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Reports 008 マニュファクチャーが拓く、人と自然に賢い暮らし

素材を通して日々を見つめる。


ネパールのパーマカルチャー農場生まれの蜜蝋リップクリーム、新鮮なオリーブオイルで手作りする石鹸、いずれも素材が持つ力が最大限に引き出された商品たちです。できるだけシンプルに素材を生かすことには、とても大切なメッセージが込められていました。今回はマニュファクチャー(小規模手作り製造)の可能性を提唱し続けるnaiad(ナイアード)さんに、旅と素材との出会い、そして商品作りへの思いについてお話を伺ってきました。

■お話を聞かせてくれた人
株式会社 naiad/武元 秀恭さま

◇naiad(ナイアード)

自然素材を対象としたマニュファクチャーを行い、商品開発にとりくむ会社。 小規模で伝統的なものを大切にして、それに新しい命を吹き込んだ商品を提案しています。心にも身体にも環境にも優しい、自然な生活のためになるものたちを、現地の人々と共同で企画・生産し、 「生活をデザインする力」の重要性を発信し続けています。

インタビュー

Q1.なぜモロッコで商品探しを始めたのですか?

アルガンの樹にヤギが登り、実と葉を食べる様子。一年を通して実をつけるアルガンは人にもヤギにも恵みを与えます。 アルガンの樹にヤギが登り、実と葉を食べる様子。一年を通して実をつけるアルガンは人にもヤギにも恵みを与えます。
先代がアジアや南米などを扱う旅行会社だったために、旅としてモロッコに足を運んだのが最初になります。 旅をしている中で、閉鎖的な社会に根付いた、その地域特有の素材を生かしたスキンケアやヘアケアがあることを知りました。 そういったものは旅で出会った人から紹介されたり、市場で並べられているのを目にしたりするうちに、自然と気になるようになっていったのです。

人々の生活に密着していると言うことは、安心できるものであると言うことだと考えています。しかし昔から使われてきたものは、例えばマスメディアの浸透と共に、徐々に軽視されがちになります。それはとてももったいないことです。なので、商品の背景がストーリー的に面白く、かつ現在でも使われていて生活に浸透しているものを選び、日本に紹介していこうと思ったのが、商品探しのきっかけになります。

良いガスールを見つけるのには、伝統を守り続けてきた鉱夫の審美眼とプライドが不可欠です。 良いガスールを見つけるのには、伝統を守り続けてきた鉱夫の審美眼とプライドが不可欠です。
閉鎖的な社会であるだけに苦労したこともあります。原石のガスールは家庭や市場でよく見かけますし、それぞれの家庭の使用レシピがあるほど日々の生活と切り離せないものです。しかし、採取できる鉱山は非常にクローズドで、中に入れてもらうのにもなかなか許可が下りなかったのです。けれども辛抱強く粘り、ガスールという素材の力を信じる思いを伝えた結果、扱わせてもらえるようになりました。

Q2.日本人にとって馴染みの薄い素材が人々の生活に根付いているのですね。モロッコとはどのような国なのですか?

アルガンの森の向こうに霞むアトラス山脈。乾燥した大地と、頂に雪を冠った山が、この国の多様な自然と素材を象徴しています。 アルガンの森の向こうに霞むアトラス山脈。乾燥した大地と、頂に雪を冠った山が、この国の多様な自然と素材を象徴しています。 イスラム国家で、資源大国ではなく、石油に頼っていない国ですが、素朴な商品が多く、バラやハーブなどの素材大国です。 素材が良くて貴重なものも多いいこと、また自然がすばらしいことから、拠点をモロッコに置きました。

たとえばアルガンクリームはアルガンの樹のオイルからできるのですが、そのアルガンはモロッコとカナリア諸島にしか自生していません。 アルガンオイルは紫外線が強く乾燥しやすいこの地域では、古くから肌を守るオイルとして使われてきました。

しかしアルガンの樹が乾燥しやすく固いために、燃料などとして使う目的で伐採されてきました。アルガンは地下30mまで根を張って地下水を吸い上げてくれるので、地下水面が上昇し、他の植物も育ちやすくなります。しかし、伐採によってアルガンの樹が減ったことにより、砂漠化が進行してしまっているのです。

Q3.イスラム国家でしばしば問題にされる、女性の自立についてどのようにお考えですか?

アルガンの実の持つ力をすべて知っているのは、この誇りある仕事を行う彼女たちだけなのかもしれないと思いました。 アルガンの実の持つ力をすべて知っているのは、この誇りある仕事を行う彼女たちだけなのかもしれないと思いました。
イスラム国家では女性は服装を制限され、顔を出すことも許されません。とくに未亡人になり何の身よりもなくなると、働き口もないのだそうです。

そこで、モロッコの自然を守りつつ、女性の自立を支援するという目的のもとコーポラティブ・アマル(ベルベル語で希望)などのグループが誕生しました。自然保護のためにアルガンの樹を植え、落ちた実を拾ってオイルにし、それをマーケットで売るという流れを作ることによって、自然保護に貢献すると共に、女性に仕事を与えることが出来るようになりました。 そういった自然保護と女性の自立支援の循環に共感し、そこから生まれる質の良いオイルを使用させてもらっています。

