古着やヴィンテージを愛する方の憧れの的、ワークウェア。
数十年前の古着が並ぶお店では悠然とした時間が流れ、じっくりとディテールを見ながら選びたくなるものです。そうやって選んだヴィンテージものは自分の好みや趣味そのものといえる宝物のような存在。愛着の詰まったアイテムだからこそ、いつまでも愛用できるものです。
愛用者との出会いをひっそり待つストックを発見した時の気持ちになるワークウェアが一つ、ZUTTOにあります。それが、LE TRAVAILLEUR GALLICE(ル トラヴァイユール ガリス)のフレンチワーク。
今回のよみものでは、LE TRAVAILLEUR GALLICEのエイジングとその魅力について詳しくご紹介します。歴史あるジャケットを0から新しく育てる経験は、一つの素敵な体験となりますよ。
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カラー展開は3色。メンズ・レディースでご用意しています。
目次)
・LE TRAVAILLEUR GALLICEとは?
・モールスキンが希少な理由 3つ
・モールスキンジャケットのエイジング
- お手入れについて
ル・トラヴァイユール・ガリスと読むこちらのブランドは、現在でも100%メイドインフランスを続けるブランドとしては最古の老舗。
フランス語を紐解くと、ブランド名は「LE TRAVAILLEUR = 働く人」「GALLICE = フランス(フランス語の元になったラテン語より)」ということになります。「フランスの働く人」というその名の通り、120年以上前に生まれて以来フレンチワークの黎明期を代表するブランドとして、長い間ワーカーたちの生活を支えてきました。中でも当時フランスのワーカーから好まれて着られていたのは、「モールスキン」と呼ばれる生地で、非常に細かい毛羽感と特有の光沢は少しモグラの毛にも似ています。
そんなモールスキンは、時を経て現在、その手間のかかる生産工程から決して安いものではなくなっています。フランス製の生地は、非常に高級なのです。
アメリカといえばデニム、フランスといえばモールスキンとも言える象徴的な存在でありながらも、産業の廃退やWW2の影響も受けて「本物のフランス産モールスキン」は希少な存在となってしまいました。
1800年代後半〜1950年ごろ:モールスキン
1950年ごろ〜(産業の廃退やWW2の影響):コットンツイルなど廉価な生地
失われていく本物のモールスキン。しかし、使いこむほどに味わいを増していくその生地は、デニムのようにエイジングを伴い、所有する喜びと育てる楽しみに溢れた魅力的な生地です。
ここで一つの疑問が湧きました。それほど魅力を持つ生地でありながら、なぜデニム生地などは残り、モールスキンのワークウェアは減っていってしまったのでしょうか?
今回は、フレンチワークにも詳しい、LE TRAVAILLEUR GALLICEの代理店のTさんに、ブランドの魅力やフレンチワークに関する詳しいお話を伺うことができましたので、その疑問の回答とともにご紹介していこうと思います。
▲ウェアには証明書のようにLE TRAVAILLEUR GALLICEのステッカーが付属しています。サイズとカラーがスタンプで印字され、細かな点まで粋。
【モールスキンが希少な理由、その1】
ZUTTOスタッフ
「モールスキンについて調べていると、『サテン織』という言葉がよく見られたのですが、ワークウェアにサテン織りとは一体…?と疑問で。サテン織というとスカーフやスーツなどのドレスフォーマルウェアのイメージがあるんです。」
代理店 Tさん
「そうですね、LE TRAVAILLEUR GALLICEに使われているフレンチモールスキンは、『緯朱子(または裏朱子)』で織られているんです。これが英語で『サテン織り』です。フォーマルウェアで見られる光沢感と滑らかさが特徴の上品な生地ですね。確かに、ワークウェアに使われるというのは、現代では考えられない発想ではないでしょうか。」
▲サテン生地
代理店 Tさん
「なぜモールスキンがサテン織りなのかというと、厚みが出せる織り方だからというのが一つ。一般的な平織りに比べ、サテン織りは、緯糸を飛ばすことで経糸の密度を高めて、頑丈に厚手にも織ることもできます。製鉄所などで使われることが多かったモールスキンには、飛びかかる火の粉から身を守るべく、生地の打ち込みや厚みを重要視していたのかもしれないですね。
一方で、サテン生地に触れる時、爪などのわずかな引っかかりで糸が飛び出した経験のある方は少なくないと思います。これは、緯糸を多く飛ばしていることで糸に浮きが生まれ、摩擦に弱く引っかかりやすくなってしまうため。
