Reports 009 社会をボール市場から動かすことに挑むチーム
幼い頃からサッカーに明け暮れていたサッカー少年な一面と、大学時代にはすでに会社で働いていた実業家な一面を持つ倉林代表。商品探しのために世界中を周っていた倉林さんがサッカー・フットサルボールブランドを立ち上げるきっかけとなったのは1枚の新聞記事でした。世界有数のサッカーボール生産国パキスタンでは、安い賃金で子供たちが働かされているという現実。
パキスタンに飛んでフェアトレードのボールの輸入を開始したお話から、今までになく楽しいデザインを作ることにつ
いてまで、「意味」のある商品づくりにかける思いを伺って
きました。
■お話を聞かせてくれた人
株式会社 イミオ 代表取締役社長/倉林 啓士郎さま
株式会社 イミオ 営業部マネージャー/板倉 勝敏さま
◇SFIDA(スフィーダ)
サッカーを愛してやまない元少年たちによって立ち上げられた、サッカー・フットサルボールブランド。SFIDAはイタリア語で「挑戦」を意味するのだそうです。 世界一のサッカーボール生産国パキスタンには、貧しさゆえに学校に行けず、日々ボールを縫う労働に子供たちが従事しているという現状があります。SFIDAはそんな問題を少しでも解決しようと、挑戦を続けているのです。Q1.SFIDAブランド立ち上げのきっかけをお聞かせください。
社内にはZUTTOでも扱っているSMILEやFootball-Zooも並んでいました。それ以外にこんなボールあり?というような試作品も飾ってあって、とてもにぎやかな雰囲気です。
2003年に、新聞記事でフェアトレードのこと、そしてパキスタンのサッカーボール縫製における児童労働について知りました。もともと私はサッカーをやっていたので、サッカーボールを取り巻く現状を知り、関わっていきたいと思いました。そしてサッカーボールを作ろう、せっかく作るなら児童労働の問題がないものがいいと思ったのがきっかけです。それから実際にパキスタンへ行き、現地工場を視察したり、交渉をしたりして、時間をかけて思いを伝えました。
Q2.パキスタンでは自社工場を構えていらっしゃるのでしょうか?
パキスタンのボール工場の一風景。芝生が生い茂っていて、まるで公園のようです。働いている人たちが気持ちのいい笑顔をしています。 いえ、自社ではなく委託生産です。パキスタンには数多くのサッカーボール生産工場があるのですが、当時ILOの基準を満たした認定を受けていたのは3社だけでした。そのうちの1つで現在も生産しています。裁断などをする工場内では200人近くが働いています。それに加え、外部で縫製をする人々は契約で2000~3000人はいるのではないでしょうか。彼らは普段は農業で生計を立てていて、刈り入れの時期などが終わるとサッカーボールの縫製の仕事に就きます。
Q3.ILOの視察を定期的に受けている工場とのことですが、その視察によって何か改善されている点はありますか?
ボールの縫製は、熟練の技が必要な力仕事。手縫いボールの質の良さは世界に認められていますが、大人でも丸1日かけて縫えるボールは3個程度という過酷な作業です。
ILOの視察は抜き打ちで行なわれ、多いときは年に10回も受けているようです。労働環境や児童労働をチェックするのですが、この視察をパスし、認定を受けたということは、工場にとって外資企業などへの良いアピールになります。なので今では、児童労働をなくすことが町を上げて盛んになってきているのです。
児童労働は、工場で行う裁断過程ではなく、工場の外での縫製過程で起こっています。そのため実態がなかなか把握しづらいのですが、それを改善するために、工場内に縫製専用の作業場を設けるという新しい試みが出てきています。また、女性も働けるように女性専用の作業場を別の階に設けたり、託児所を設置したりしているそうです。
(イスラム国家では男性のいる場で女性が働くことを認めない国も多いのです。)
Q4.ボールへのこだわりについてお聞かせください。
まず、パキスタン製手縫いボールは品質がとても優れています。手縫いボールは高級品ですが、機械で縫われたものよりも格段に蹴りやすいのです。パキスタンには、「日本と文化が全く違う」、「政情が不安定」というリスクもありますが、工場の方々との人間関係、信頼関係が築けているので今後もパキスタンでボールを作っていきたいと思います。
デザインに対するこだわりもあり、デザインは社内で行っていますが、やはり新しいことをしていかなくては意味がないと考えています。今までにないデザインとコンセプトで企画を立て、お客様に喜んで頂きたいのです。
Q5.ボールをメッセージ性のあるもの、さらにはインテリアとしてとらえた理由は何だったのでしょうか。
こんなボールを誰かに贈られたら、嬉しいし、とても楽しい気持ちになれそうです。SFIDAでは蹴るためだけのボールではなく、その人のライフスタイルに響くボールが生み出されています。
