お気に入りのニットセーターを1年ぶりにクローゼットから取り出すと
なんだか古い友達に再会したような嬉しい気持ちになる。
今夜は冷えそうという日も、バッグの中にウールストールが1枚入っていると安心できる。
そんな経験はありませんか。
化学繊維とはまた違う、まるで気心知れた友人のように
時とともに愛着が増していくのが天然由来繊維の良いところ。
今回取り上げるのは、ウール、カシミア、モヘアという秋冬に身近な天然繊維のお手入れ。
テキスタイルとしての共通点もたくさんあれば、
それぞれの繊維に特徴的な注意点、お手入れ方法もあります。
今シーズンも大切に使って、来年も再来年もとずっと一緒にいられるように、
天然繊維にまつわる知識を深めてみませんか。
【テキスタイルとしての天然繊維】
布地・生地のことを「テキスタイル(textile)」と呼びますが、
その語源はラテン語の「texture」という言葉。
現代でも「テクスチャー」といえば、ものの肌触りや手触りといった
表面の質感を表現する言葉として広く用いられていますが、
もともとは「織り物」を意味する言葉だったのです。
このテキスタイルにも実に様々な種類があり、
原料となる素材を「天然由来のもの」「人工のもの」という風に大別すると
「天然繊維」「化学繊維」と呼ぶことがあります。
テキスタイルの原料は多種多様。一様に天然繊維が良い、化学繊維が良いということではなく、
それぞれに特徴があり、長所・短所を見極めることで
「耐久性に優れ、使うほどに味わいを増すことを想定した製品には、この素材」
「例えば標高の高い雪山のような極寒の土地で人の命を守るための製品には、この素材」
といった具合に、テキスタイルの使い分けが生まれるのです。
今回ご紹介するのは、「ウール、カシミア、モヘア」という秋冬に恋しくなる3種。
まずは、動物性の天然繊維に共通の特徴を押さえましょう。
ウール、カシミア、モヘアともに動物の毛から繊維を取り出して糸を作り、
それを織り上げることでテキスタイルへと姿を変えるのですが、
一般的な動物性の天然繊維は、どれも繊維が短いため、バラバラの繊維を撚り合せて
長い1本の糸を作り出す作業が必要になります。これが「紡績」という工程です。
原料の種類によって繊維の長さや素材としての特徴も異なっている中で、
原料となる繊維を紡績して1本の糸を生み出す、それを織り上げて生地にするという基本的な構造は共通です。
また、特に獣毛由来の天然繊維は、繊維の間に効果的に空気を含み
外気を遮断することから、まるで「天然のエアコン」ともいうべき効果を発揮します。
厚手に織り上げたテキスタイルが多く製品化されているため、
こうした天然繊維は冬のものという風に認識しがちですが、
特にウールのような繊維は、織り方や生地の厚さ次第で春夏向けのニットや肌着にも利用されています。
カールした繊維の間に無数のエアポケットができるため熱がこもらず
常に体温を一定に保ってくれるため、高い通気性のおかげで汗が吸収され
肌はべたつかず、常に清潔な状態を保つことが出来るのです。
それでは、各素材の特徴とお手入れ方法をチェックしていきましょう。
【やっぱり、ウールが好き】
◇ウールの特徴:
・断熱性が高く、冬は暖かく夏は涼しい。
・吸湿性に優れる。
・弾力に優れてシワになりにくい。
・水に濡れると縮む。
・フェルト化する。
◇基本のお手入れ:
ウール自体が汚れ・水に強いため、それほどお手入れに神経質になる必要はありませんが、
セーター、ストール、ジャケットなど、着用したらその日のうちに洋服ブラシをかけるようにします。
これは「①ホコリなど、表面の汚れを払う②繊維の流れを整える」という2つの目的を果たすため。
どんな製品でも、1日着用すると他の衣類との擦れや
着用したことによるシルエットの変化が起こります。
ウールに限ったことではありませんが、本来と異なった状態のままで
繊維の流れを放置しておくと、毛玉の原因になる他、
シワが定着してしまう、型崩れが起きるなど様々な悪影響があるので要注意です。
ここで言う洋服ブラシとは、髪を梳かすヘアブラシのように
毛がしっかりと植えられた(コームではなく)ブラシ状のもの。
エチケットブラシと呼ばれるホコリ取りのブラシもよく見かけますが、
このタイプでは「繊維の流れを整える」という目的を果たすことができません。