そうはいっても、モールスキンはワークウェアです。ワーカーたちのタフな道具でなければなりません。そのため、モールスキンにはサテンの特徴である光沢や滑らかさを損なうことなく糸の浮きを減らすことができる「重ね朱子」と呼ばれる技法が用いられています。これによりサテンのデメリットである引っかかりや摩擦の弱さを軽減しつつ、より丈夫な生地を作り出すことができているのです。」
代理店 Tさん
「独特の光沢感については、フランスのおしゃれなワーカーたちが自信を持って働けるようにというこだわりも一つあったのかもしれませんね。重ね朱子織りでモールスキンを織るのは手間暇がかかるということもあって、数は黎明期に比べてぐんと少なくなりました。現在モールスキンを取り扱う生地屋さんはフランスに何社かありますが、多くは自社での機織りを行っていません。つまり、1からフランスで作られるモールスキンは非常に希少であるということ。
『フランス製』といわれるモールスキンには、海外で機織りをした生地をフランスで染色するなどのケースが多いのが実情なんです。」
【モールスキンが希少な理由、その2】
ZUTTOスタッフ
「なるほど…。フランスで機織りされるモールスキンそのものの数が減ってしまい、希少価値が高くなったというわけですね。」
代理店 Tさん
「希少価値を上げているのは実はそれだけじゃなくて、染め方にもあるんです。
LE TRAVAILLEUR GALLICEのモールスキンに施されているVAT染めは大変に堅牢度に優れます。色によっては染めづらく、高度な技術を必要とされる染め方なので染め代も高額となり、あまり多用されるものではないんですよ。
ところが、当時のフレンチワーカーたちにとっては、色落ちのするジャケットは程度の低いものであるという認識が強くありました。そのため、質の良いモールスキンにはVAT染めが用いられたそうです。いつまでも鮮やかな色を保ち続けるジャケットはワーカーたちの自慢の逸品でした。」
▲上は新品、下は3年愛用品。デニムのエイジングというと色落ちですが、VAT染めの施されたモールスキンは少し違います。新しいものよりも色味が深まり、そのおかげもあってかモールスキンらしい細かな毛羽の柔らかな光沢が引き立てられています。
【モールスキンが希少な理由、その3】
代理店 Tさん
「フランスの伝統的なジャケットを、フランスの伝統的な生地屋さんで機織りをし、染色をして、フランス人の手により製品に仕上げていく。当時当たり前だったこれらの工程を現在行う事は、非常に難しくなっています。」
ZUTTOスタッフ
「フランスで機織りされるモールスキンの数は、黎明期に比べると減ってしまったということですものね。染色まで高価となると、現代ではなかなか手間暇のかかることです。」
代理店 Tさん
「ワークウェアとしていうと、現代ではモールスキンの丈夫さに代わる廉価な生地を織る機械が増えたことも、減った理由のその一つかもしれません。どれだけモールスキンを織るのに手間暇がかかるかということだけでなく、需要の変化や戦争などにより昔ながらの織り機が失われ、現代においてはかつてのワーカーたちの自慢の品を新品として楽しめる機会はほとんどなくなってしまいました。
そんな中、LE TRAVAILLEUR GALLICEはかつてのフレンチワーカーの自慢の逸品といえるジャケットを再現すべく、フレンチワークウエアの歴史を支えてきた1867年創業の老舗生地メーカーと協力して、ものづくりを続けています。現在、ヴィンテージ市場に流通し高値で取引をされているモールスキンジャケットにも、この老舗メーカーの生地が多く使われている事でしょう。当時と同じサプライヤーが供給する生地を、気軽に新品の状態から楽しむ事ができるということは大変貴重でロマン溢れる話ではないでしょうか。」
さてさて、モールスキンの希少価値の高さがわかったところで、LE TRAVAILLEUR GALLICEの作るモールスキンジャケットのエイジングを実際に見ていきましょう。
ZUTTOで取り扱っている「TRADITIONAL WORKER」シリーズは、典型的なフレンチモールスキンのディテールを持ちつつ、ガリス独特の世界観も併せ持つモデル。
▲左:新品、右:代理店のTさんからお借りした3年愛用されたもの
こちらのカラーは「BLEU DE TRAVAIL」、フレンチワークの伝統的青色です。LE TRAVAILLEUR GALLICEでは、非常に美しい茄子紺をしており、これが大変人気です。青は汚れが目立ちにくく世界的に工場などで働く人の作業着としてよく選ばれてきました。アメリカではインディゴブルーのデニム、フランスではフレンチブルーのモールスキンといったところ。数年愛用してもなお綺麗な発色が続くのは、VAT染めならではです。
▲左:新品、右:3年愛用
