入れて織ることで、丹後ちりめんとはまた違う、ふんわりとした膨らみが出て、さらにシワにもなりにくいことに気が付きました。いい生地を作りたいという思いで前例のない生地を織り上げたら、この柔らかな風合いに辿り着いたんです。」
ここで福田専務が、染める前の貴重な生地を見せてくださいました。
▲光透けるストールの生地。左から、生機、生成り、晒し。
「一番左のピンクの生地、『生機(きばた)』は、織っただけで何も加工していないもの。たて糸とよこ糸のうち、片方だけピンクの糸を使っているからこういったピンクの色になるんですが、その理由は、織っている途中でどちらの糸が切れたかを判断するため。糸は細いほど切れやすいので、こういった工夫をしています。」
「そして、そのピンク色を落とすために湯通しして、その右の『生成り』に。糸本来の色ですね。そして生成りでは糸の油分が残っていて色が乗りにくいので、白い状態、晒しにしてから染めてもらいます。
光透けるストールは120番手の前にもう少し太い80番手から試しましたけど、80番手も細いですから、こうやって形になるまでも時間がかかりましたね。そもそも織るのが大変ですし、そこから今度は染めも、普通の染色方法だと生地がボロボロに傷んでしまって。」
▲綿糸の中でも、繊維が長く選別された超長綿を使用。80番手も超長綿ですが、120番手はその上。
「120番手がどれだけ細い糸かというと、一般的に使用されている40番手と比べると、3分1の糸の太さになります。綿糸の中で、超長綿が占める割合がおよそ5%だとしたら、120番手は1%程度ではないかと思います。そのくらい貴重な糸を使ってようやく出来た生地です。ただ理論を優先して作ったので、洋服の生地にするには薄いですし、どういった形にしようかと悩みました。
それでも自信のある生地だったので、まずは見てもらおうと、ある展示会でストールくらいのサイズでこの生地を並べたんです。そしたら予想以上の反響があって。あんなに自社のブースが賑わう様子は見たことありませんでしたから、伝わったことが嬉しかったですね。そこから何社かお声掛けいただいて、ストールの製品化が進んでいきました。」
「はい。自分の中で高みを追求し続けていって、染色屋さんをはじめ、その熱意に応えてくれる方に支えられて出来上がったものですね。」
▲「他にないストール」と感じる質感は、この熱意があって生まれたもの。
「あとは生地端の処理も、一般的なコットンストールにはない特徴だと思います。ミシン縫いはせず、S撚りとZ撚りという逆撚りの糸を絡ませるように処理することで、ほつれないようにしているんです。」
▲教えていただいて初めて、「縫われていない」ことに気が付きました。
▲フリンジのある短辺とフリンジのない長辺、処理の方法は違いますがどちらも縫われていません。
「これはストールを作っていく上で、実際に身につけたお客様から『せっかく気持ちのいい生地なのに、端の縫われている部分の肌当たりが気になってしまう』とお声をいただいたことから、この形になりました。
光透けるストールを10年以上愛用されている方や、ご自身で買った後、贈り物に選んでくれる方もいらっしゃって、大切に扱ってくれている様子がとても嬉しいですね。」
▲首まわりや顔に当たるストールは特に肌触りが気になるので、こういった工夫は嬉しいですね。
「そうですね。光透けるストールは後染め(出来上がった生地を染める)ですが、一般的な方法である『大きな釜に入れて一気に染める』ことはせず、一枚一枚優しく染めてもらう方法でお願いしています。
グレー
水が綺麗な土地の染工場は発色が美しいことを、このストールを作るときに身をもって実感しました。当初は京都の染工場でしたが残念なことに廃業してしまって、今は東京の染工場で染めてもらっています。
ストールを製品化するときは、染めるところを決めるのにも骨が折れました。生地をみて『この生地だと染められない』と断られることもありましたし、試験的に染めに出して、戻ってきたら生地がボロボロになってしまっていたこともありましたね。」
▲様々な生地を目にする染め専門の方からも『これはシルクじゃないのか?』と驚かれたそう。
「色のバリエーションが増えていったのは、実は染めが難しかったことも理由なんです。希望の色から少し離れた色であがってきたときは、別のカラーとして販売していました。」
「どのカラーも綺麗なので、選ぶところから楽しんでいただけたら。
あとは、洋服の柔軟剤で肌が荒れてしまうような方にも手にとっていただけるよう、生地のコーティングは植物油とシルクプロテインを使っています。化学的なものではないので、安心してお使いください。」
取材中に何度も「このストールは最高傑作だと思う」と話してくださった福田社長。
「120番手は極細糸ですが、だからといってこれより糸が細ければいいのかというと、そうではありません。この柔らかさと軽さで、シルクのような質感を持ちながら、洗濯もご自身でしていただける。このバランスを保ち、製品化できる糸の細さは120番手が最適だと考えています。
普段使いするストールとして本当にいいものを作ることができた、と自信を持って言うことができるストールです。」
「糸に適した糊剤までも特注で作ってもらっていて、その点でも贅沢な素材。このストールを作る過程ひとつひとつがすべてが挑戦で、自分が考える『よい生地』を追求し続けて出来上がったものです。この手触りや軽さ、扱いやすさを体感していただけたら嬉しいですね。」
実際に生地を織る工場も見せていただきましたが、いくつもの機械が並んで動く中、生地を前にして慎重に様子を見守る職人さんがいらっしゃいました。
「織り始めてから、人がいない状態でも安定して織り進められるまで、およそ3〜5時間かかります。今はその調整作業中ですね。細い糸であるほど糸が切れやすくて調整に時間がかかるので、光透けるストールの場合はもっと時間がかかる。1日くらいは織機の様子を見て調整しています。」
「糸が切れてしまったときに、その糸を探し出して、新たに糸を結んで繋げているんです。この作業も集中力が要る作業。
また、検品はすべて自分たちで行っています。手をかけて織っている生地ですから、最後までしっかりと確認してお客様に届けられるようにしています。」
▲検品を終えた生地。この後、染工場へ運ばれます。
「ここまで細い糸を織る作業は、多くの工場が『できない』としてきたことでしたが、できないと思わずに何度も挑戦した結果、こうして生地を織ることができるようになりました。自分自身もストイックに研究しましたし、それに応えてくれる同業界の方々、様々な方の協力、努力が重なってできた最高のストールだと思っています。」
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テキスタイルメーカーが年月をかけて作り上げた珠玉のストール。挑戦し続け辿り着いたものが、この唯一無二の手触りなのだと思うと、より一層愛着が湧きました。お気に入りのカラーを選んで、長くご愛用いただけたら嬉しく思います。
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