【洋服ブラシの選び方】
洋服ブラシにも様々な種類がありますが、選ぶコツは
・自分の手にフィットするサイズ(力が均等に入るように。)
・動物毛(静電気が起こりにくいです。)
・素材に合った毛質(ウール&カシミア用を1本持っておくのがおすすめ。)
という3点。ブラシ自体も少々値が張りますが、ブラシ1本で
大切な衣類の寿命が変わるとなれば、やはりクローゼットに1本常備したいところ。
また、出張が多い方、お仕事でスーツを着用される方は
自宅用とは他に、コンパクトな持ち手なしのブラシを
スーツケースやオフィスのロッカーに常備しておくのもおすすめです。
【カシミアで感じる上質さ】
◇カシミアの特徴
・繊維の宝石と言われるほどの美しい光沢と滑らかな手触り。
・ウール同様、断熱性に優れる。
・繊維がしなやかで柔軟性に富む。
・繊維が非常に細く、デリケート。
◇基本のお手入れ
ウール同様、定期的なブラッシングを心がけることと、
シミ(汚れ)が付かないように気を配る。
カシミヤの日常的な使い方はこの2点に限るといっても過言ではありません。
というのも、カシミヤはウール以上に繊維が細くてデリケート。
ほわほわとした表面の繊維が絡み合ったまま放っておくと、
これが次第にピリング(毛玉)となり、表面の美しさを損なってしまいます。
また、カシミヤはドライクリーニングでのお手入れが基本となりますが、
石油系のクリーニングを必要以上に繰り返すと、
カシミヤの繊維が持っている油分を取り去ってしまうため、
これもかえって風合いを損ねる原因となります。
そのため、シミになるような汚れがつかないように細心の注意をはらうようにしましょう。
「気づかぬうちに、パスタのソースが飛んでシミになってしまった!」
「いつの間にか汗ジミが出来て素敵なカラーが台無しに!」
ということもありますので、
ストール、スカーフのように付け外しの出来るファッション小物であれば、
お食事中や汗を掻きやすい電車の中では外すように心がけた方が無難ですね。
日常的には汚れを防ぎながら丁寧にブラッシングし、
1シーズンに1度、ドライクリーニングをするというのがカシミヤ日常使いの基本となります。
【ふわふわ、もこもこといえば、モヘア】
◇モヘアの特徴
・アンゴラ山羊の毛から生み出される織物で、
子ヤギの毛は繊細で非常に柔らか。カシミヤにも近い手触り。
・弾力性、保温性に優れる。
・毛足が長く、抜けやすい、静電気が起きやすいという特徴がある。
◇基本のお手入れ
基本的なお手入れはウール、カシミアと共通ですが、
特にモヘアは「毛抜け」に注意する必要があります。
もともと、トルコ語で「最高の毛」を意味する言葉を由来に持つ、モヘア。
アンゴラ山羊は成長の過程で毛質が大きく変化していくため、
同じモヘアの中でも、「キッドモヘア」「ヤングゴート」「アダルトモヘア」等、
様々な呼び名が存在します。その中でも、生後6ヶ月の初めて剪毛する仔山羊の毛である
「キッドモヘア」はとても繊細な毛質。
この柔らかさを活かすために、あえて弱い力で紡績した(甘撚り)糸を使用していることも多いのです。
したがって、繊維がふわふわとしていて極上の肌触りを生み出すのですが、
生地自体はとても繊細なため、糸が抜けやすいという弱点があります。
モヘアの素材感を活かしたループ状の生地などは、特に繊細です。
ソックスやセーターなど、着脱の際は爪やアクセサリーに引っ掛けないように注意しましょう。
また、柔らかい毛ほど静電気が起きやすくなります。
静電気も毛が抜けやすくなる原因となりますので、
動物性繊維にも使用出来る静電気防止スプレーを使用すると繊維が落ち着き、長持ちします。
ウール、カシミア、モヘアにまるわるお話、いかがでしたか。
ばらばらだった繊維が糸になり、テキスタイルになり、
やがて様々な製品へと姿形を変えていく。
線が面になり、立体に造形されるという過程がすでに物語のようですが、
それは私たちが身にまとうことで完成していくように感じます。
服は消耗品であるという見方もありますが、
ちょっとした知識と丁寧な気遣いさえあれば、
もっともっと長く愛用出来るのかもしれません。
ふわふわの肌触りと一緒に、素敵な冬をお過ごしください。
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