愛用品には糸の周りの「パッカリング(縫製部分の縫い縮み)」によるアタリが格好良く現れているのがわかりますね。糸というと、LE TRAVAILLEUR GALLICEは縫製にも「古き良き」が現れています。まずはこちらの動画をご覧ください。
▲LE TRAVAILLEUR GALLICEの縫製は、職人の手で触れて縫製されています。
こちらは"BRAS DEPORTÉ" と呼ばれる古い巻縫いミシンなどを使用してウェアが縫製されていく様子です。昔ながらの機械を使っているということもあって味わいがあり、縫製部分からは70年代のモデルを彷彿とさせられます。
▲左:新品、右:3年愛用
愛用品に実際に触ってみると、生地の質感は全く別物のような柔らかさに変化していました。新品はハリのある丈夫な生地といった印象のモールスキンですが、3年愛用品はしなやかさが増し、肌に寄り添うしっとりとした質感に。これは着こなすのが楽しみになる変化ですね。
Tさんによると「3年の年月によりかなり表面の表情は豊かになってきていますが、ガリスの丈夫な生地にとってはまだまだこれからという状態」なのだそう。ガリスのモールスキンは今でもVAT染めを用いて染色されており、大変堅牢度の高いアイテムです。エイジングで色味が淡くなるジャケットはたくさんありますが、色味が増して深みが現れてきているのは注目したいポイントですね。
▲左:新品、右:3年愛用
山型シェイプのヘムを持つポケット。これは、70年代以前のモデルに見られるディテールで、ワークウエアがワークウエアとして美しかった時代のディテールを集約したデザインです。
▲左:新品、右:3年愛用
丸みを帯びた襟の形状はフレンチワークジャケットの代表的なディテールですが、LE TRAVAILLEUR GALLICEの襟はその雰囲気を崩すことなく、立ち上がりのある立体的な形状を持っています。
これは実際に着る上で、着こなしの幅を広げるポイントとなっているのだそう。フロントを開けて着ても、ボタンで止めてみても、どちらも様になる独特のデザインでありながら、古き良きフレンチワークのテイストが感じられるデザインです。
▲左:新品、右:3年愛用
袖のよく擦れる部分には細かい毛羽が。このエイジングもたまらないですね。
ところでお手入れは?と聞くと、「洗濯については全く気を使っていません。汚れたらジャブジャブ洗う。これが正解だと思います。当時のワーカーたちがそうだったように。」との回答をいただきました。こういったタフな着こなしができるのも、ワークウェアを着る醍醐味の一つです。当時のワーカーの暮らしに想いを馳せてみると、毎日このジャケットを着て働いて、汚れたらガシガシ洗って乾かしてをたくさん繰り返したことでしょう。そういった使用にも耐える、丈夫なフレンチワークを作る、LE TRAVAILLEUR GALLICEです。
こちらは、なんとなんと、50〜60年代ごろに作られたとされるLE TRAVAILLEUR GALLICEのジャケット。代理店さんが所蔵されている貴重なヴィンテージものをお借りしました。
約6、70年前に作られたモデルですが、新品と並べてみるとこの通り、違うディテールを探そうとするとまるで間違い探しですね。明らかな変化というと、生地の柔らかさです。育て上げたレザーのようにくったりと体に馴染む着心地。何十年もの間愛用され、それでもなおしっかりと綺麗に形を保つタフさは、さすがの一言です。
内側のポケットを見てみると、今も昔も変わらぬデザインのLE TRAVAILLEUR GALLICEのロゴが。昔ながらの伝統をどれだけ大切にしてきたか、よくわかります。
何百回(または何千回?)と開け閉めされてきたであろうボタンホール。綺麗な形を保ち、きちんと機能しています。
細かなほつれはお直ししながら。たくさん愛用されたであろう柔らかな生地感と、70年以上経っても変わらず古びない魅力。着倒して、細かいほつれはお直しして、それでもまだまだ現役であることを証明できるのは、さすがは古くから続く老舗ブランドのものづくりです。これから購入して自分だけのヴィンテージに育てたい方、一生物のアイテムを手にしたい方、ぜひLE TRAVAILLEUR GALLICEを選んでみてはいかがでしょうか。
◆愛用者の語る、LE TRAVAILLEUR GALLICEの良さ(代理店 Tさんより)
フランスのワークウエアはアメリカの物とはまた違った面白さがあると思います。
モールスキン一つをとってみても、質実剛健なアメリカのデニムとはまた違った観点から生み出されており、その当時の両国の主たる産業の違いや、ワークウエアに求められていた機能などにも相違がみられますし、また時代によって変わるディテール等もその時代背景を感じさせるものがあり楽しいものです。
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