Reports 002 世紀をこえて、使えるものをつくる家具職人
週末、MOGU-KAGUという家具工房にオジャマしてきました。主宰されている森田さんは、宮内庁や国会の椅子を作った経験もある家具職人。 相応の年齢の職人さんを想像をしていたら、現れた実際 の工房の主人は、気さくで肩の力の抜けた好青年。 お話を伺ってみると家具とその素材の無垢には、なみなみならぬ思いをお持ちでした。
お話を聞かせてくれた人
MOGU-KAGU
家具職人/家具デザイナー 森田 貢 さん
◇MOGU-KAGU(モグカグ)
家具職人でありデザイナーでもある森田貢さん。 自身の名前をヒントに名付けられたMOGU-KAGUは、無垢の木をメインに使ったオリジナル家具工房です。環境にも配慮され、家具製作の工程で余る端材は無駄なく雑貨や小物に使われています。 また、自然にも人にも優しい家具をと、家具製作の工程で生まれる端材の利用や自然塗料をメインに使われ ています。◇インタビュー
Q1.いつ頃から、家具職人を目指そうと思われたのですか?
森田さん、緑あふれる工房からラフな姿でお出迎え。 小学生のころ、意識してなくても、絵画などで表彰されたりしてしました、自慢じゃないですよ(笑)その頃から、何かを作っていくことに興味はあったかもしれません。 でも、将来の夢には家具職人どころか、ものを作るという職業すら選択肢になくて、ひたすらテニスに明け暮れていた中学、高校の頃は、実業団に入ってテニスでご飯を食べていきたいと思っていました。 それが残念ながら、自分の限界がわかって、思い出したように担任がすすめていた美術系の専門学校にはいって、ようやく、ものを作るという職業を選択肢として考えるようになりました。 そういえば、当時は、照明器具のデザイナーになりたかったですね。
Q2.それが、なぜ家具職人になられたのでしょうか。
感動!クラブアームチェア
が作られていました。
きっかけは、学校を卒業したあとに、家具メーカーに入社して設計課に配属されたことかもしれません。 夢だった照明器具メーカーの仕事よりもなぜか、こちらのほうに惹かれました。
入社してからは、3年間、椅子の設計一辺倒でした。 設計の仕事を一通り覚えてから、自分が設計した椅子がどのように作られて、使われているか分からないまま、設計し続けることに消化できない自分がいて、実際に最後まで責任を持ったものづくり、一つの椅子を作りたいという欲求につながりました。
その欲求が抑えられなくなって、とうとう、都内の特注家具会社に入社して、そこで家具づくりを一から学ぶことにしました。 会社といっても、いまだに徒弟制度の息づく職人の集まりで、とても厳しい世界でした。 ですが、それと同様に素晴らしい技術を持った一流の職人が集う場でもありました。 その頃の、椅子職人として宮内庁や国会など、さまざまな椅子製作に携わった経験は何ものにも変えられない宝ものです。
「もしかしたら、戦前の機械もあるかも。」
「カンナは材料の状態で、使い分けしてます。」
MOGU-KAGUの焼印は、木が新たな生き方を見つけた証。
Q3.MOGU-KAGUをはじめようと思ったのはいつ頃でしょうか。
ため息がもれる、 MOGU-KAGUのオフィス兼ショールーム。
森田さんの宝物。大切な仲間たちからの応援メッセージ。
特注家具会社は、デザインというよりも技術を研鑽する場でした。 そこで腰を痛めた時期があったこともあり、これからのことを改めて見つめ直した時、デザインもやりたいという思いもあったので、前の職場に転職することにしました。
そこでは、家具のコンペがあったんです。 コンペでは、デザインから製作、販売価格まで、すべて自身で行います。 社内だけでなく、お客さまにもダイレクトに評価されるコンペは衝撃的でした。
私の場合、製品化になることは残念ながらありませんでした、でも、社長賞やファクトリースタッフ賞などを頂き、社内ではうけが良かったみたいです(笑)。
MOGU-KAGUを始めようと思ったのは、その頃からです。
自分で、想像したものが作れるようになったとき、一生に一度くらい自分で作ったものを自分で販売してみたいと思ったのがはじまりです。 実際に、MOGU-KAGUをはじめる時はとても勇気がいりました。
でも、会社のみなさんがあたたかく送りだしてくれ、思い思いのメッセージを書いた自分の名刺を、わざわざ作ってくれた特製の名刺入れにおさめて祝福してくれたのは、うれしかったですし、力になりましたね。
今では、額に入れて大切にしています。
ちなみに、MOGU-KAGUの『モグ』とは、これは自分の名前をヒントに、なにか皆さんに親しみを持ってもらえたらと考えたものです。
Q4.MOGU-KAGUの家具作りで、心がけていることを教えてください。
定番チェストの上に、カットボードなどの新作発見! 『お客さんありき』で考えていることです。 見た目の美しさももちろんですが、椅子で言えば座った時に掛け心地の良さに、はっとしたり、チェストの抽き出しを引いた時、想像以上に動きがスムーズだったり、と家具として大切なのは、使い勝手であったり、使い心地です。そうした配慮を忘れないことが、ずっと使える、ぬくもりのある家具を作りだすと信じています。 もちろん、ぬくもりを感じてもらえるためにも素材には自然なものを使って仕上げは、無公害で人にも優しい植物性オイルやワックスを使っています。 家具はいつも身近にありますから、安心感が大切だと思っています。
Q5.MOGU-KAGUでは、素材や環境にかける思いが強いそうですね。
ケアの仕方を、丁寧に教えてくれてる森田さん。
MOGU-KAGUでは、無垢を素材に使っています。 僕自身が、無垢が好きなこともありますが、その理由は丈夫で、ケアさえ忘れなければ木が永い年月を経て育った時間と同様、長ければ世紀をこえて使い続けることが出来るというところです。ですから、端材も一片一片大切にしています。 おがくずについても、工房の大家さんの畑の肥料にしていただいてます。
ずっと使い続けるというコンセプトは、ZUTTOさんと同じですね。 ZUTTOさんで、ご紹介していただいている端材で作ったキートレーやコースターも、ケア次第できっと孫の代まで使っていただけると思います。 普段のケアも難しいことはありません、紙やすりを少しかけたり、オイルを塗る程度です。
Q6.これからの夢とみなさんへのメッセージをお願いします。
ステキな机で、新しいアイデアを考えるそう。うらやましい。 世界中にたくさんある家具の中で、記憶のどこかに刻まれる魅力ある家具を作ること。 時代を超えて愛され、愛用されるもの作りを続けていきたいです。 そして、今日も作っているこの家具とまたお互い年を取った頃、元気な姿で出会いたいですね。 みなさんのお子さんやお孫さんから、この家具たちのメンテナンスの依頼が来る日も楽しみにしています。
◇取材後記
玄関口をホウキをはきながら、私たちを待っていただいた森田さん。 とても、きさくな方で、取材内容に関係ない話のほうが多かったぐらいです。 お休みということもあって、ラフな格好で現れた森田さんに、作業風景を見たいと無理をお願いしても、気軽に応じていただきました。「いつもは、ちゃんとした作業着を着てるんですよ。」といいながらの機械操作やカンナ削り。 本物の職人がそこにいました。
工房は、予約すれば見学可。
壁も床も自身で作られたショールームは必見です!是非、遊びに行かれることをオススメします。
◇MOGU-KAGU
http://mogu-kagu.com/
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