新しいデザイン、面白いデザインを探しているうちに、偶然そういった方向性のものが出来上がっていました。そしてそのうちスポーツ用品店だけでなくインテリアショップにも置いて頂けるようになったのです。
実際にサッカーをしない人でもサッカーファンは多いですよね。そういう人達に受け入れられたのでしょうか。今後もボールを主軸に、スポーツ用品や雑貨、さらにはライフスタイルも提案していければと思っています。
Q6.パキスタンの児童労働についてどのようにお考えでしょうか。
子どもにはやっぱり笑顔が一番似合います。パキスタンの子ども達が、過酷な労働などせずに学校に通えて、そしてサッカーボールを蹴って遊べるようになるようにと、SFIDAは児童労働問題に立ち向かっているのです。
パキスタンに限らず、児童労働は世界中で起こっている問題だと思います。児童労働は問題の一部に過ぎず、その根本にあるのは貧困問題です。世界の平和を考えたら改善していかなくてはいけないことですよね。
世界各地で見られる児童労働の中でも、サッカーボールの生産現場におけるそれは早くに改善され始めているほうではないでしょうか。世界のサッカー人口が多いので、注目が集まりやすいことが追い風になっているのです。なので、今後アパレルなど別の産業での児童労働改善のロールモデルになれるのではないかと感じています。
児童労働は、『なくそう』と思うだけでなくなるものではありません。産業自体を盛り上げ、きちんと利益を出しながら改善していくべき問題だと思います。
Q7.では、今後の夢や挑戦についてお聞かせください。
SFIDAのボールが街中で見られるようになったときには、地球の裏側の国に生きる子ども達が、今よりもっと笑顔になっているのでしょう。 まず、現在フットサルボールを中心に販売しているので、今後そのシェアを獲得すること、そしてサッカーボールでのシェアも拡大していきたいです。大手サッカーボールブランドへの挑戦ですね。また、ものづくりだけでなく、環境づくりや子供たちの教育などにも協力していきたいと考えています。
そしていつか、街中や公園で蹴られているボールすべてがSFIDAボールになる日がくるといいですね。一番の目標は、ワールドカップの公式戦で、SFIDAブランドのボールが使われるようになることです!
◇用語の解説
- ・フェアトレード(Fair trade)
発展途上国の製品や原料を適正な価格で輸入・販売すること。貧困のない、公正で平等な社会をつくるための考え方です。発展途上国の農村部や都市スラムに住む人々に良い労働条件を与え、適正な賃金を保障します。
- ・児童労働
現在、世界中で約2億4600万人の子供たちが児童労働に従事しています。児童労働とは、原則15歳未満の子供が大人のように働く労働のことを指します。例えば、強制労働、債務奴隷、少年兵、買春などに従事していること。主に発展途上国で見られ、全体の約6割がアジアに集中していますが、先進国でも約250万人の子供が従事しています。
- ・ILO(国際労働機関)
世界中の労働者の労働条件、環境、生活水準の改善を目的とする国際機関です。現在181ヶ国が加盟しており、具体的な国際労働基準の制定を進めています。女性の雇用や児童労働、そして人権保障についても力を注いでいます。
◇取材後記
サッカーボールをインテリアとしてデザインしていることと、児童労働問題を解決するためのボール作りをしていること。
お話を伺う前は、そのふたつがうまく繋がらないでいました。けれども実際に取材に行ってみたら、少し答えが見えた気がします。つまりはきっと、サッカーがお好きなのだろうなと、そう思わされる熱い思いが伝わってきたのです。
ファンタジスタたちが華麗なプレイを見せる、ワールドカップなどの公式試合に欠かせない手縫いのボールは、子ども達が学校にも行かずに過酷な労働に従事することで支えられている。サッカーで育ってきた少年たちは、サッカーを本当に愛しているからこそ、そんな暗部に目を向けたのでしょう。そして自分たちにとって楽しいやり方でかつ、世界中のサッカーを愛する人たちにとって面白くて新しいものを追求しながら、賢くて豊かなライフスタイルを提案して下さっているように思うのです。
「SFIDAのボールがワールドカップの仕様球になること」が一番の夢で、実現できないことじゃないとおっしゃっていたおふたりからは、少年のように純粋な気持ちと先を見続ける力を感じました。そして、私も本当にそうなるんじゃないかと思えてきました。
2018年のサッカーワールドカップで、世界の一流選手が蹴っているボールが笑顔のボール「SMILE」だったら素敵ですね。
◇SFIDA(スフィーダ)
http://www.sfidasports.com/
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