Q4.生活をデザインする力を身につけることを提案されていますが、これについてお聞かせください。

ニュージーランドの大自然。野の花にミツバチたちが戯れているのです。
ヒマラヤ山脈を臨む「はなのいえ」は、パーマカルチャー農場に併設された宿泊施設。ここでミツロウのリップクリームが作られています。
自分たちが発信するものが、誰かにとって何かのきっかけになり、生活に対する意識変化が喚起されることがあればという思いでいます。

たとえばアルガンの実を例に取ると、こちらから商品情報や素材の情報を発信することによって、その背景にある環境にも目が行くようになるでしょう。手にした人が日々の生活の幅や広さを再認してくれることによって、閉鎖的でない、外との繋がりのある生活になっていくと思うのです。

アルガンの実の持つ力をすべて知っているのは、この誇りある仕事を行う彼女たちだけなのかもしれないと思いました。 複数の種類を混在させる ベジタブルガーデン。どの季節にもそれぞれの野菜の花が咲き、収穫時期があります。
環境デザインのモデルとしては、ネパールに「はなのいえ」という宿泊施設を作っています。

昔からの農法を排除し、土地を疲弊させてしまう近代的な農法に頼らず、パーマカルチャーという人間と自然がより良く共存しつづけられるような、環境をデザインする技法を実践しています。

たとえば、異種の野菜を一緒に植えると、お互いが害虫を寄せ付けない作用を働かせるために、健康な野菜が育てることができます。また耕作を行う水牛の排泄物を発酵槽に溜め、発生するメタンガスを燃料として使うバイオガスシステムを取り入れています。

自然に影響の少ない方法で生活することもできるのに、なぜ薬や化学物質に頼った生活を選ぶのか…より自然に対して負荷のかからない生活のデザインの提案をしているところです。

Q5.マニュファクチャーへの思いをお聞かせください。

ニュージーランドの大自然。野の花にミツバチたちが戯れているのです。
ヒマラヤ山脈を臨む「はなのいえ」は、パーマカルチャー農場に併設された宿泊施設。ここでミツロウのリップクリームが作られています。
人に使ってもらいたいものを作り、使う人のこと、人がそれを使うことを考えてものづくりをしなくてはならないと思っています。

手で作れば出来る量は減ります。しかし手仕事は環境に対してローインパクトで、広がりがあり、そして携わる人を捨てません。 また手作りならではの味わいのある誤差は想像力を高め、人の脳や肌を刺激し、気持ちを喚起してくれるのです。

原材料が自然な状態で出来る量を守り、そしてどのくらいの人が製品を使ってくれるかを環境と相談して、出来るだけローインパクトに成長していくことが、マニュファクチャーに求められると思っています。

また、原材料の情報を発信していくことによって、使用者が興味を抱き、自分で作ってみようかという気になってくれることもあるでしょう。 現状ではモノができる過程が不明瞭で、原材料までの距離がとても遠い。モノは単純な方法で作られているのが一番なはずです。

自分で作ったものが一番安心できて安全なものになります。そして生産を他人に任せきりにしなければ過剰供給に陥ることもなくなるでしょう。 自分の子どもや家族に使ってもらうものくらい、自分で作れたらいいと思いませんか?けれども自分で作ることができないのなら、賢い選択をしなくてはならないのです。賢い選択肢を作るのが、マニュファクチャーの勤めなのです。

◇取材後記

naiadさんの会社に伺った時間はちょうど休憩の時間でした。 到着してまず目に入ってきたのはスタッフの方々が思い思いに休んでいらっしゃる様子。 皆さん外でのんびりされていて、お茶を飲んだり、整体をしてもらっていたりと、1日中オフィス内にこもりきりで椅子に座りっぱなしであることが多い私には、その光景は刺激的すぎました。なんてうらやましい環境! 取材も風の吹く屋外で行われ、その辺で仕事に使われていたような木製の机とキャスターつきの事務的な椅子という組み合わせが、なんとも気持ちいい自由さを醸し出していました。

お話の中で強く心に刺さったのは、「体の部位ごと、性別ごと、用途ごとに分かれた機能的なスキンケア」を目指すことに対する反論でした。人は自分で手に入れたものについて、自分自身で使い方を考え、選び取っていくものであり、与えられたものを指示されたとおりに使うようではいけないという言葉は、素材の持つ本来の力を知っているからこそ、そして信じている方であるからこそ言えるのだと感じました。物に支配されるのではなく、自分の判断で生活を作り上げていくという考えは、生きるということ全般に当てはまる考え方なのでしょう。

ふと周りを見渡してみて、原材料の出所が判っているものなんて、私にはひとつとしてありません。強いて言えば自分自身くらい。怖いことだなと思います。

できるだけ多くの情報を消費者に提供し、自分自身で生活をデザインすることを提案するnaiadさん。その現場には、のどかな午後の休憩の楽しみ方を知っている人々によって支えられていました。

◇naiad(ナイアード)
http://www.naiad.co.jp/


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